S2000オーナーがS660に試乗して落胆した話
2015.05.18何を隠そう、私のことですが、先日期待の新星、ホンダS660に念願かなって試乗できました。しかし期待が高過ぎてその落胆ぷりもすごく、落ち込んでます。
落ち込んだ気分でFacebookに書き込んだメモがこちら。
S660 CVTに試乗したけど、余りものつまらなさに呆然としてるなう
・S660 CVTに試乗したけど、余りものつまらなさに呆然としてるなう。
・ファン(楽しい)かもしれ無いけど、ノーアドレナリン
・ブレーキは良かった。
・デザインもいいし、低い着座位置もいい。
・ボディも安心感あるし、乗り心地もいい
・エンジンが問題、といわれた理由は分かりました。
・同じ250万円なら中古のS2000買った方がいい。
・CVTでパドルシフトしてみたけど、面白くともなんともないし、SPORTボタンを押すとインジケータが赤くなるけど、別に速くなった感じもしない。
・ビートの方が面白い。それが問題。
・ホンダもホンダでSとかいうから期待したじゃないか。ビートっていっときゃいいのになあ。
・ユーザー層とのミスマッチ。このS660はどうみてもオレタチ、がちでオレがターゲットユーザーのはずだけど、そのガチオレにとっては物足りない、ていうか、全然足りてない。逆にこれで満足できるライトなユーザーにとっては、ユーティリティの問題がハードル、コアすぎ。
・エンジンだけの問題じゃない
・6MTで印象が変わるとも思えない
・オーバークオリティなシャーシと、オーバースペックなタイヤと、アンダーパワーなエンジンの織りなす不協和音。
・乗り手を選ぶ、素人お断り、カミソリの乗り味、ではない。万人向け。
・86/BRZがユルスボで落胆したのと逆の現象。
・日本人はイタリア人になれなかった(アルファロメオと比較して)
なお、私のホンダ歴は以下の通り。
バイク
1987~1988 MBX50、AX-1自動車
1993~1997 GA2 シティ CZ-i, GA2 シティ CR-i(2台)
1997~1997 EF8 CR-X SiR
1997~2003 EK9 シビック Type R (2台)
2003~2008 RB1 オデッセイ
2002~現在 AP1 S2000 (廃車になるほどの事故後、修理・完全復活)
今回ホンダファン、Sファンの私がこれほどまでがっかりした原因を探ってみたいと思います。
エンジンの問題
良くも悪くもホンダSシリーズのハイライトはエンジンにありました。最初のS500/600/800にしても、S2000にしても高回転高出力、ピーキーなエンジンとカミソリのようなコーナリングと際立っています。
Honda | クルマ製品アーカイブ 「S500 / S600 / S800」
ところがこのS660、最初 EV STERと電気自動車のコンセプトカーとして出てきたように、パワーユニットについては発売されるまで二転三転したようです。最後までS1000の存在や自主規制64馬力を越える80馬力や100馬力で出るという噂が絶えなかったものの、最終的には昨今の多発するリコール事情で国土交通省がウンと言わなかった、と本当かうそか知りませんけど結果的には何の変哲もない普通の軽自動車のエンジンとなりました。
ベースエンジンはN-WGNですからね。
人貨を運ぶクルマのエンジンですよ。
S660に載せるにあたり色々とやってはいるようですが...正直小手先にすぎません。パワーに上限がある以上どうやっても頭打ちですし、そもそも最大の問題はそのアクセルレスポンスが皆無ということです。
いわゆるアクセルのツキ。
CVTモデルだからというのもあるでしょうが、アクセルに敏感に反応してクルマが前に進む、という反応が感じられません。いつまでもボーーーボーーーーといっててふと気付くとスピードが乗っているという状態。
パドルシフトしてもその段階も曖昧で、フラットトルクだからどのギアでも変わらないじゃない、という状態です。ただこれは軽自動車のCVTのマニュアルシフトで大体似たようなもの。ようは660cc/64馬力という上限があってはどんなに刻んでも仕方ないということです。
SPORTボタンを押すとメーターが赤くなりやる気がでる、という話ですけどそれも見かけ倒し。何が変わったのかまったく分かりませんでした。
タイヤの問題
エンジンがつまらなければ、もっとつまらないのはハンドリング。制限速度内、街中で走ってもちっとも面白みがないのです。
確かにハンドルはクイックで、切っただけ曲がります。すごいスポーティな感じがします。Uターンで無理やりハンドル切って、アクセルを全開にしてもアンダーもオーバーも出ないで立ち上がっていきます。これは凄い、よく曲がる!・・・
ってちょっと待て。
無理にハンドル切ればアンダーが、無理にアクセルを踏めばオーバーになるのがミッドシップ後輪駆動の「当たり前」でしょう。その当たり前がないんです。つまりドライバーが操作しているのではなく、クルマが動かしているだけ。人馬一体感ゼロ、ドライバーすらお客さんなんですよ。ハイテク電子制御にのせられているだけです。
このつまらないハンドリングを支えているのが、オーバーサイズでハイグリップのアドバンネオバ。いいですか、アドバンネオバって誰もが羨むハイグリップタイヤの最高峰ですよ、それ以上のパフォーマンスを求めると五月蠅くて排水性の悪いサーキット・競技用のSタイヤしかなくなります。
カッコイイデザインなのに、はみタイヤ対策に妙なポッチをつけていることから、明らかにこのタイヤサイズが「後だしジャンケン」ってことが分かります。つまり、最初はもう少し細いタイヤ、175か185あたりで検討していたのに、最後の最後にやっぱ195ね、と太くしたことが伺えます。
西川善司さんの「車雑誌には載っていないS660購入ガイド」【ワンダードライビング】駆動輪となるS660の後輪は幅195mmの軽自動車としてはワイドなタイヤを履いています。そしてわずかながらネガティブキャンバーがついているのですが、このタイヤがタイヤハウスからわずかにはみ出てしまっていることが後から判明したために、保安基準が満たせないことになってしまいました。そこで、苦肉の策として、後輪フェンダーにベロのようなゴムパーツを付加して、はみ出た後輪を付け焼き刃的に隠すことになったというのです。
そしてハイグリップタイヤのアドバンネオバ装着ですからね。よっぽどリアを出したくないのでしょう。
Honda | Technology | 挙動の安定化と走りの楽しさの両立をめざす。HondaのVSA - ヒヤリとする万一の場面
最近の車両なのでVSA(TRC, EBD付きABS)といった車両安定装置は当然標準装備※。
※修正・追記:VSA/TRCの部分解除方法。VSAテストモード起動(起動方法は不明)をすると完全解除できるとのご指摘がありました。
スポーツカーとはそもそもドライバーの技量を走りを反映するもの。上手いひとは上手く、下手なひとは下手なりに。
自動車との対話がないんですよ。アクセルにしても、ハンドルにしても。前輪にしても、後輪にしてもタイヤグリップを探りながら、
私「どう、まだいける?」
車「まだいけるよ」
私「タイヤが泣き始めた、そろそろヤバイよね、よね?」
車「ヤバイにきまってるだろ、この下手くそ! もっと手前で制御しろよ」
私「済みません」
という感じで、一気にタイヤグリップの限界を越えるわけではなく、過渡領域での探り合い、クルマとの対話が楽しいのです。
ところがこのS660ときたら、
私「どう、まだいける?」
S660「・・・(危ないので、内輪にブレーキをかけときました。内緒で)」
私「これ、アクセル踏み過ぎだよね、リア出そうだよね」
S660「・・・(危ないので、スロットルを絞っておきました。内緒で)」
と、対話ゼロ。
LSDがオプションでも用意されていないことを問題視していましたが、それ以前の問題でした。
ミッドシップなのにアンダーもオーバーもない、オンザレールで対話もないなら電車に乗っている方がマシです。
コンセプト、商品性の問題
EV STERからS660になるまでに社内で議論があったようです。それは「ユルスポ(緩くオープンを楽しむスポーツ)」か「カツスポ(カツいスポーツ)」か。
「ユルスポ」推進派はビート後継、どうせ64馬力なんだからオープンエアを気軽に楽しもうよ、というコンセプト。
一方「カツスポ」派はガチでスポーツカーを作ろう、どうせなら軽自動車枠にこだわらず、本格スポーツカーを作る、というコンセプト。
「ビート」ではなくホンダS、「S660」となったことで「カツスポ」路線になったことは明確ですが、パワーユニットは前述のようにモーターから100馬力エンジン、結局軽自動車の上限64馬力となり、シュンとしてしまいました。
パワーユニットってそんなに安易にかえていいんですかね。
ホンダのエンジンって、そんなに軽いものだったんですかね。
そんなはずはない、もっともっと、栄光の存在だったはず。
ある自動車ライターいわく
車の作りは軽自動車ということを忘れさせてくれる。
エンジンで軽自動車ということを思い出させてくれる。
と言いました。このアンバランスさがS660の失敗ポイントです。
シャーシにしても、タイヤにしてもオーバースペック、オーバークオリティにも関わらず、エンジンがアンダーパワーなんです。物足りないどころか、全然足りてない。
S2000オーナーとしては、これでSを名乗る資格はない、出すべきではなかったとまで思います。
まあまあ、そうはいっても世の中そんなカツい人ばっかりじゃないから、64馬力でも楽しくオープンで走れるでしょ、という人もいるでしょう。でもそれにしてはハード過ぎるんです、コア過ぎるんです作りが。
その最たる例がユーティリティ。
取り外しに約1分、装着に1分30秒かかるオープントップは、オープンにする気力を失いがち。さらにオープンにするとトランク容量ゼロ、リアトランクがあったビート以上にハードルが高いのです。
全然オープンが気軽じゃない。
ビート後継であれば、もっと気軽にオープンに出来るように全自動電動ソフトトップにしたでしょうし、そうなればフロントトランクも活かせたはず。
ターボのおかげでそこそこ加速もするのですけど、スペック的にはフィットハイブリッドよりも遅く、加速している時の「雰囲気」もよくありません。ビートの時の
ビート「うぉりゃああああ! 俺はやってやるぜ、ビィィィィ!」
私「あの~、まだ40km/hしか出てませんけど」
ビート「えっ」
というようなのもまた一興なのです。遅い代わりに速度感とアクセルレスポンスがあったから面白い。
「ビービーうるせーーー、隣と話せないーーー、車速感応型オーディオでスピードがあがったらボリュームが上がってオーディオうるせー、やっぱり隣と話せない! でもそもそも隣に人載せないし!」
みたいな。
なんだかS660は楽しみどころがないんですよ、スリルもサスペンスもないホラー映画みたい。
そもそもミッドシップとはパワーユニットが王様で、その大切なエンジン様を中央に配置することで運動性能をあげる、トラクション性能を上げることがお題目なのです。限られたタイヤグリップの中でトラクション性能をあげるための手法なので、限られたエンジンパワーであればミッドシップにする意味すら存在しません。
パワーユニットを何にするか、これは商品コンセプトの根幹なのでその点で二転三転した跡が見られるS660は、「商品としては駄作」といってもいいほどです。
同調圧力
そんなアンバランスなS660なのですが、デビュー前にはどこもかしこも万歳記事ばかり。デミオのカーオブザイヤーの時と同じ現象で、もはや問題点を指摘することが憚られるほど。自動車評論家だってプロですから乗ればわかるはずなのに、なんで、
「つまらない」
「退屈」
と言う人が誰もいないのでしょう。
サーキットを走ってハンドリング最高、とかいっている自動車評論家をみて、もしかしたらサーキットや峠道は楽しく、最高なのかもと思いますけど普通の人はサーキットも峠道にも行きませんからね。少なくとも街中で制限速度の範囲内では面白みも何もなく、ハンドルから伝わるフィーリングも薄いです。だからはっきり私がいっておきましょう。
つまらない、と。
過大な幻想を抱くと裏切られます。購入前には情報に惑わされず、ご自身で試乗の上、御判断下さい。
個人的な感想としては、
ビートでよかったんじゃないかな~
でした。
6速マニュアル編へ続く...
日を改めて6速マニュアルを試乗、再評価しました。こちらもぜひどうぞ。
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