スーパースポーツ界の庶民派、ハンドリング編:日産GT-R 2012年モデル試乗レポート(7)
2012.11.05「▼ドレスではなくモビルスーツ、エクステリア編:日産GT-R 2012年モデル試乗レポート(6)」のつづき。
GT-Rに乗る前の心配ごと。それはFUN TO DRIVEについて。
2007年にGT-Rがデビューした後、GT-Rに乗った先輩方の評価はかなり辛辣。
- 速いだけ
- あっという間にリミッターが効いてしまい、面白くない
- 自分が運転している感じがしない。
- (自動)シフトダウンが下手。まるで自分が下手のように思われて恥ずかしい
- 駆動音がうるさい
・・・かなりの毒舌で、いい評価まるでなし。それだけにドキドキしながら乗ったわけなのですけど・・・
あれっ、2012年モデルはもしかしていいの?
予想以上にいい感じです。もともとS13シルビアユーザーだったので馴染む、というのはお伝えしましたが、コーナリングもその大きさと重さというハンディを感じさせないほど軽快なんです。まるでもっと小さくて軽い車に乗っている感じ。
ハンドリングの方も素直そのもの。ハンドル自体はいまどきのクルマとしてはとても重く、女性にはお勧めできないほど力が要ります。ステアリングインフォメーション自体は薄味なものの路面の状態は伝わってくるし、切り込んでいったときのノーズの重さ、車体の重さは感じません。
そして加速は申し分ない上、ブレーキがまたいいんです。いまどきの踏んだらすぐ最大減速Gが立ちあがる通称デジタル・ブレーキではなく、踏力でコントロールする「おっさん・ブレーキ」タイプ。ストローク量に比例して減速Gを制御できるので、我々のような古いタイプにはとてもいい塩梅。踏めば踏むほど効き、重い車体を確実にとめるので安心感があります。
減速したらターンインですが、重いハンドルを多少気にしながら切り込んでいってもすっとノーズがインに向きます。前荷重を意識する必要も余りなく、イージーにハンドルに応じたコーナリングを楽しめます。なんだこりゃ、素直じゃないですか。
上りがきつい、いろは坂を難なくこなしていくのは当然、さらにビックリしたのはもっと細い林道でのこと。
いろは坂下りの渋滞を避け、上りと下り、そしてタイトコーナーが連続する林道ルートへ。ここではアクセルはほとんど開けず、トラクションをかけないコースティング(惰性走行)がメイン。
ハンドルはクルクルと何回転もさせるタイトコーナーの連続、そこでも巨大で重厚なGT-Rがまるで小型車のようにひょいひょいと曲がっていくのです。荷重も右から左へとヒラリヒラリと切り替わり、曲がりにくさがまったくありません。300km/hで走れて、ニュルブルクリンク最速セッティングなのに、低速コーナーも得意とは。
ドイツ、アウトバーンなどハイスピードセッティングの場合安定させるためリアサスペンションを動かさない方向のクルマが多く、林道のようなタイトコーナーの連続では曲がらなくてFUN TO DRIVEからは程遠くなるのですが、いやはやこれは恐れ入りました。おかげでハンドルをグルグル回してすいすいと楽しく走ることができましたよ。
オーナーの西川善司さんによると、GT-Rのうまい走り方としてはコーナー手前でシフトダウンで減速、ターンインしたあとはアクセルをあけて曲げながらトラクションをかけていくのがいいのだとか。単なるFRの場合はフロントが逃げたり、リアが流れ出したりというケースでもGT-Rの場合は自動でフロントにトラクションをかけ引っ張りだしてくれるそうです。いわゆる四駆乗りの走り方だとか。
実はこの走り、FFにも共通するものがあり、FFの場合リアは駆動力からは完全にフリーの状態ですがフロント荷重に関するものは同じです。そういう意味ではFR、FFと乗ってきていますが、FFで競技をやっていた関係でFF的な走りをする自分にとっては納得がいくもの。
そういうわけでハンドルを切ったら切っただけ曲がっていくGT-RのFF的ハンドリングは結構自分好みのようです。
ミッションも初期型と比較して洗練されてきたようで、大きく気になるものはありませんでした。マニュアルでシフトダウンしても回転数もばっちり合わせてくれるし、前後に揺さぶれる感覚もあまりないです。さすがに停止直前に1速に落とす時に多少揺れることはありますが、まあまあ妥協できる範囲。同じことをトルコン式の6ATのMINIでやると、トルコンのくせしてもっとウォーンと揺さぶられます。
ディーラーによるとブレーキへの負担を減らすため、シフトダウンを多用、最後の最後にブレーキを使うのがいいとのこと。ミッションはそれでも壊れないから大丈夫、だそうです。
多少気になったのはミッションが後ろにあり、クラッチが外れる際の音らしきものがたまにすること、あとはオーナー全員が指摘するというカラカラ音がする位でしょうか。ただこれはトランスアクスルでミッションが後ろにあるからという面もあり、逆に
「トランスアクスルに乗っているぞ感!」
「これこそ FEEL THE BEAT!」
として楽しむのがよいかと。
乗り心地面は硬質、競技車に近い乗り味です。自分はこういうのに慣れているので余り気にしませんが、年が年なのでそろそろマイルドでもいいかなあ。電子制御でコンフォート-ノーマル-R(レーシング)と3段階に切り替え可能、コンフォートとノーマルは自動で減衰力をある範囲内で変更、レーシングは硬い状態固定ということです。
街中、峠を走る分にはコンフォートで十分、高速道路を高速で飛ばす場合でもノーマルで十分以上という感覚です。轍などで荒れた中央高速を乗った時レーシングモードでは追従できずトラクションが抜ける場面があったので、路面がフラットなサーキット専用と考えた方が良さそう。
轍といえば、フロント255、リア285の幅広タイヤで低扁平率、しかもランフラットタイヤで硬いためなのか結構轍には気をつけた方がよさそうです。ハンドルをとられて振られるまではいきませんが、手ごたえの変化はよく伝わってきました。
さてハンドリングと乗り心地、そしてニュルブルクリンクの関係について考えてみます。実はこの硬質な乗り心地とハンドリング、よく似た車にメガーヌRSがあります。
▼ルノーメガーヌ RS TROPHY Ver. SiFo 300ch 詳細レポート(3)ハンドリング編【ワンダードライビング】
メガーヌRSもニュルブルクリンクFF最速を目指してセッティング、大径ホイールに高グリップタイヤを装着して実際に達成していますが、その代償となったのが街中でのゴツゴツとした硬質な乗り心地。しっとりとした感じとはまた違います。
乗り心地が悪い、とはならないのでいいといえばいいのですが、ニュルブルクリンクのタイムを競ってしまうとどうしても減衰力があがってしまい、似たような乗り心地となるのは痛しかゆし。最近のクルマのトレンドとしてタイヤも大径化、低扁平率というのもタイヤでショックを吸収しない方向なのでますますそれが顕著です。
FD2シビックタイプRが筑波サーキットのラップタイムを気にしたがあまり、乗り心地が完全に犠牲になったことが記憶に新しいです。
謳い文句としてサーキットを何分何秒で走った、ニュル最速、という称号は非常に分かりやすいです。しかし車として考えたとき、本当にそれがいいのかどうか。特にGT-Rのように300km/h出せるものの、日本仕様は180km/hリミッターが装着されていたり、日本市場においての矛盾も感じます。
世界標準、世界のハイパフォーマンスカーと比肩して負けない性能を出すためとはいえ、ここは非常に難しいですね。
ただそのような高速セッティングであっても、日本の林道を小型車のように軽快に曲がれるようになっているのは、物凄いことです。林道はスーパースポーツが走る場所ではなく、ラリーカーや軽トラックが主役の場所、その場所でもストレスなく走れるバランスの良さを兼ね備えている点が素晴らしいです。
ということで、自分としてはショックはもうコンフォート固定でOK。高速、ワインディング、林道までストレスなくスムースに駆け抜けるGT-Rに感嘆です。
お値段が1000万円に近いので「庶民」のためのクルマとはいえないですが、スーパースポーツの中では「安い」部類、排気量も5リッター、6リッターが普通の中にあり3.8リッターしかないという点では「小排気量」といってよいので、スーパースポーツ界の庶民派といっていいでしょう。そういう意味ではハンドリング市民革命的です。
▼ハンドリングの市民革命! ルノー・カングー・エクスプレス・コンパクトは切れば曲がる魔法のクルマ #renault_jp ([の] のまのしわざ)
ということで前評判で聞いていたよりも私は好印象、かなりイイですよ。
旧ザクのようなマニュアルシフトを駆使してコーナーを攻めるのとは違い、教育型コンピュータ搭載のガンダムのような、
「坊主、自分の力で勝ったのではないぞ!そのモビルスーツの性能のおかげだということを忘れるな」
的な位置づけではありますが、それはまあ好みってことで。
(つづく)
[試乗車:GT-R Black Edition 2012 model、試乗車提供:日産自動車]