ワンダードライビング[wonder driving]

乗り物とホビーのブログメディア ワンダードライビング[ワンドラ]

PICK UP

phazer_proj.jpg

ヤマハFZ250 PHAZER(フェーザー)1985年式 レストア記

ミニチュア風洞実験でイテレーション開発:CG CLUB 第1回エアロダイナミクス講座レポート(2)

2012.12.07

空力に近道はないのです。

CG CLUB 第1回エアロダイナミクス講座に行ってきました(1)【ワンダードライビング】

印象的だったのは、

「空力はバカじゃないとできない」

との言葉。

いくら理論をこねてもそれでなんとかなるのは最初の数回~数十回レベルで、残りの数百回はトライ&エラーのみ、心頭滅却して下手な鉄砲数うちゃあたるの精神で取り組まないといけないとのこと。まさに現場(現物)主義の実践であります。

近道はなくとも、アイディアはたくさんある、というのがエアロダイナミシスト。そのアイディアが本当に効果があるのか、効率よく試すことができるのが風洞実験。しかし実物大風洞はコストもかかれば、準備が大変。そこでF1では60%スケール風洞を使うなど、スケールモデルを使っての風洞実験が行われます。

DSC02395

もちろんコンピュータによるCFD解析といった手法も行われますが、これはこっちで正確なモデルをCADで作るのが大変すぎること、CFD解析で出たデータが本当に正しいか、実車で検証する必要があることから万能というわけでもありません。

実車の検証が難しいとなったとき、じゃあ風洞実験となるわけですが、風洞にしても大変。であればもっと小さな風洞でやってみたらどうだろう、というのが鈴鹿氏が現在開発しているミニ風洞の登場となるわけです。

いや、小さくなったら実車との乖離が激しいのでは? ということも十分考えられます。そこでミニ風洞を作るための検証実験、テストベッドとして開発されたのがこちらのミニ風洞プロトタイプ。

DSC02377

1/24スケール、オープンタイプなので実際には風洞とは呼べない、とのことですけどこのプロトタイプで実証実験、かなりの正確性があることを確認できたのでプロダクションタイプのミニ風洞の製作にとりかかっているそうです。そちらは1/18スケールも考慮。

DSC02376

なぜ1/24スケールかというと、市販されているモデルやプラモデルがこのサイズで、その手の車を流用できるので便利という理由から。

DSC02478
(なぜか蒸籠に収まっているモデルたち)

DSC02437

鈴鹿氏が空力デザイナーとしてかかわったR35 GT-R。こちらは実際のモデルでの経験からスケールモデルでのミニ風洞の結果が「確からしい」と確認できる事例。

4つのタイヤの下には2軸の秤があり、ドラッグ(後ろ)と揚力・ダウンフォース(上下)が同時に計れます。3軸の秤であればサイドフォースも同時に計ることができるということです。

秤への固定はタイヤに仕込んだ磁石、または両面テープで行います。風速と等速で動くムービングベルトがあった方が対地速度が正確になるのでより正確とのことですが、プロトタイプにはありません。実際の風洞実験設備でもムービングベルトがついているものは大規模かつ高価ということで、なかなか大変です。

DSC02452

試験方法はとてもシンプル。モデルを設置し、秤をキャリブレーション。秤のゼロリセットが完了したら風を送り、数十秒待つだけ。計測データはPCに送られ、専用ソフトで自動的に係数を使ってCd値(ドラッグ)、揚力CLf値(フロント)、CLr値(リア)に変換して表示してくれます。

実際の動作、リアスポイラー脱着による変化は動画でどうぞ。

リアスポイラーをとるとCd値は減少、しかしリアのダウンフォースはなくなりマイナス値、つまり揚力が発生してしまいました。

DSC_1218
(R35 GT-R 2013年モデル カーボンリアウィング)

Z33のモデルを使って、さらにエアロパーツの効果、数値の変化を探ります。

DSC02441
(Z33 ストック状態)

DSC02444
(リアスポイラー装着)

DSC02446
(アンダーガード一体フロントノーズカバー装着)

DSC02450
(FILLER、センターアンダーカバー装着)

DSC02453

数値はそれぞれ変化しているのが見てとれます。L/Dは揚抗比と呼ばれ、揚力(ダウンフォース)/抗力(ドラッグ)の計算式でこれはドラッグが小さく、ダウンフォースが大きければよい値となり、これを大きくすることが求められます。というのもいくらダウンフォースが大きくなっても、ドラッグ(抵抗)が大きくなれば車は前に進まないからです。

レース屋さんはこのL/D(揚抗比)だけに注目、これを大きくするようなものを色々開発していくといいます。この結果Zのテストではfillerと呼ばれるセンターの穴ぼこを埋めるカバーが予想以上に効果を発揮したことが見て取れます。

このデモは明らかに効果があると分かっている空力パーツを使ってですので、明確な数値の変化が出ましたが実際にはこんなに簡単ではありません。

DSC02423

このグラフはX軸に実験回数、Y軸にドラッグ(Cd値)をプロットしたもの。最初の30回くらいまでは劇的に数値が変化しているのが見て取れるでしょうが、その後はジワジワ、回数を重ねれば重ねるほどその数値変化はなだらかになっていきます。

最初の数十回は理論でなんとかなるけど、そのあとの数百回という実験はもはや理論など通用しない、まさに「バカじゃないとやっていられない」世界へ突入。あれこれ試してみて、260回目にポンとまた数値が下がっているポイントがありますが、これが鈴鹿氏のいう

JACKPOT

というポイント。つまりスロットマシンの当たり、パチンコでいえば777といったところでしょうか。

結局よくなったり悪くなったりという一進一退を重ねることで数値をよくしていく作業なので、いかにこのイテレーションの回数をこなせるかが重要とのこと。F1で風洞の数を制限しているのは、風洞の数がおおければこの回数が増やせるため、予算のあるチームとないチームでの競争力の差が大きくなりすぎてしまうため。今年ザウバーF1が成績を残せたのはこの JACKPOTを早くみつけたからでしょう。

空力の話は鈴鹿氏自らが書く空力講座に詳しいです。

▼鈴鹿氏による空力講座「空力ニュースレター」⇒Aerodynamics Index - SiFo


(つづく)


あわせてこちらの記事もいかがですか?

サイト内検索

人気記事ランキング

もっと見る

新着記事

もっと見る

アーカイブ

PAGE TOP