モーターパワーの大衆化。日産NOTE e-POWER の提示する現実的な回答
2016.12.07
日産の電気自動車といえばリーフ。ピュアEVでゼロエミッションなのはいいのですが、航続距離が短い、充電時間が長い、充電スタンドが少ないなど不便を強いられてきたのも事実。
そこに現実的な回答をもってきたのが、今回新しく導入された e-POWERです。
エンジンで発電し、モーターで駆動する
e-POWERはエンジンで発電し、モーターで駆動する、いわゆるシリーズハイブリッドEV。このシステム自体は古くからあり、ポルシェがデザインした戦車や、潜水艦でも似たような形で使われています。自動車では似たようなシステムでレンジエクステンダーがありますが、何が違うのかというと、e-POWERは外から充電ができないこと。つまりガソリンを給油するしかないのです。そのためゼロエミッションではありません。
エネルギーセキュリティの変化
ピュアEVがゼロエミッションをうたうのですが、ローカルには確かに地球温暖化ガスの排出はゼロですが、実際のところ使う電気は何割かを火力発電に頼っているので、グローバルにみるとゼロとはいえません。
テスラではこの欺瞞を解決するために、100%再生可能エネルギー使用、太陽光発電による電気で充電しようとスーパーチャージャーネットワーク(急速充電スタンド)を整備していますが、これもカーボンオフセットみたいなもので、数値上、例えば100万kW太陽光で発電したら、近くにある普通の電気を100万kW使っていいよね、みたいな取引をしています。そりゃそうです、だって太陽光発電は昼間かつ天気のいい日しかできないのですから。これがピュアに天気の昼しか充電できないとなったら、不便でしょう、普通は夜寝ている間に充電したいものです。
日本ではもともと原子力発電による深夜電力を当て込んでいて、原子力は地球温暖化ガス排出ゼロなのでゼロエミッションを訴求しやすかったのですが、3.11でその方針が崩れてしまいました。地球温暖化する云々以前の問題、大規模災害となっちゃいましたので。
その結果日本では何がおきたかというと原子力発電がゼロとなり、至急火力発電をフル稼働、燃料は海外から大量に石炭・石油を買い込むという事態に陥り、貿易赤字へ転落しました。その後原油価格の低下や為替レートの変動により一進一退を続けています。
国のエネルギーセキュリティがこれだけドラスティックに変化している現在、ピュアEVのマーケティングも影響されるのは当然のこと。
現実的な回答
ピュアEVはゼロエミッションで理想的なのですが、航続距離の問題を解決する手段は高価な高性能バッテリーを大量に積むことが唯一の方策。その結果バカでっかく、重く、値段が高いテスラになってしまうのです。テスラがすごいすごいって言いますけど、なんもすごくない。モニタだってばかでっかけりゃいいだけの17インチ装備で、デザイン性や使い勝手なんて吟味されてない。とにかく大味なアメリカ車をヨーロピアンなデザインをまとってエレガントに演出しただけです。
テスラモデルSのサイズでは都内のパーキングメーターの枠の中に収まるように駐車したり、世田谷や鎌倉の狭いクランクを曲がるのは無理でしょう、そう、物理サイズは超えられないのです。
日本車であるリーフはサイズをバカでっかくできないし、値段も高くできないので、あのサイズで頑張って航続距離を伸ばしてきてます。でも気づいたのです、違うアプローチを。それが e-POWER。
もともとリーフのレンジエクステンダーを開発していたのですが、どうにもサイズ的にも値段的にも収まらない、じゃあどうしよう、となっていらんものをどんどん捨てていったそうです。
・でかいバッテリーをやめ容量 1/20に=小型軽量化へ寄与
・車内に積んでいた充電器を搭載しない=外部充電しない、ピュアガソリンマシン
そしてあり合わせのパーツを組み合わせて作ったのが NOTE e-POWER。
リーフのモーター駆動系にNOTEの車体を組みあわせ、エンジンは発電機専用としてチューンするもののNOTEと同じものを流用。電池はリーフの1/20とごくごく最低限の容量に限ったことで、大きな車体構造変更することなく自然に積むことができました。ちなみに電池は運転席・助手席の床下に積んでいます。
ガソリンタンクは41Lとガソリン車と同じ、燃費はガソリン車の23km/Lから34km/L(MEDALIST X/e-POWER MEDALIST)と1.5倍へになったことで航続距離も1.5倍に。
しかもパワーは 79PS/106Nmから109PS/254Nmとパワーで3割アップ、トルクはなんと2.5倍へ。
モーターパワーの美味しいところを味わいつつも、軽量コンパクトな5ナンバーサイズ、しかも充電スタンドの心配をしない、ガソリン給油。まさに美味しいとこ取り。
たしかにピュアEV、ゼロエミッションという理想はかないませんが、低エミッション化、使い勝手のよさ、そして入手性の高さ、つまりお値打ち価格で購入できることが最大のメリット。
大衆車は普及してナンボ
ピュアEVは素敵なのですが、ガソリン車からのシフトが進まないと地球温暖化ガスは低減しません。テスラはすごいのですけど、現在は1000万円から、今度出る廉価バージョンでも500万円以上の高額車なので一般大衆は手がでません。
一方 NOTE e-POWERは199万円からと背高軽自動車にちょっと毛の生えたお値段設定、しかも5ナンバーで積載性も高い。走りは254Nmのずぶといトルクで下からモリモリ加速、軽自動車なんてオサラバだぜな運動性能はとても魅力的。大衆車なのに、ちょっとしたスポーツカー感覚が味わえます。
ピュアEVが1000台でてセーブできるエミッションと、NOTE e-POWERが1万台でてセーブできるエミッション。地球温暖化ガスはグローバルな話、総量で考える必要がありますが、e-POWERの普及は大衆のお財布感覚と地球環境保護を両立できる可能性があるんです。
冷暖房問題
ピュアEVとハイブリッドで効率の話をする時に、忘れがちなのが冷暖房のことです。エンジン車の場合、暖房はエンジンの余熱を使い、冷房はエンジンの出力の一部を使ってコンプレッサーを回して実現しています。ところがピュアEVの場合冷暖房は別途システムが必要となり、容易ではありません。
冷暖房はガソリン車以上に電費にシビアに反映され、航続距離を短くする原因となっています。そのため電費を伸ばすために冷暖房を切るといった、涙ぐましい努力が強いられることがあります。
その点e-POWERの場合、エンジンを搭載しているのでエアコンシステムはエンジン車同様、暖房は余熱で、冷房はエンジンのコンプレッサーで行います。
だから冬の場合はエンジンが一度温まれば、電力はほとんど使わずに暖房が効き、停車中も暖房が使え、航続距離にほとんど影響しません。
結局我慢するのが嫌だった
冷暖房問題もそうですが、航続距離の短さや、充電スタンドの不足、そして充電時間の長さ、さらにはそれが他のEV、とくにガソリンいれたら走るPHVに占拠されていたときの待ち時間。とにかくピュアEVは我慢我慢、忍耐力が試されます。
せっかくモーターパワーで力強く走れるのに電費を気にしてアクセルが踏めなくなり、EVのよいところも台無しです。
そういったところが一気に解決するのが e-POWERだったんです。アクセル踏んで燃費悪くなったとしても、ふんだんにあるガソリンスタンドで41Lのガソリンタンクをたった2分で満タンにすることができるんです。
我慢しなくていい、モーターパワーをいつでも、どこでも、好きな時に扱える。そんな自由をもたらすのです。
これはピュアEVを駆逐するものではなく、並存できるアプローチ。新しい地平を目指し、モーター駆動がより一般化するひとつのステップなのです。
【動画を交えた試乗レポート】