ドレスではなくモビルスーツ、エクステリア編:日産GT-R 2012年モデル試乗レポート(6)
2012.11.04「快適な室内、インテリア編:日産GT-R 2012年モデル試乗レポート(5)」のつづき。
いやもう、GT-Rのデザインの何が好きってここですよ、ここ。
Cピラーが折れ曲がっているんです!
ルーフ形状の面の作り方が非常に複雑、というかトリッキー。直線基調に見えるのですが、実際のルーフ形状はとても丸みがあり、リアウィンドウはルーフからトランクへなだらかにつながってます。丸さを感じさせないようわざわざサイドウィンドウを角張らせて直線的に切り出しているんですね。その上でわざわざピラーに折り目をつけることでさらに直線的に見せるというトリック。リアウィンドウは曲がってないので、実際にはその捻れ部分はうまくピラー内側で吸収しているんですよ、もうよくやるよなあと。
見た目が折り紙っぽいので日本発のデザインかと思いきや、UKのデザインチームの発案、断固として譲らなかった部分だとか。
そしてCピラーから流れるように繋がるトランク部分、太刀魚の切り身のようにスパッと切り落とされたテール。リアバンパーのでっぱりがないんですよ。
実はこのデザイン、バンパーが出っ張ってないからスッキリ見えるのと、もう一つ重要な役割があります。それは空力。よくみるとこのテールの切り落とし方、トヨタ・プリウスと同様の処理なのです。
空力ニュースレター No.07 - SiFo上の図を見ますとやはり車の後端は魚の尻尾のような、またはソーラーカーのような長くて「すっと」しているのがドラッグには有利です。しかしあまり尻が長いと車庫にも入らないので短くするのですが、後ろを切断してRをつけるとあまり芳しくないわけです。そこで短くしたいときは魚の尻尾を包丁で切るように角を残して切り落とすとまあまあの結果が出ます。
上の写真は1964年頃デビューしたデイトナコブラです。尻尾を切り落とした形状になっています。私のかってのボスであった Pete Brock がデザインしたものです。最近のプリウスもリアは全周ピン角にしております。R35GTRのトランク上面はチョイRがついていますがアルミなのであまりRを小さくできないからです。
この空力ニュースレターを書いている鈴鹿氏は、空力デザイナーとして数々の実績を残しており、R35 GT-Rの空力デザインも担当したとのこと。
鈴鹿美隆さんのミニチュア風洞プロジェクト - GTROCオーガナイザー井上晋のブログ - R35 GT-R - GTROC Official Member's Blog鈴鹿美隆さんは、最近ではR35GT-Rの空力デザインを担当した方で、IMSA GTP、IMSA GTU、グループC、ル・マン、Can-Am&INDYなどのそうそうたるレースカーの空力デザインを担当してきた方です。
GT-Rとプリウス、スーパーカーとエコカーとクルマの方向性は真逆の2台ですけれども、こと空力という点では同じ方向を向いているというのが面白いですね。
それでいてスカイラインの伝統である2連丸型テールライトをまるでジェット噴射口のように凹ませて配置していて、クルマのテールというよりもロケットのような印象があります。なので宇宙船。
▼東京モーターショー2005:GT-R PROTO ([の] のまのしわざ)
2005年の東京モーターショーでの GT-R PROTO。この時からリアウィング形状、フロントバンパーのデザインを除きほとんど変わっていません。子供は2歳。
▼NISSAN R35 GT-Rと息子(東京モーターショー2007) ([の] のまのしわざ)
2007年デビュー時のエクステリアデザイン。子供は4歳。
2011年東京モーターショー、GT-R 2012年モデル発表。子供は8歳。
そして今回、GT-R 2012年モデル高速試乗。子供は9歳、初めて乗ったGT-Rの速さに大喜び!
何がいいかというと、2歳のときにみたプロトタイプと今のGT-Rが同じということ。子供にとって、幼児だった頃にみたあの形が、ほとんどそのままの形で小学3年生になって初めて乗れたというのはとてもいい経験だったと思います。いまや名前は同じで姿形が違うというのはままありますが、それじゃどうしてもアイデンティティが確立しませんからね。
ということで写真の歴史をみてもお分かりのとおり、私と子供にとってGT-Rは注目の的であり、特別な存在であり、常に意識してきたということです。その心を捉えて放さないところとは。
ボンネット上に無骨にあいたNACAダクト(NASAダクト)!
フレッシュエアを取り入れ、エキゾーストマニホールドからセンタートンネルを介し、リアミッションまで冷却するためのもの。機能的!
フロントフェンダーのエアアウトレット。ダミーではなく本当に穴の空いた、冷却のためのもの。
リアバンパー下部に開けられたエアアウトレット。これは冷却、それとも空力?
GTカーに通じる、ラジエーター、オイルクーラーへの空気導入を分けるスプリッターがデザインされたフロントバンパー。向かって左側はオイルクーラー用、右側はダミーとなっており、ユーザーは穴をあけて追加の冷却系を設置するのが定番になっているのだとか。
サメのようなエラに、無理矢理埋め込んだ感満載のLEDデイライト、厚めのフロントエアダム、カーボンリップスポイラー。
カピパラのように離れた目と台形型のエアインテークとなったラジエータグリル。
とにかくフロントマスクは無骨そのもの、uglyという言葉が相応しいかもしれません、が、しかし。
なにが素晴らしいって、このすべてのデザインが「機能」を持っている点。ダミーとか、美しさを追求とかそういう色気一切なし、掛け値なしにすべてが性能向上のための形状なのです。
まるで忍者屋敷のからくり戸のように押して、引っ張るというドアノブ。使いやすさは二の次、とにかくここでも空力重視です。
見た目以上にぼってりしたドアミラー、室内から見ると細長い長方形ではなく、正方形に近くまるでミニバンのミラーのよう。しかし、空力デザインはきっちりしてあるのです。
フロント255/40R20、リア285/35R20のGT-R専用ランフラットタイヤを装着。中には大口径ブレンボのブレーキシステムが見えます。
普通のクルマであればタイヤホイールとホイールハウスの隙間が気になるもの、ところがこのGT-Rは標準でまるで車高をダウンしたかのようにピッタリのクリアランス。実際にはフェンダーの高さがあるのですが、20インチの大径タイヤホイールのおかげで車両が薄く見えます。もちろんチェーンは装着不可、スタッドレスタイヤのみです。
このクリアランスできっちりしたホイールトラベルを確保、荷重をかけつつ曲がるのですから大したものです。
普通のクルマであれば車高を落としたくなるものですが、このGT-Rでは逆にこのシャープなフェンダーのクリアランスが絶妙なのでそのままにしたくなるほど。そもそもホイールのデザインも肉太で力強く、繊細さや華奢さは微塵も感じさせません。
プロトタイプから形状が変わったリアウィング。横幅は広く、高さは抑えてあります。トランクにマウントするタイプですが、大幅に横にはみ出ています。
LEDハイマウントストップランプを中央にマウント。支柱で支えています。
この3点支持方式は形状は異なりますけど、私が乗っていたS13前期型や憧れていたR32 スカイライン GTS-tを彷彿とさせるもの。この点でも古き良き日産で自分好みです。
そしてトドメはやっぱりこのGT-Rエンブレム。ロゴタイプ自体が古くて無骨ですがそのまま。結局GT-Rはビューティフルやエレガントとは程遠い、筋骨隆々な男の職場なんです。
ハイパフォーマンスカー、スーパーカーなのに飾りっ気ゼロ。イタリアの美しい形とはまったく異なる、理論の積み重ねによるエボリューション。スカイラインをベースにしつつもデザインも駆動系も一切の妥協をせず魔改造。世界トップレベルのパフォーマンスを目指し、打倒ポルシェを掲げ達成。
これまでひょろひょろのガリ勉くんが突如身体を鍛え出して、マッチョになったかのようです。マッスルカーといってもいいかもしれません。とはいえ、コブラのような力づく感とは違う、インテリマッチョ。
はたまた、それまでいじめられっ子だったのにモビルスーツに乗った途端性格が豹変、「おいそこのMP!」とやったカミーユ・ビダンってところでしょうか。
身体の拡張現実としてのモビルスーツがあるとしたら、このGT-Rはモビルスーツ的。そういえば白さと相まって、RX-78ガンダムとよく似た感じです。
イタリアのクルマがドレスだとすれば、このGT-Rはモビルスーツ。そう考えれば角ばったガンダム・デザインはとても納得がいくし、我々ガンダム世代をくすぐります。あちこちにあいたエアインテーク、エアアウトレットにいちいち歓喜するのは自然なことなのです。
GT-Rは日本メーカーで、日本人しか作れない無機質なメカなんです。しかも性能は世界トップ。
連邦の秘密兵器、V作戦の中核を担う新モビルスーツ開発計画、ときたらガンダム。
日産の秘密兵器、V字回復の象徴をする新スポーツカー開発計画、それがGT-R。
色も白。最高です。
次回はついにハンドリングです。庶民にも素晴らしいハンドリングを、「ハンドリング市民革命」はなされているのでしょうか?
(つづく)⇒▼スーパースポーツ界の庶民派、ハンドリング編:日産GT-R 2012年モデル試乗レポート(7)
[試乗車:GT-R Black Edition 2012 model、試乗車提供:日産自動車]