新型ゴールドウイング緊急試乗インプレッション(2) ダブルウィッシュボーン式サスでトラクターから脱却
2018.02.06前回はDCT採用、ドライブモードの新技術について紹介した。
前回の記事 新型ゴールドウイング緊急試乗インプレッション(1) 新技術をすべてぶちこんだ意欲作【ワンダードライビング】
今回はフロントサスペンションに採用されたダブルウィッシュボーン式についてみていきたい。
トラクターからの脱却
フレームでみると一番目を引く大きな変更点はフロントサスペンションである。
オートバイの標準的なフロントサスペンションはテレスコピック式、つまり望遠鏡のような筒を2つ、フォークのように前輪の左右に配置して伸縮させることでショックを吸収するものだ。このテレスコピック式はこれまでの技術の蓄積があり、実績も高いために広く採用されているが、一方で重量級のゴールドウイングでは様々な課題にさらされていた。
まず重量を支えるためにフロントフォーク自体をかなり硬いものにしなければならない点。フロントフォークの摺動抵抗も動きにくくするひとつの要素となっており、振動を助長する。これにより乗り心地面、特にハンドルに伝わる振動がロングツーリングではかなり苦痛に感じる。
そのためリアサスペンションとシートはフカフカで快適なのと対照的な印象である。特に首都高のような道路のつなぎ目が多いところではガタンガタンと、そのたびに不快な振動が手にくるのだ。
またブレーキ面でも同様である。重量ボディがブレーキ時にはフロントフォークを押し縮めるが、その際フロントダイブをしてフロントタイヤの接地ジオメトリ、トレールが少なくなることで安定しない方向に変化する。これはライダーの不安感を増してしまう。
軽量なバイクであればあまり大きな問題にならないことが、重量級のバイクでは顕著に出てしまうのだ。
新型ではフロント回りを一新、ダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用した。これは自動車でよく採用されている機構でロアアームとアッパーアームをリンクで接続することで、上下動の際のジオメトリ変化が少ないことがまずあげられる。
つぎにこのゴールドウイングではステアリング機構をピロボールアームによりハンドルに接続することで、サスペンションの上下動の振動はショックアブソーバーで吸収、ステアリングに伝わる振動を大幅に低減させている。数値的には40%とホンダは謳っているが、実際の体感はそれ以上に効果的で不快な振動はほぼ解消、ガタンという大きな振動も逓減されていると感じるほどだ。これによりリアサスペンション同様の、上質な乗り心地を得られている。
リンケージ接続のためダイレクト感が失われている心配があるかもしれないが、それも杞憂に終わった。ステア操作に対しスムースに反応し、ウェット路面の状態もしっかりと伝わってきて安心感が高い。事前にハンドルを切っていくと切れ込む癖があると聞いていたが、アメリカの広い場所を試乗する限りはそのような場面がなかったためか感じなかった。
旧型ではサスペンションからライダーまでの距離があり、ハンドルを手前にもってくるためには通称「トラクターハンドル」と呼ばれる長いステーを使っていた。これはステアリングを切っていったときにハンドルが遠くなり、特に右に切った時に左手が遠くなるとクラッチ操作がしにくいという問題が発生しがちであった。
ダブルウィッシュボーン式サスペンションにハンドルをリンケージ接続したことでこの問題が解決、ハンドルを切り込んでいっても遠くなることがないのも低速時の取り回しの安心感、安定感を与えている。
このダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションを採用した恩恵は他にもある。
まずホイールトラベルがテレスコピック式と比べて小さく、デザイン面、重量配分面でも有利になっている。
具体的にはテレスコピック式は斜めに伸縮するため、フロントホイールの後ろ側にそのためのスペースを確保しなければならず、ちょっと間が抜けたような空間ができてしまう。
これがダブルウィッシュボーン式になることで、タイヤは上下にしか動かないようになり、フロントホイール後部のスペースは不要となった。これによりエンジン搭載位置は前にすることができ、結果的に前後重量配分が改善されたという。具体的には47:53ほどだという。ライダーは車体中央にいるので、重量配分が50:50に近づくことでより自然な運転感覚が得られるようになる。
(フロントホイールに被るようにエンジンヘッドが前まで来ている)
またフロントフォークは2本、トップブリッジまで上がってくるためどうしてもフロント回りが広く、大きくなってしまう。これが旧型が大きくみえてしまう要因の一つであった。今回ダブルウィッシュボーン式にしたことで、2本のフロントフォークがなくなり、ステアリング回りがスリム化されたことでカウルも小型化することができ、さらにウィンドスクリーンの幅も狭くなりシャープな造形となった。これが新型の未来的でクールな印象づけている。
ウルトラ効くブレーキ
ダブルウィッシュボーン式サスペンションはブレーキにも恩恵を与えている。
ブレーキ自体は対向6ピストンのダブルディスク。初期タッチがよく、力をくわえていくとリニアに減速Gが高まっていく。それとともにほんのわずかにフロントが沈み込むが、つんのめるようなイメージはない。
ほとんどフロントが沈まないようにもできるが、これまで乗りなれたテレスコピック式サスペンションと違和感がないように、多少ノーズダイブするようにセッティングしたという。
このブレーキのタッチ、フィールはバイクというよりももはや自動車に近いイメージだ。確かにフロントは沈むが、リアブレーキを併用し前後輪できっちりと制動力を出して止まる。ここでもまた重量を感じさせない。
テレスコピック式ではノーズダイブを抑えるためにもかなり硬くなっているのと摺動抵抗の影響があり、初期の動きだしが渋く感じられることを、新型に乗って改めて理解した。ダブルウィッシュボーン式サスペンションの採用は見た目も自動車的であるが、同時に乗り味、ブレーキも自動車的になっていることが感じられたのが発見であった。
快適なクルージング
ワインディングでその軽快な加速、減速、そしてハンドリングを感じたが、直線路でのクルージングも快適である。いやもちろん、旧型も快適であったが、新型の高速クルージング性能はさらに高まっている。
すでに指摘したように、ハンドルに伝わる振動が少ない、体感的にはほぼなくなっていることがまずとてもよい。寒い冬に助かるグリップヒーターは振動があると強く握りたくないものだが、振動がないのできっちり握ってその熱をより感じることができる。もちろんシートヒーターも健在だ。
このふたつのヒーターでも相当楽だが、さらにもうひとつ待望の機能がついた。それが電動スクリーンである。
電動スクリーンは左手グリップ側のスイッチで操作し、無段階で調整が可能だ。Gold Wing Tourでは高めのスクリーン、バガータイプのGold Wingでは低めのスクリーンが装着されている。
Gold Wing Tourではスクリーンを一番低めるとヘルメットに風があたり、ヘルメットのベンチレーションがよく働く。逆にスクリーンを一番高くするとヘルメットの上を風が吹き抜けていき、風切り音も少なくなり、スピーカーからの音もよく聞こえる。身長・座高に合わせて、もしくはヘルメットに導く風の量を調整するために細かくスクリーンの高さを調整できるのがいい。
またスクリーン手前には風を身体に導くベンチレーションも備わっている。
今回は冬の試乗だったためにあまり恩恵を受けなかったが、これを使うと胸に風が当たるため、夏の暑い日や小雨の蒸し暑いときに涼しく感じることができそうだ。
シート自体は旧型のゆったりとしたものと比べるとシャープでスリムな印象。しかしロングツーリングでも快適そのもので、お尻がいたくなるなどは当然ないうえ、内側がスリム化したおかげで足つき性もよくお尻を前にずらして足を下ろす必要もない。
直立した自然なライディングポジションは首や肩に負担をかけることもない。のったその場からホームのようなくつろぎ感を与えてくれた。
先進的なインフォテイメントシステム
最大のトピックはCarPlayの搭載であるが、それ以前としてメーター回り、センターコンソール上のコントロールボタンなどスタイリッシュで操作しやすい。また左右グリップのサテライトスイッチに集約され、ボタン形状もスタイリッシュ、旧型にあったような質実剛健、数が多く、カウルまでにもスイッチが配置されるような混雑っぷりとは対照的である。
主な操作や調整はすべてセンターコンソール上のロータリースイッチ、またはサテライトスイッチで操作できる。
停車時は右手でセンターコンソールをいじる方が早く、走行中は左手グリップ上のサテライトスイッチで操作するのが無難だ。
スマホに慣れた我々としてはついディスプレイ上のアイコンをタップしたくなるが、グローブをしているし、触覚でわかりにくいので手触りのあるボタンの方が有難い。スマホ対応グローブを使っているが、なかなか思うような操作ができないのが実情だからだ。このへんは素手で扱う自動車とは大きく違うところである。
(続く)
公式サイト Gold Wing | Honda