Audi TT RSと BMW M6にみるドイツの車造りと日本の新幹線
2011.10.27先日、Audi TT RSクーペと BMW M6を試乗させて頂きました。ドイツ車で、どちらもベース車をメーカー自らがチューンして仕立てた特別なクルマ。ドイツ車の中で、もっともドイツ車らしい仕上がりといってもいいのではないでしょうか。
ドイツ車らしい仕上がりとは、つまりは高速巡航性能。
アウトバーンを200km/h〜250km/h(リミッター作動)の領域をそれなりに一般の人が難なく、安心して走れるように出来ています。しかも路面コンディションや天候、昼夜よらず、いつなんどき遠く離れた場所へ出かけても大丈夫というもの。
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一番のハイライトはそのエンジンパワー。Audi TT RSが通常の2L 211馬力から 2.5L 5気筒 340馬力へ、BMW M6は通常の3.0L 直列6気筒から 4.0L V10 507馬力へとパワーアップ。空気の壁を切り裂いて走れるパワーを与えられています。
と同時に強化されているのがブレーキとタイヤ・ホイール。大口径のホイールに、止めてやるぜとばかりに張り出したブレーキローター。Audi TT RSに至ってはブレンボの対抗ピストンキャリパーまで備わっています。
そんなわけで、アクセルを踏めばそりゃバビューンと加速、100km/hまで到達するのはどちらも5秒以下、そのままの勢いで200km/hオーバーの世界まで連れて行ってくれるわけです。なんという素敵仕様。
が、しかし。
ここは島国日本。これだけ高速道路網が発達し、車社会になったとはいえ最初の高速道路が開通した1960年代から制限速度は100km/hのまま。5秒で100km/hに達する2台の本領を発揮させる場所が
ない! どこにもないんです!
そうなんです、日本の公道上ではこの2台のようなスーパーカーはまさに
宝の持ち腐れ。
いやもちろん性能は発揮できますよ、
逮まることを辞さなければ。
あまりに車の性能が高すぎて、たとえ100km/hで走っていてももはや感覚的には「徐行」。そんなもんだから、クルマなりに走ってしまうと
とても危険!
これは警察に捕まってしまう危険性という意味です。車は至って安全に作られていますので。
だからもうこういったスーパーカーに乗っているだけで、つねに速度超過=違法行為と隣り合わせ、運転するときは常に「スピードメーター」に気をつけながら運転するという緊張を強いられるわけです。
こんなの全然楽しくない!
ストレスたまりまくりですよ。高速走行はストレスなく走行できるのに、制限速度内で走らせようとしてストレスがたまるというジレンマ。
同じ自動車メーカー、自動車大国でありながら自動車に対する考えかたがドイツと日本では大きく違います。
日本の高速道路、というのはそもそも民間がはじめたもの。
日本の高速道路 - Wikipedia欧米に比べ、自動車の普及自体が遅れた日本では高速道路の建設自体が相当に遅れて始まった。
高速道路建設の着想自体は実業家の菅原通済が1929年に東京-大阪間に306マイル64チェーン(約493km)の自動車専用舗装道路を事業費8,000万円(当時)で建設し、民間で運営する構想を打ち出したのが最初である。この「日本自動車道株式会社」計画は道路運営会社自体も旅客・貨物輸送(バス・トラック運行)を行い一般の自動車にも有料通行をさせるという鉄道事業と有料道路事業の折衷的構想で計画書も当局に提出されたが、自動車が一般に本格普及する以前の時代で不況とそれに続く戦時体制によってまったく実現しなかった。発案者の菅原自身が多分に投機的・冒険的な政略家であり、欧米の事例に倣って構想のみを先走らせた感も強い。
ドイツのアウトバーンに刺激され、1938年頃から高速道路である自動車専用国道の議論が始まった。1943年に内務省が全国自動車国道計画を策定した[2]。総延長は5,790km、設計速度は平坦部が150km/h丘陵部が100km/hであった。国防上の要請もあり計画されたが1944年、戦局のため打ち切られた。
日本における高速道路の本格的な実現は戦後の高度成長期に持ち越される。昭和30年代に入ると同時期に進行したモータリゼーションを背景として大都市間を結ぶ幹線高速道路、そして東京をはじめとする大都市内の都市高速道路が急ピッチで建設されていくようになる。これらは国家的施策として計画が立案され、日本道路公団に管理を委ねるかたちで21世紀初頭まで引き続いて高速道路網の整備が促進され続けた。その進展と共に、日本の貨物輸送の主力は従来の鉄道からトラックによる自動車輸送を主軸とするようになっていった。
実際に「高速道路」と我々が呼んでいる、ほとんどの高速は実は高速道路ではなく「自動車道(自動車専用道路)」。そうなんです、日本には高速道路はない、といってもいいんです。
ドイツにおいて、高速移動の主力は車。だからアウトバーンというインフラに自動車という高速移動物体が安定して高速走行をすることを主眼に、自動車が設計されています。
一方日本において、高速移動の主力は電車、いや新幹線といいかえていいでしょう。新幹線は当初の210km/h営業運転から現在では300km/h運転、そしてさらに速度アップを狙ってリニアモーターカーの開発が進められています。
では日本の自動車道においては一体何が走っているのか? そうです、トラックです。
かつて物流の中心は鉄道で、狭い日本そんなに鉄道敷いてどうするの? というほど鉄道網だらけでした。その主役は貨物。ところが高度成長期に入り、物流の中心がトラックにシフトするとその役割を自動車道が担うのです。
北海道で多くの路線が廃止されたのはもちろん、首都圏でも貨物線路が通勤線路に転換された例は埼京線、湘南新宿ラインを含め、数多くみられます。
アウトバーンにしても新幹線にしても、速度が速ければ速いほど目的地に速く到達する、という点では共通しておりここでは「スピードは正義」です。
ところが貨物中心の自動車道では少し様相が違います。
JIT(ジャストインタイム)、定められた時間ぴったりに荷物を届けることが正義です。そのためトラックドライバーがパーキングエリアなどで止まって時間調整をすることがありますが、ここからも分かるように早着してもメリットがないのです。
そうなると当然ですが、速度をあげて早く着こうという要求が生まれません。ですから日本の高速道路と思われている自動車道は3車線になろうが、50年が経とうが、21世紀の今も開通以来そのままです。
トラックなどの物流が中心であるが故、日本車にとって100km/h以上の高速巡航性能は無用の長物。それよりも近くのコンビニやショッピングセンターに気軽にいける方がマーケット的に要求が高いため、新車販売のうち軽自動車が50%以上を占め、貨物車のような背高ミニバンが跋扈する世界になってしまったというわけです。合掌。
そんなトラック、軽自動車、背高ミニバンがウヨウヨしている自動車道でドイツの高性能車はその性能を発揮することができません。しかし販売禁止になることもなく、普通に売られています。どうしてでしょう。
もちろんハイクラスの人が、高級車を買いたいというマーケットの要求もあるでしょう。一方で高性能車を欲しいというクルマ好きもいるのです。高いから買う、ではなく、性能が高いから値段が高いのは当然だ、というクラスタです。あえていうなら
「熱烈なる自動車愛好家」
とでも称すればいいでしょうか。
性能の高さは200km/hオーバーの巡航をしなくても伝わってきます。 Audi TT RSはそのタイヤの太さに似合わず車庫入れ速度でのハンドルは軽く、街乗りでも正確なハンドリングで走るのが楽しいですし、ブレーキはカッチリしていて安心感があります。
高性能車は低速で走行しても、モノの良さが伝わってきます。
だからなにも速度超過の危険を犯す必要もなく、ゆったり流すだけでも楽しいんですね。そしてイザというときはバビューンと。その一瞬の快楽のために生きていると過言ではありません。
ドイツの高性能車はいわば、新幹線を自分で運転できるようなもの。
新幹線の運転手には選ばれた特別な人しかなれませんが、ドイツの高性能車は運転免許を持っていれば誰でも乗れるんです。たとえそれが若葉マークだろうが、もみじマークだろうが、ペーパードライバーだろうとそこに制限はありません。
その人のスキルにあった速度で走りさえすればいいのです。
だから精巧な工業製品のひとつとして、スーパーな性能を見た目にも、乗って実際に体感することもできるスーパーカーはその存在が光り輝きますね。
ということで、ワンドラではスーパーカー試乗を今後も安全な速度で行っていきますので、スーパーカーをお持ちの方はぜひご連絡ください! どうぞよろしくお願いします。