ブランド化するNISMO。日産ジューク NISMO 試乗レポート
2013.03.17久々の試乗レポートは日産のコンパクトSUV、ジューク。しかもそれのホットバージョン、「ニスモ」です。
▼日産:ジューク [ JUKE ] コンパクトカー | 特別仕様車・カスタマイズカー | NISMO
NISMOは1.6リッター直噴ターボ、トルクベクタリング付の4WD、16GT FOURをベースにさらにスポーツ性能を高めたグレード。パワーも+10psの200馬力、+10Nmの250Nmを発揮し、まさにNISMOの名前にふさわしいものです。
私たちにとってNISMO、古くは大森ファクトリーといえばレースシーンの中で長く活躍してきた名門として有名ですが、一般的にはまだまだ知られていない存在。そのNISMOが1グレードとして出てくることで、いかに日産がNISMOブランドを強化しようとしているかが伺えます。
この1年以内にはGT-Rの NISMOバージョンが発売されることが発表されており、この JUKE NISMOはその先鋒といってもいいでしょう。
NISMOのブランド強化は本社移転からも分かります。NISMOといえば大森、と思っていましたが、横浜・鶴見に移転。ショールームも完備し、新しく、大きくなります。
レースカーやカスタマイズカーを含め、NISMOバージョンのクルマが展示されるショールームはいわば毎日がオートサロン、といってもいいでしょう。
ということで今をときめくNISMO、JUKE NISMOの乗り味に期待が寄せられます。
ドアを開くとレーシーなセミバケットシートと革巻き&アルカンターラステアリングがお出迎え。オッサンになってくると手や肌が触れる部分が気になってしまうのですが、そういったポイントを本革やアルカンターラ、スエードといったところでおさえてくれるのは嬉しいこと。ロングドライブで気になる快適性というのは、実はこういうところだったりします。
ポイントでnismoロゴがあちこちに入っているのも特徴の一つ。
バイク風のカバーがついたメーターはデザイン的に目を引きますが、メーターコンソールは比較的シンプル。
一方派手なのは、センターコンソールについたエアコンとD-MODEを操作するパネル。
エアコンモードと、D-MODEを切りあえるとスイッチの表示が切り替わるというのが目を引きます。
D-MODEというのはドライブモード、エンジンを含むハンドリング特性をNORMAL、SPORT、ECOから選択でき、合わせて表示も切り替わります。ブーストメーターがそれぞれ違うデザインで出てくるのも趣向が凝っています。
元々1.6リッター直噴ターボ、200馬力ということでパワーのあるエンジン。これに6段マニュアル風のCVTを組み合わせたミッションに、左右トルク振り分けが可能なトルクベクタリングにより旋回を助ける機能つき。普段はFF、2WDで走行可能で正直これで十分という感じです。トラクションが欲しいぞ、というときに4WD-Vに、さらに雪道などでは通常の4WDとモードを切り替えることが出来ます。ちなみにフロントデフはいわゆるE-デフ、内輪にブレーキをかける制御がついているとのこと。
日産:ジューク [ JUKE ] コンパクトカー | ターボの魅力トルクベクトル機能で、俊敏な操縦性を実現。ALL MODE 4×4-ⅰ(トルクベクトル付)。1.8Lクラス以下世界初*
16GT FOUR Type VのALL MODE 4×4- i( トルクベクトル付)は、よりコーナリングを楽しむために進化した4WDシステム。従来の ALL MODE 4×4-ⅰが前後のトルク配分量を調整することで、コーナリング中のヨーモーメント(クルマを旋回させようとする力)をコントロールするのに対して、ALL MODE 4×4-ⅰ(トルクベクトル付)は、左右に電子制御カップリングを搭載した新開発のリヤファイナルドライブユニットにより、旋回時に後輪外輪側により大きな駆動力を配分。
左右の駆動力差により、車両ヨーモーメントをダイレクトにコントロールする。車輪速センサー、ステアリング舵角センサー、ヨーレートセンサー、アクセルセンサー等の情報から、ドライバーの操作や、アンダーステア、オーバーステアといったクルマの挙動を瞬時に読み取り、前後および後輪左右に配分する駆動力を制御。
コーナリング中は、コーナー外側のタイヤに駆動力を多めに配分することでアンダーステアを減少し、スムーズなコーナリングが可能。ステアリング操作に対するクルマのレスポンスが良く、アクセルペダルでクルマを操る感覚でコーナリングすることができる。
また、4WDモードスイッチは、舗装路でスポーティなハンドリンクが楽しめる基本モードの4WD-Vに加え、滑りやすい路面でのより安定した走行が可能な4WDモード、さらに2WDも選択することができる。
さて実際に走りだしてみると、想像以上に乗り心地がいいんです。NISMO! というからにはロールをおさえて伸び側のダンピングがきいているのを想像していたんですが、まろやか~ といった風情。正直、「アレっ?」という感じです。
都内の荒れた路面や首都高速道路の継ぎ目などを越えてもまったく突き上げ感はなく、快適そのもの。ふんわりした感じです。
じゃあハンドルがスカスカかというとさにあらず、コーナリングは大きめのロールを伴いながらもスーッと曲がっていく感じ。あれ、これってどこかで同じような感じがあったような...
もともとJUKEはSUV、当然車高が高く、サスペンションストロークもかなりある方です。車高が低く、サスペンションストロークが少ないスポーツカーとは素性が異なります。そうなればいくら車高を低くしてロールを抑えたとしても、コンセプトがちぐはぐになってしまいなにがなんだか分からないクルマのいっちょあがり。そのため本来のSUVらしさを活かしつつセッティングするとこのロールをうまく使ったコーナリングになるといった様子。
サスペンションストロークがあるから、荒れた路面でもうまく衝撃をいなしてくれるし、普段乗りにもピッタリ。そしてハンドルを切りこんでいくとロールを伴いながら旋回していく・・・そう、この乗り味はあのルノースポールです。
ミシュランタイヤ・テストドライブ(2):ロールは正義! メガーヌRS TROPHY Ver.SiFo 300ch編【ワンダードライビング】見ての通り腰高で重さを感じますし、そもそもの着座位置が乗用車ベースということもありポルシェGT3 RSやS2000と比べても高く悪くいえば「トラック」的な位置で、目線も高いです。ところがひとたびコーナーに飛び込めば懐の深いリニアなハンドリグングに脱帽。
あのルノー・ベストハンドリング車「カングーエクスプレス・コンパクト」と同じ、サスペンションストロークを活かしたコーナリングを披露するのです。
ハンドリングの市民革命! ルノー・カングー・エクスプレス・コンパクトは切れば曲がる魔法のクルマ #renault_jp ([の] のまのしわざ)●ハンドル入れる、頭が入り、曲がる。
これは大抵のクルマがそうです。しかしここからが問題。
●さらにハンドルを切る、曲がっていかない。
そう、これがアンダーステアと呼ばれるもの。切っても曲がらない、曲がらないからアクセルを踏めない。またはコーナー手前でスピードを落とすようになります。
ところがこのカングーは違います。
●さらにハンドルを切る、さらにロールする、さらに曲がる。
●もっとハンドルを切りこむと、もっとロールする、もっと曲がる。
えええーーーー、なにこれ!
ジュークは車高的にカングーほど高くはないけど、メガーヌほど低くないという中間。サスペンションストロークをうまく使い、ロールを使ってのコーナリングというのは従来の日本的スポーツカーとは逆方向、ヨーロッパ的な味付け。こんなところでもルノーの好影響を受けているのではないでしょうか。
実はこのNISMOのブランド化もルノーの戦略を考えると自然です。ルノーは各モデルでR.S.(ルノースポール)モデルを展開していますが、日産におけるNISMOがそれと同じ位置づけになるわけです。
ルノースポールはもともとアルピーヌからきており、アルピーヌ・ルノーとルノースポールのレースシーン、ラリーシーンでの輝かしい戦歴、ヒストリーは数多くのファンを魅了しています。
同様にNISMOは大森ファクトリーからきて、長い歴史と多くのファンをもっています。NISMOをブランド化することで、さらにユーザー、ファンとのリレーションを強固なものにしようというのでしょう。
これはルノーに限ったことではありません。MINIでいえば John Cooper Works、BMWではM、ベンツではAMGと各メーカーそれぞれ持っています。
ルノーはルノースポールをさらに強化、アルピーヌブランドを復活しあの名車、アルピーヌ・ルノーA110を現代に復活させようとしています。価格は500万円前後が予想されており、クルマ好きなら頑張ればなんとか買えるという、手頃な位置づけです。
日産はフラッグシップのGT-Rがありますが、おいそれと買えるものではありません。しかしZなら、JUKEなら、という人も多いでしょう。そのZやJUKEにNISMOというブランドがついて雰囲気と走りの良さがついてくるならば、それは嬉しいことです。GT-R買えないから我慢、というのではなく、JUKEの中で走りのNISMOを得たという満足感です。そのNISMOの先に 1年以内に登場するというGT-R NISMOが待ち構えているわけですから。
4WDターボという点でGT-Rに近いJUKE NISMOはコンパクトなボディと乗り心地の良さから普段乗りしやすく、毎日が楽しくなるコンパクトSUV。これは想像以上に好印象です。
さて動力性能の方はというと目線が高いことやCVTの特性、車両重量がそれなりにあることから200馬力 250Nmという割りには過激に加速する印象はありません。SPORTモードでは高回転になればなるほど加速感が増して、運転にメリハリが出てしまいます。私の印象では街乗りではNORMALモードの方が低速トルクがある感じで、乗りやすいです。山道や高速道路でパワーが必要なときにSPORTにして、普段はNORMAL、渋滞ではECOといったように使い分けると良さそうでした。
エンジンは前方吸気、後方排気、エンジンマウントのためのトルクロッドがルノー的な配置、というのもこのエンジンはルノーにも搭載されるからでしょう。新型クリオR.S.がこのエンジンを積み増すが、こちらはCVTではなくDCT(デュアルクラッチトランスミッション)との話。よりダイレクトなトラクションが得られることでしょうね。
(写真:ルノークリオ3 R.S. トルクロッド⇒やる気にさせるドライブトレーン! SiFo ルノークリオRS CUP 試乗レポート(2)【ワンダードライビング】)
[▼深遠なるエンジンマウントの技術世界! 重心支持式、慣性主軸式、ペンデュラム方式とトルクロッド ([の] のまのしわざ)]
今回は余り4WDの走りを堪能できなかったので、次回はぜひワインディングや悪路、雪道といったところで試乗してみたいですね。NISMOのブランド化としての JUKE NISMO、NISMOの今後の展開に期待です。
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