FRの苦悩と憂鬱(2)ドリフトとの決別
2014.08.20ドリフトしないFRの道
ハチロクやシルビア・180SXに代表されるドリフト向き小排気量のFRは絶滅しました。FRでFFと同等以上の車内空間を確保するためにはボディサイズを大きくせざるを得ず、自然と排気量が大きくなり、マルチシリンダー化されます。
また電子制御の進化がドリフトを殺します。ABS、電子制御スロットル、トラクションコントロール、横滑り防止装置。どんなにアクセルをあけようと、どんなにリアをすべらせようと、事前に制御して安定化させるものです。これが2000年代後半。
ドリフトではなく、本来のドライビングプレジャー。FRは再びそれを追い始めます。
トラクションこそ命、トランスアクスル・レイアウト
そもそもFFの台頭と許したのは空間効率の良さだけではなく、トラクション性能でした。フロントヘビー、リアが軽いFRでは普通のFFにも敵わないのです。それでは重量物の一部、トランスミッションを後ろに移動したらどうか?
それがトランスアクスル・レイアウトです。
このアイディアは古くからあり、ポルシェのFR、928等でも採用されています。RRでリア荷重、トラクションの大切さを理解していたからこその自然な選択でした。
LFAに限らず、FRベースの4WD、GT-Rでもトランスアクスルレイアウトをとっています。もっともGT-Rの場合は4WDのため、一旦パワーチュープを経てリアで減速した出力を再びプロペラシャフトを使い前に折り返して前輪に動力を伝達するという、ややこしいことになっていますが。
パワーチューブはプロペラシャフトと違いエンジン出力そのままで回るため、超高回転です。重い、偏心しているのは問題外のため、軽量かつ精度が求められカーボン製が使われるなど、トランスアクスルは生まれながらにして非常に高価なレイアウトなのです。
安くて、手頃なFRが欲しい
そうこうしているうちに世界中見渡しても2リッタークラスのFRを出しているのはダイムラー・ベンツとBMWだけになってしまいました。とはいえベンツですらAクラス、Bクラスでは横置きエンジンFFとなっています。
ここで気を吐いているのが、「駆け抜ける歓び」を謳うBMW。かたくなにFR、50:50の重量配分という哲学を守り、CMではドリフトやマックスターンを見せつけます。そうです、日本発祥のドリフト文化が世界を、そしてあの西ドイツを席巻した瞬間です。そう考えるといかに映画ワイルド・スピード TOKYO DRIFTの影響力の大きさが理解できることでしょう。
そのBMWでも、1シリーズの一部はMINIとプラットフォームを共有しFF化されるというのですから、いかにもFRは不利です。
そんな2010年代、ふわっと湧いて出てきたのがトヨタFT-86、「86」です。あのハチロクの夢よもう一度、手頃なFRが欲しいということで企画され着眼点はよいのですが、トヨタのどこを探してもベースとなるものはありません。
しょうがないので、傘下に収めたばかりのスバルに白羽の矢がたちます。
インプレッサ4WDのフロントデフを抜けばFRの一丁あがり、のはずが
実はその昔、インプレッサのフロントデフからドライブシャフトを抜いてFR化するというのをやっていた人がいました。今回のFT-86の企画もそれに倣ったもの。本当にそのままやっていたらもっと安く、簡単にできたものを途中から本気になってしまったらしく、
「いいFRを作るんだ!」
と理想に燃えた結果、あれやこれやといじくり倒してできたのが現在の「86」。
「ハイパワーターボ、4WD、ハイグリップタイヤがスポーツカーを殺した」
と公言し、ターボエンジンからターボを抜き、燃費指向のエコタイヤを履かせて、なおかつ「部品はこれね」と昔懐かしいアルテッツァの6速トランスミッションをのせて作っちゃいました。
なにせターボを否定したうえ、きちきちのエンジンルームを新設計したものだから、後からターボを付けることすらできず、
「FRでまたドリフトできる!」
と思ったのもつかのま、ぬか喜びとなってしまいました。いや、ドリフトできないわけじゃないけど、どうして今の時代にS13シルビアのNAなんだ、という気持ちにもなるんですよ、もの足りないよ、ギブミーモアパワー。
(続く)