微小領域のハンドリング、ステアリングインフォメーションを向上させるEPSアドオンキット
2018.05.09つくづく細かいことだと思いますが、とにかくステアリングフィールにはうるさいです。数ミリステアを入れたときの反応。操作に反応しないクルマは怖いし、信頼できません。この点廉価なクルマ、軽自動車や国産コンパクト、ミニバンは絶望的。どれに乗っても確かにパワステはきいていて操舵力は軽いのですが、走っている実感はないし、まっすぐ進まない、だから不安。
市場の多くのユーザーはそんなこと気にしないし、コストをかけたくないのでメーカーもそのまま。そんなクルマが巷にはあふれています。
いやメーカー、サプライヤーも分かっているんですよ。例えばコレ。
高速道路において、横風や路面の傾きなどによる意図しない車線逸脱に対し、ハンドル中立付近の修正操舵をスムーズにさせ、運転者の疲労・不安感を軽減したい。交差点や駐車場などで曲がった後に、ハンドルが復元力により直線へスムーズに戻りやすくなり、運転者への過多な操舵を省きたい。
これを言い換えると、現状はこうなっているということです。
(意訳)高速道路において、横風や路面の傾きなどによる意図しない車線逸脱に対し、ハンドル中立付近の修正操舵がスムーズではなく、運転者の疲労・不安感が大きい。
交差点や駐車場などで曲がった後、ハンドルの復元力は弱く直線へスムーズに戻らない、そのため運転者の操舵は過多となっている。
そうそう、それですよ。私が常々思っている不満は。なんだ、認識は共通しているじゃないですか。
状況は分かりました。ではこれは何に原因があるのでしょうか?
この快適な操舵フィーリングは、ハンドルを切り始めたときのスムーズな車の動きと、ハンドルのスムーズな戻りが重要です。このスムーズさに寄与しているのはEPSの摩擦で、中でもアシスト用減速機が大きな割合を占めています。減速機の摩擦力を低減させる低フリクショングリースを開発することによって、運転者のハンドル操作の負担を軽減し、さらなる操舵フィーリング向上を可能にしました。
原因は「アシスト用減速機」にありました。つまりギアのフリクションです。
NSKではこのギアのフリクションを低フリクショングリースで軽減させる方式をとっています。ただこれは当然新車、新設計の場合には適用できますが、すでに市場に出ているEPSを交換するというわけにいきません。
ところが既存EPSに装着することでフリクションを低減させる装置があるのです。今回はそのEPSギアフリクション低減装置「NM-1」を開発した(有)レンテックのテスト車両を試乗してきました。
テスト車両
ごく一般的な軽自動車の代表格、ダイハツミライースがテスト用車両です。
見た目は変わらず、ダッシュボード上にコントローラが追加。
NM-1装置本体はEPSの部分に装着されています。
ノーマルEPS
まずは構造の理解から。手に持っているのはステアリングシャフトにつくEPS用モーターの減速ギアです。EPS用モーターがウォームギアを回転させることで、ステアリング操作をパワーアシストしています。
問題はこのウォームギアの噛み合い部分。
ガタをなくすために予圧(プリロード)がかかっており、ウォームからウォームホイール側(上側)へと、ウォーム自体が左右方向に押し付けられています。フリクションの正体はこのプリロードとのこと。
このプリロードがフリクションとなり、このノーマル状態でステアリングを実際に回してみると重さを感じます。
実際のEPSではステアリング操作をするとシャフトについたトルクセンサーでねじりを感知、アシストモーターを回転させることでパワーアシストします。
このトルクセンサーが曲者で、ある程度のトルクがかかり、トーションバーがねじれないと感知しません。つまりその領域まではパワーアシストされないので、動きが渋いんですね。逆に動き出すと急に軽くなる、つまりリニアリティがないということです。
もう一つの問題はこのセンサーがウォームギアのハンドル側についている点です。
タイヤからの外乱入力は本来ステアリング機構を通しハンドルに伝わることで、いわゆる豊かなステアリングインフォメーションを得られるのですが、ウォームギアのフリクションがこれを遮断。路面状態の僅かな変化はこのフリクションでかき消されてしまうのでした。
いまさら聞けない シャシー設計入門(12):車側の意思でハンドルを回転させる!? EPS (2/3) - MONOist(モノイスト)
フリクションを低減させる方法
NM-1ではこのフリクションを低減させるために、ウォームに注目しました。
まずこのウォームはネジで止まっているのですが、多少緩めて1mm程度のクリアランスを作ります(写真は分かりやすいように5mm程度ずらしています)。
これによりウォームは左右に1mm程度動くようになります。次にこのクリアランスを利用しウォームの左右の動きを検知し、ウォームとウォームホイールのギア山が適正なクリアランスになるようにウォームを回転させて調整します。
これをするのが追加されたサブモーター。
基板上に設置されたフォトセンサー。
このフォトセンサーがウォームの動きを検知し、サブモーターがウォームを回転させることでフリクションをほぼゼロにしています。
それによりハンドルにちょっと力を入れただけで、ステアリングは軽く動いてまるでパワステなしのようなリニアなハンドリングが得られるというわけです。
その結果、路面からの入力もスムースにハンドルに伝わります。これが豊かなステアリングインフォメーションを実現させます。
NM-1 OFFの状態ではハンドルの動きはしぶくフリクションを感じます。
またウォームが1mm程度動くようになっているので、その分のガタがあります。パワステが動作すればこれはほぼ気になりませんが、金属同士がぶつかる音が聞こえるのが数少ないデメリットとなってます。
取り付け方法ですが、従来のEPS用モーターは取り外し、NM-1を間にはさみこむような形で装着、EPS用モーターを取り付けます。そのため取り付けには6cm程度の奥行空間が必要となります。
NM-1 コントローラ
NM-1の利点は従来のEPSはそのまま活かし、フリクションのみ制御している点。コントローラではフリクション制御のON/OFF、そしてどの程度フリクションを低減できるかの調整が可能です。
OFFにすればほぼノーマル同等の動き。ウォームが1mm程度左右に動くためその分ギアフリクションはノーマルよりも低下(約30%)しています。
ONにすればギアフリクションが低下。ダイアルを1~最大9まで調整可能ですが、あまりに大きくし過ぎると過敏に反応、制御が発散して止まらなくなってしまうために、だいたい4か5あたりが適当とのこと。
ONとOFF、そしてダイアルの違いと3段階で比較できることや、走りながらでも調整可能なのはとても分かりやすいです。
比較試乗
それではいよいよ実際の試乗に移ります。
まずはNM-1 OFFの状態から。
車庫から出るとき、そして路上に出てからというもの、いかにも軽自動車っぽいステアリングフィール。確かにパワステはきいて操作は軽いものの、路面からの感触は皆無。数ミリのステア操作に対してまったく反応せず、ハンドルを切ってもハンドルは切れっぱなしで戻る力、セルフアライニングトルクは弱いです。ごくごく標準的な軽自動車、コンパクトカーの操作感でした。
次にNM-1 ON、調整ダイアル5で走行。
ナニコレ、すごい!
すぐにわかる変化はステアリング数ミリの操作に対してクルマが反応すること。これまでギアフリクションに阻まれ動かなかったステアリングが動くようになったことで、狙ったラインにばっちり乗るんです。
次に嬉しいのがハンドルの復元力があること。コーナーの立ち上がりでハンドルを戻さなくても自然に中立にかえろうとします。だから操作がしやすい。
ウォームの1mmの領域の話ですが、ウォームホイールが70mm、ステアリングホイールが370mmなので、5倍以上、1mmの違いは5mm以上の違いとなって現れます。この5mmの領域が豊かなステアリングフィール、そして操作感を生み出すんですね。
調整ダイアルを2番にするとノーマルに近くなり、セルフアライニングトルクは弱まり、ステアの数ミリの操作にクルマが反応しにくくなることを体感できました。
謎はすべて解けた
これまで感じたEPSステアリングの不満、ライフもS660もN-WGNもデミオもNDロードスターも多分これが原因。
もっとも問題なのは、ハンドルに手応えがない点。軽くて切っただけ曲がるには曲がるのですが、ステアリングインフォメーションが皆無といってもいいほど。そのために走っている、いや、走らせている「実感」を伴わないのです。
EP3シビックも、FITも、LIFEも、CR-ZもS660もアカン。どれも軽いだけで路面状態が伝わってこない。EP3やLIFEはハンドルが戻ってこない、セルフアライニングトルクが少なすぎるので結構危ない。
走行中に復元性が無く動きが渋く いつも力を入れて補正しながら走らなければ道路にそって進めない。 イライラして気が狂いそうになります。 肩が凝ってパンパンです。 ホンダの車作りは何処へ行ったのでしょうか。
ワインディングで抜群のハンドリングを見せて無敵かと思われた新型ロードスターにも弱点が。それがステアリングの中立付近の曲がり過ぎ。簡単にいうと、真っ直ぐ走らないのです。常にチョロチョロと左右に動いてます。
EPSでもきちんとしているクルマはあります。例えばルノークリオ(ルーテシア)RS。数ミリのステア操作に反応するし、ちゃんとセンターにハンドルは戻るし。
何が違うのか、というとどうもこのフリクションを消すための仕組みを入れているようです。同じコラム式EPSであったとしても舵角センサーを追加したり、モーターをブラシレスにすることでモーターの動作を滑らかにしたりモーター自体のフリクションを減らすといったカタログには表れてこないところに違いがあるようです。
ある国産系ワークス勤務の友人にヨーロッパのコンパクトスポーツと国産コンパクトスポーツ、一番何が違うの、ときいたら「電パ(電動パワーステアリング)」といわれたことがありますが、それはこのことだったのかも知れません。今はもしかしたらできているのかも知れませんが、もしそうならぜひ紹介してほしいところ。
こんな方へオススメ
新型車はいいとして、すでに出ている車種はもう対応のしようがありません。ハンドリングにこだわり微小領域でのステアリングインフォメーションが欲しい方、モータースポーツでタイヤの状態を手触りでわかりたい方などに、このNM-1はひとつの選択肢になるやも知れません。
すべての車種につくというわけではないですが、興味のある方はぜひ(有)レンテックさんにお問い合わせ下さい。その際は「ワンドラで見た」というと話が早いです。
ショップやチューニングパーツメーカーの方には評価キットの貸し出しもあります。
アドオンじゃない、新EPS
NM-1はアドオンの装置ですが、フリクションをなくす制御をするEPSを最初からつければいいんじゃないか? という疑問もわくことでしょう。
それを実現したのがDN-EPSとのこと。
パワステのないOLD MINIに装着して効果を確認しているそうです。こちらも注目したいですね。