ミッションは問題外。アバルト595 (5AT) ロングタームレポート
2017.02.23時代はシングルクラッチ、セミオートマ。
本当はそんなワケはないのですが、軽量コンパクト、燃費にも有利ということでコンパクトカーで採用されているマニュアルトランスミッションのクラッチ、変速操作を自動化したものも根強くあります。昨今ではVW UP!やスズキ・アルトなどでの採用例もあり、これは一度は体験した方がよかろうと思ったのですが・・・
問題外のオートマチックモード
クラッチ操作と変速を自動で行ってくれるオートマモードがついているマニュアル、というのが正しい理解ですが、このオートマモードが曲者。30年前のオートマもビックリなほど、ドライバーの意思とは無関係にシフトアップを繰り返す代物。
100点満点でいえば50点、赤点です。
問題1:ダイレクト感のないもっさりとしたアクセルレスポンス
アクセルペダルへの反応も「もっさり」で、数センチ踏み込んでも全然前に進みません。
特に発進時、クラッチのミートをこのアクセルの踏み込みから始めるためで、しかも1500回転前後でつなげようとするから、ソロソロ進む感が強いです。なんというかグッと踏むと、パッと前に進む感はゼロ。発進加速では軽自動車はおろか、自転車にも負けそうな勢い。いや実際負けてます。
問題2:クリープがなく、坂道で下がっていく不便性
しかもクリープ現象もないので、ちょっとした坂道でもすっと後ろに下がっていく始末。するとブレーキを踏んでいなければならずに、ブレーキをリリースすると後ろにさがる、アクセルを踏む、なかなか前に進まないとなるわけです。マニュアル同様サイドブレーキをひきながらアクセルペダルを踏み込むか、左足ブレーキを駆使するかのどちらか。
一応5%以上の勾配ではヒルホールドアシスト機能が動作するとのことですが、駐車場の段差やちょっとした勾配ではズルズルっといってしまいます。
問題3:いつチェンジされるか分からない自動シフトアップとトルク抜け感
いざ発進すると2500回転でシフトアップ、多少踏み込もうがあまり変化はありません。アクセルペダルを床まで踏みつけると変わるのかな?
シフトチェンジタイミングはタコメーターとにらめっこしていれば分かりますけど、普通に前を見て走行しているといつシフトアップするかは不明。
そうなると突然クラッチが切れて、トルクがすっぽ抜ける感、いわゆる「トルク抜け」を強く感じます。
で、ドライバーは何をするかというと
「あ、パワーが落ちたからアクセル踏まなきゃ」
とより踏み込んでしまうんですね、なぜならアクセルは「前に進ませる」ものだから。前に進まないと感じたら踏み込むがの自然。
ところがシフトアップ中なのでエンジン回転数は落ち、速度はあがらない空走状態。
シフトアップが終わってから改めてスロットルが開くわけですけど、回転数が落ちているから加速がやっぱりもたつくわけですよ。あー、イライラする。
この挙動は特に機構を知らない女性からは敬遠されがちで、普通のATを搭載する他車種、例えばMINIに流れるのも致し方ないです。実際アクセルレスポンスもいいし、坂道で下がらないし、加速感は途切れないから。
スポーツモードは過剰なパワー
「SPORT」というボタンはついており、これを押すとアクセルの踏み代は多少少なくなりパワーが増します。特に高速道路では顕著で、パワフルに走れます。これはいい感じ!
しかし多少ブースト圧が高すぎて、つねにやるぜやるぜ状態、燃費は結構落ち込むようです。なにせ納車時高速道路のったらみるみるうちにガソリンがなくなって警告灯がついちゃいましたから。
そしてシフトスケジュールはというとSPORTでも基本的には同じ傾向。パワーが上がってもシフトアップの「トルク抜け感」はなくなりません。
変速に合わせてアクセルオフなんてできない
よくこの手のシングルクラッチオートマはアクセルペダルをシフトアップに合わせて緩めればいい、って言われますけどそれもおかしな話。
まずいつシフトアップするか分からないし、そもそも自動シフトアップでトルク抜けを感じてからアクセルを緩めても遅いし、そもそもクルマが遅いし、でなんだか混乱気味。オートマってそんなに考えながら走るものだっけ?
アクセルペダルが3つ兼ねている
この不協和音を分解すると、まあ色々と見えてきます。
アクセルは昔のマニュアル車ではスロットルに直結されており、何があってもアクセルに連動してエンジン回転数は上下してたわけです。クラッチを切るのはドライバーの意図で行われ、クラッチ操作が乱雑だったり、車速と回転数が合ってなければギクシャクしていたわけです。だからこそドライバーは真剣かつ繊細にアクセルワーク、クラッチワークを行っていたんですね。
ところがこのオートマモード、アクセルの1ペダルだけでそれまでアクセルとクラッチ、シフト操作の3つを兼ねることとなりました。これが混乱のもと。
・発進時のクラッチミートではアクセルペダルはいくら踏み込んでも思ったより前に進まない
・シフトアップは勝手に、前触れもなく行われ、空走感が強い
となってしまうわけです。マニュアルならできた高回転でクラッチミートしての急発進もできません(たぶん)。
マニュアルモード
では仕方がない、マニュアルモードにしてみましょう。
A/Mボタンを押すとマニュアルモードへ。このモードだとシフトアップは勝手にはされず、ハンドルについたパドルシフトで行いますが、エンジン保護のためにシフトダウンは自動で行ういわゆるセミオートマ状態。その場合でも、レッドゾーンに入ったとしてもシフトアップはせずレブリミッターが作動するとのこと。
さてこの状態であればよりマニュアル車に近いフィールになります。しかし肝心のクラッチがないので、パドルシフトを押してからトルク抜け感が生じることには変わりません。
よくよく振り返ってみるとMINIのオートマでシフトアップをマニュアルでやったこと、なかったです。エンジンブレーキを効かすためのシフトダウンはよく使っていました。あと急加速したい場合はアクセルを思いっきり踏み込み、いわゆるキックダウン、シフトダウンを使っていました。
かくしてトルク抜け感を解消するためにはアクセルペダルを抜いてシフトアップをすればいい「らしい」のですが、これまたいつクラッチを離してトルク抜けするのか、いまいち掴み切れません。
なんとなく違和感を残しつつ、面倒だけ増えているというのがマニュアルモード。慣れたらいいのかな、いやそうじゃなさそう。
何がいけないのか?
色々とつきつめて考えていくと、クラッチが問題ということが分かってきます。半クラッチでガクガクしないよう、シフトアップ、ダウンで回転数がずれないようにとするあまりに、まるで初心者のようなゆっくりとしたクラッチワークになっているのが原因。
確かに一般人向けに「オートマでーす!」と言って売るのにギクシャク、ガックンしてたらそりゃ売れません。でも今のようなもっさり、ゆっくりもどうかと思うんですよね。
オートマは甘え・ゆとり派
結局簡単にいうと、「しょうがねえなあ、作ってやったよ感」です。
つまりコンパクトカーといえばマニュアルシフトでガンガン走るもの。セミオートマとかクラッチレスとかそんなのは甘え、ゆとり、贅沢だ、ということです。
ツーリズモはセミオートマだけのラインナップですが、それは「長距離移動のためのツーリズモ」だからということに尽きます。長距離・長時間乗るのが前提なので渋滞もあることを考えると妥当。
また実際高速移動のときは5速に入れたらもうシフトチェンジはしないわけで、それまでのもっさり感やトルク抜けといったデメリットは感じる機会はほとんどありません。むしろSPORTモードの過剰な過給圧でどこまで加速するつもりだい、というパワー感に驚くほど。
だからアバルト500/595とコンペツィオーネにマニュアルがあり、ツーリズモはセミオートマしかないのは「あえて」のラインナップだったのです。確かに街中乗らないならこのセミオートマのデメリットは目立ちません。
問題は日本の、しかも街中はシフトチェンジだらけということです。特にヨーロッパと違い信号だらけ、赤信号に一時停止とストップ&ゴーが多いところはこのデメリットが最大限目立ってしまいます。
シフトには目をつむる
ということで短時間の試乗をして「こりゃナイな」と思ったセミオートマですが、まあそれ以外は素晴らしいのでとりあえず目をつむることに。
乗り心地の硬さ、ステアリングフィール、ブレーキフィールともにまさにスポーツカー。
それはおいおい見ていきましょう。