デザインと空力デザインの微妙で切っても切れない関係:日産GT-R 2013年モデル試乗レポート(7)
2012.12.13飛んでくように走った、「【動画】250km/hの世界へGO! 開発ドライバー運転の同乗走行:日産GT-R 2013年モデル試乗レポート(6)」のつづき。
まさに飛んでくように走る日産GT-R。その轟音はまるで飛行機の離陸のよう、というのもこれくらいのスピードとなると飛行機同様ボディで空気を切り裂いて走ることになるからです。
(空気を切り裂く音は0:40くらいから)
Cd(抵抗) 0.26
CLF -0.119 (80kg 250km/h時)
CLR -0.051 (35kg 250km/h時)スーパーカージャンル最小の空気抵抗とトップクラスのダウンフォースの両立
・Frタイヤハウスからのエンジンルーム内空気の排出
・RrディフューザーとRrウィングのコンビネーション
・渦のまったく出ない外観プロポーション
このGT-RのCd値は0.26、なんとエコカープリウスと同等の値。スーパーカーなのにエコカー、この空力はどうやってデザインされたのでしょうか。デザイナーの方に聞いてみました。
【最初からデザインされていたダクト】
GT-Rは水野氏が最初設計図(ラフ、イメージスケッチ)を引き、それをポンとデザイナーに渡したときからすでに、ボンネットの上の穴と、タイヤハウスの後ろの穴はあいていたとのこと。デザイン担当、Product Chief Designer長谷川さんは当初このタイヤハウスの後ろの穴は冷却用とばかり思っていたところ、水野氏に空力用、ドラッグを減らすんだ、と正されたとのこと。
なおボンネット上の穴は冷却用で、タービンを冷やすための空気を効率よく導くためのもの。
【リアウィングの高さは空力によって決められた】
GT-Rは東京モーターショー2005でプロトタイプを発表、そこから外観上大きく変更されたのは、フロントバンパー形状とリアウィング。他はプロトタイプほぼそのままの形で2007年に登場しました。さてこのリアウィングはなぜ変更されたのでしょう。
まず車のボリュームに対して多少貧相であったことから、もう少し押し出しのあるものにすることでバランスを整える意味合いがあったとのこと。しかしながら空力上非常に重要な意味をもつリアウィング、デザインを変えたくともドラッグを増やしては意味がありません。
そこで空力的にベストな高さをまず空力デザイナー鈴鹿氏がまず最初に決め、その高さに合わせてデザインを詰めたということ。デザイン的には2点支持から3点支持に変更、サイドをより厚みを持たせることでボディに負けない押し出しの強いリアウィングとなりました。
このリアウィング、私はお気に入りなのですが人によっては
・でかすぎる、邪魔だ
・小さすぎる、インパクトが弱い
と反響は様々。このリアウィングを取っ払うとダウンフォースが相当失われる(かわりにドラッグも結構減る)ため、他のモノに替えるのは慎重にどうぞ。
※注) 文中、空力デザイナー鈴鹿氏のコメントはCG CLUB主催のエアロダイナミクス講座での質疑から引用しています。日産主催GT-R 2013年モデル試乗会とは別であることを予めお断りします。
【でかいドアミラー】
空力を考えた時、このミニバンのように大きなドアミラーはとても不利。なぜこんな大きさになったというと、当時ヨーロッパの法規が改正され、ドアミラーの高さ方向が大きくなることがほぼ決まっていたからそれに合わせただけ。しかし当然のことながら、デザイナーはカッコ悪い大きなドアミラーには反対。
「本当にベンツもポルシェもミラー大きくするんだろうな、大きくならなかったらタダじゃ済まないぞ!(意訳)」
くらいな気持ちで渋々現在のような大きさになったとのこと。それでも少しでも薄く見せるためにフロントバンパーと同じようなシャークフィン的デザインの処理と色をツートンにすることでシャープに見せる努力をしているのだとか。
空力デザイナー鈴鹿氏の立場としては、ドアミラーはドラッグを増やすただの邪魔モノにしか過ぎず、ドアミラーの大きさで決まってしまうため、何やってもそんなに大きく変わらないところ。それよりも重要になるのは運転席に近いため騒音、風切音を減少するための努力をしているそうです。
▼ミニチュア風洞でのGT-Rの空力テスト⇒ミニチュア風洞実験でイテレーション開発:CG CLUB 第1回エアロダイナミクス講座レポート(2)
なお、ベンツもポルシェもヨーロッパ法規改正に従ってドアミラーは大きくなったそうです。
【見えるところはデザイナー、見えないところは空力デザイナー】
GT-Rは日産内の全世界のデザインセンターでのコンペで80案くらい集まり、それを3案に絞ってから空力デザインにかけたそうです。さてここで問題になるのが空力デザイナーのデザインセンス。空力デザイナーは空力が専門なので、デザインセンスはあまり要求されないということで、餅は餅屋、デザインはデザイナーということになります。
そうすると逆に問題なのがデザイナーは空力が専門ではないのでかっこいい、空力よさそうとつけたものが実際には空力的には悪いということもなり、これもまたせめぎ合い。
結局どうなるかというと、上面はデザイナー、見えない裏面・ダクト内は空力デザイナーと大まかに分かれてくるとのこと。リアウィングは両者の境界となるひとつの例です。
ということで見えないところの空力デザインも頑張っています。特にダクト=空気の取り入れ口からそのとり回し、排出に至るまで。
▼Mechanism -> Package GT-R PRESSKIT 2007/10
▼Suzuka racing services Aerodynamics of the Nissan R35 GTR
リンク先の図をみると分かるように、エンジンルーム内からセンタートンネルに至るまで、空力と冷却をすべて計算しつくしていることが分かります。
見えるところはデザイナーに任せてはいるものの、最終的には空力チェックが入って、いくらカッコイイといっても揚抗比(ダウンフォース対ドラッグ比)が悪ければNG。見た目的にカッコよくなって、ドラッグ増えなければOK。
そうやって空力と見た目を折り合いをつけ、最終的に実車検証を重ねた結果、フロント、リアにダウンフォースを発生させることに成功しつつ、Cd値は0.26とエコカー並みとなったわけです。
【Cピラーの折り目は何のため?】
私のもう一つのお気に入り、それはCピラーの折り目。これが空力的にどんな意味があるのか、聞いてみたところ...
ない、見た目優先!
とのこと。純粋にデザインということでした。空力ペナルティがあったらきっと採用されなかったでしょうね。
そういえば最近Cピラーにエアロスタビライジングフィンなるものが「絶大な効果を発揮した」というのが喧伝されていますが、これを空力デザイナー鈴鹿氏にきいたところ、無言でニヤニヤしていました。そんな絶大なら当然GT-Rについててもおかしくないわけなので、推して知るべし。
【基本構造と空力の関係】
もうひとつ、空力にとって大切なポイントがあるのが、それがリアディフューザー。つければ効果ある、というのが通説ですが、その前にボディの基本構造で大切なポイントがあったのです。それはランフラットタイヤ採用でスペアタイヤがないこと。
このトランクカーペットの下はフラットな鉄板。スペアタイヤを載せるためのスペースが下にでっぱっていないのです。
そうです、下に出っ張っていないからリアデュフューザーの上面を通る空気の流れを確保することができ、より効果的にダウンフォースを発揮することができるのです。
ZやV35スカイラインクーペのようにトランク下にスペアタイヤを載せる空間を作ってしまうと、後からスペアタイヤレスとなってもそのぶん下に出っ張りがでてしまい、空力には不利。そういう意味で、最初の設計時からランフラットタイヤをつけることを決定していたからボディ設計もそれに合わせてでき、空力デザインも効果的に出来たという先見の明です。すべて論理的、辻褄があってます。
空力は見た目のデザインとCFD解析や風洞実験といった空力デザインからだけでなく、基本設計、グランドデザインからも影響されるということですね。ということで、次回はいよいよ開発責任者水野氏の登場、インタビューを中心にお伝えします。
(つづく)