新型NSXプチ試乗レポート(1):新型は初代のDNAを受け継いでいるのか?
2016.10.17話題沸騰、超人気で販売前から品薄となっている新型NSX。長い開発期間を経て、満を持して発売されましたがそんな状況で、購買する人は試乗もしないで買っているものすごいホンダNSXファンに間違いないでしょう。一方評論家による試乗レポートも上がってきており、辛辣なものから万歳ものまで様々。
今回たまたま取材のお手伝いで試乗、というか運転して移動する機会を得たのでそのインプレッションを。移動は主に首都高速、アクアラインで少しだけ一般道です。
やはり車はのってみないとわからない
自動車評論家による試乗レポートを読むとかなり辛辣なものが多く、辛口だったのでかなり斜に構えて乗ってみたのですが、やはり自動車、本当に乗ってみないと分かりません。
乗り心地は硬質ですが、首都高速の凸凹(アンジュレーション)で多少気になる程度で、ダンピングが効いた上品なもの。いわゆるレーシーなスポーツカーではなく、高級スーパーカーの方向性。長距離移動してもまったく問題ありません。
ドライビングモード「インテグレーテッド・ダイナミクス・システム」は4種類、QUIET(エコ運転)、SPORT(標準)、SPORT+(よりスポーツなモード)、TRACK(サーキット向けセッティング)となっており、最初はSPORTです。ようは標準からSPORTですよというメッセージ。
モードが切り替わるとエンジンレスポンス、ステアリング、ダンピングなど制御すべてが切り替わり、今の所カスタマイズができるようにはなっていないようです。
SPORTでも気を許すと9速DCTはあっというまに9速まであがりエンジン回転数は非常に低くなります。そしていつのまにかにエンジンは停止、EV走行に。タイヤがスポーツタイヤのためかなりロードノイズが大きいのですが、エンジン停止するとこのロードノイズのみとなりかなり静かな移動空間へ。
エンジンの始動・停止はスムースすぎて気づくことがありません。エンジンの振動自体もほとんどなく、まさにふと気づくとEV走行になってます。
QUIETモードにするとこのEV走行の領域がさらに深くなり、アクセルレスポンスはほぼなく、まるでエコカーのようなダルなフィールへ。その代わり得られるのが燃費と快適性。
燃費のよさ
燃費は街中で9km/L、高速に乗るとEVモードによる巡航にすぐに切り替わり燃費はどんどんと向上。一度アクセルを踏み込みエンジンがうなりをあげると燃費は一気に落ち込むも、最終的に往復130km走って燃費は約10km/L。この手のスーパーカーとしては断然燃費がよい印象でした。
テスラ的なアメ車
SPORT+で積極的にエンジンを使うと、燃費と引き換えにドロドロとしたエンジンサウンドと、アクセルオフ時のブローオフバルブの音、そしてアクセルに敏感に感応するレスポンスが得られます。
その轟く低音はまるでV8、アメリカ車のよう。そう、これは繊細な日本車ではなく、アメリカ人によるアメリカ工場で生産された、生粋のアメ車だったのです。いわば純粋なEVであるテスラと、ふるきよきアメリカンマッスルカーであるコルベットの合いの子のような存在。結果的に得られたのはハイブリッドによるエコとパワーの両立。エレガントさというよりも、五感に訴えかけるし、とはいえただ乱暴なだけではないという、新境地を開いているといえます。
世界にはライバルが多く、ポルシェ918やラ・フェラーリなどがハイブリッドスーパースポーツを出していますし、ベンチマークがフェラーリ458イタリアだったという噂も聞こえてきます。直接的にはAudi R8がデザイン的にもキャラ被りと、ライバルが多いです。他にはランボルギーニにポルシェ、アストン・マーチンなどなど。それだけにNSXは何を打ち出せるのか、は重要な課題。なぜなら他に買えるものがたくさんあるから。
NSXのDNAは受け継いだか?
初代NSXのキャッチフレーズは
Our Dreams Come True
Honda|Honda Movie Channel | NSX - Our Dreams Come True (解説動画あり)
世界最高峰のF1に挑戦し、ホンダエンジンを世界に知らしめました。powered by Hondaの文字はどのホンダオーナーにとっても誇らしいものでした。しかし世界に通用するピュアスポーツカーを作ることは長年の、そして無数の夢の集合。それが現実となったのが初代NSX、ホンダだけではなく、ホンダユーザーにとって、日本人にとっての夢でもあったのです。
F1ドライバーのアイルトン・セナ、そして日本人初のF1パーマネントドライバーの中島悟がテストに参加、意見をフィードバックしたということもF1との直結性を高めていました。
そして二代目となる新型NSXは
ORIGINAL MUST BE DONE. Hondaにしかできないことを。
いままたF1に復帰し、挑戦するホンダ。初代NSXが出た当時の第二期とは異なり、開発はトークン性。予算と人員を大量投入し、毎回のようにアップデートを繰り返すサイクルが取れないため先行する他チームに後から追いつくのは困難を極めます。そんな状況の中2015年にF1に復帰し、今年2016年に新型NSXを市場投入。理屈を考えると無理無茶無謀なのですけど、ある意味それをやれてしまうのがHondaなのでしょう。
昨今のリバイバルブーム、VWビートルやMINI、FIAT500、アルピーヌといったように色濃く初代を彷彿とさせるデザインとは異なり、いまのホンダデザイン。そのため当初は連続性を感じなかったのですが、改めて実車をみるといくつか初代NSXを彷彿とさせる意匠がありました。
フロントフェンダーの直線的で、フェンダーアーチにかけての抑揚のあるライン。
ドアサイドからのエアインテークは巨大化し、Cピラーと一体化して巨大なインタークーラーに空気を導きます。
エンジンがのぞくリアハッチ、エンジンルームの後方にはトランクルームを装備。多くのミッドシップ車がトランクがないのに対して、ゴルフバッグが積める巨大なトランクを装備した初代NSXはピュアスポーツではないと当時揶揄されましたが、実際には空力、直進安定性を高めた結果でした。
今回リアオーバーハングはかなり切り詰められ、エンジンは縦置きになったもののうまくトランスミッション、エキゾーストをとりまわして有効なトランク容量を確保しており使い勝手は非常によいです。手荷物が普通に入れられます。
逆にフロントは機構部品でギチギチ。スペアタイヤは廃止されていますが、フロントモーターがあるためにトランクはなし。けっこうゴチャゴチャしていて、魅せるという感じではありませんね。
視界は良好で、フロントグラスからサイドまでラインが回り込み、ピラーは細目とのこと。
視界は比較的良好ですが、太いCピラーの存在で斜め後ろは見ずらいことは間違いありません。
また気にしなければならないのは低い車高。車高を少しアップさせるリフターがないので、段差では相当気を使います。なにせホンダ本社から出入りする段差ですでに気を付けないと擦ってしまうほど。スーパーカーとしては標準的ですが、リフターは欲しいところですね。
ホンダスポーツのラインナップ
ホンダが現在ラインナップしているスポーツカーは軽自動車のS660、そしてこのNSXとなります。シビックタイプRは売り出したものの限定でいまはすでに受注終了。次期シビックタイプRは2017年に登場とのことで、それまで待たなければなりません。
初代NSXが最初800万円ででて、その後値段が上がったとはいえ1000~1200万円くらいだったことを考えると、今回の新型NSXが2370万円からスタートというのは、かなりの価格アップ。簡単にいえば2倍です。
試乗車はカーボンファイバーエンジンカバー、カーボンファイバーインテリアスポーツパッケージ、カーボンセラミックローター・ブラックキャリパー、パワーシートセミアニリンフルレザー装備で合計2671万4000円。オプション価格だけでS660どころか、S2000が買えてしまうほど。
初代NSXは夢が叶う、でしたが新型NSXの価格をみていると夢から覚めてしまいました。
シビックタイプRが500万円を超えるこのご時世、せめて初代NSXの価格帯である1000万円前後のスポーツカーのラインナップが欲しいですね。新型S2000、ベビーNSXの噂もチラホラでる背景には、そんな価格帯の落差があります。
試乗動画
ここで街中でちょっと試乗した様子をどうぞ。特にエンジンがかかっているときと、かかっていないときのサウンドの違いに注目です。予想以上にドロドロした排気音がスパルタン。
(続く)