日常に溶け込むスーパースポーツ:Audi R8 Coupe 5.2 FSI quattro試乗レポート(3)
2013.12.17「快適な室内空間:Audi R8 Coupe 5.2 FSI quattro試乗レポート(2)」の続き。
5.2L V10エンジンをミッドシップに搭載するAudi R8クーペ。最高馬力は525馬力、これを通常フロント15% リア85%の駆動力配分による4輪で駆動します。
前回のAudi R8はオープンボディの Spyder、しかもGTということで非日常感満載だったのですが今回のR8 Coupeは屋根がある2シータークーペ。ボディサイズに余裕があることから室内空間も適度にタイト、適度にゆったりという絶妙なバランス。一度乗ってしまえばその空間は馴染みのリビングのようです。
これを演出するのがGTと違い通常タイプの本革シート。サイドサポートは高くなく、乗り降りもしやすく、乗る瞬間から違和感なく馴染みます。
また今回のは右ハンドルオートマという点も注目すべき。外車、しかもスポーツカーは左ハンドルが多いですが、こちらは日本仕様の右ハンドル。デュアルクラッチの 7速S-tronicが2012年のマイナーチェンジで搭載され、そのシフトチェンジのスムースさは 6速 R-tronic以上。6速から7速と多段化されたことによりギアレシオはさらにクロス、スムースさに磨きがかかっています。
S-tronic トランスミッション
適切なギアとパワーバンドの組み合わせ、しかもデュアルクラッチによる電光石火のシフトチェンジは、もちろん0-100km/hといった加速性能にも有利ですが、実は運転者にギアチェンジ、なにそれ? という同乗者にも優しくなっています。
どうしてもシングルクラッチではギアチェンジの際に突然クラッチが切れて、再びクラッチがつながるタイムラグが大きく、その間の失速感やトルクが途切れることにより次の加速時にガクンとショックが大きくなってしまいます。運転者ならいざしらず、同乗者はそれがいつどのタイミングで起きるか予測できないので、それが不自然、違和感を感じる原因ともなります。
マイナーチェンジで搭載されたデュアルクラッチの S-tronicはその点、Audiが熟成を重ねたデュアルクラッチトランスミッションのため、優しい運転から、電光石火のギアシフトまで自由自在。特に Sports Modeでのダウンシフトでのブリッピング、回転数合わせは正確でほとんどショックがありません。西川善司さんによると、Sports Modeの方がノーマルよりも乗り心地がいいくらい、とのこと。
同じエンジン、同じ出力であったとしてもそれを車輪に伝達するトランスミッションにより随分と印象は変わります。
標準のエンジンですが、トランスミッションの洗練さ具合により、R8 Spyder GTと比較するとこちらの R8 Coupeの方がよりスムースかつパワフルに感じる瞬間がありました。GTは獰猛さがあったのですが、もっと飼いならされた感です。だからといって獰猛さがないわけではなく、じゃじゃ馬っぽさはあるけど、よりお嬢様っぽいというか。
この上品さはクーペボディによる静粛性、快適性も寄与していることでしょう。今回雨は降りませんでしたけど、天候によらず使えるクーペはオープンより日常的です。またシートが通常タイプで乗降しやすく、足をついた時に感じる車高の低さでようやくこれがR8であることを気付かせる程度、同じAudiであれば TTから乗り替えてもほとんど違和感を感じません。
逆にこの馴染みのよさが仇となって、すんごく違う! という感激は薄いものとなっているのが惜しいところ。ただAudiというのはやはりこれは狙ってやっているところなので、もし「すんごく違う!」というのが欲しい人は兄弟車であるランボルギーニ・ガヤルドがあるので、わざわざR8で冒険する必要もない、といったところでしょう。
ハンドリング
全体的にハンドルは重めで切り始めたときのヨーの立ち上がり、つまり切ったら切っただけ曲がるという感触は大きくなく、このまま本当に曲がるのかな、大丈夫かな、という心配感があります。ロールを抑えてあるせいか、より超高速よりの設定なのでしょう。実際にグワっと大きく、速くハンドルを切ってみればそこそこヨーが立ち上がるので、タイヤのグリップ力やクルマのバランスのポテンシャルは高い印象。ただ問題はそれを公道で試す場所はないことです。
低速域、例えば狭い林道やワインディングでヘアピンがあった場合はこのどっしり感が逆に曲がりにくい印象です。さらにハンドルがDカットシェイプなのでたくさん回したときにやはり違和感を感じるので、ハンドルの形状からもこのクルマがいかに超高速域、ハンドルをほとんど切らずに曲がる場所に合わせてあるかということが分かります。
高速走行
高速巡航も安定そのもの。それもそのはず、300キロオーバーで走行できるだけの安定性を持っているわけですから。多少気になるのはハンドルに伝わってくるフロントの駆動と、風切り音。
リアスポイラーがウィング形状ではなくフラップ形状なのと、大きく張り出したサイドエアインテーク、サイドウィンドウとパネルの段差があるなど、全体のシェイプはスムースなのですが、細かなところで乱流を生み出すデザインとなっており、そのためか空気が剥離、ピューーといった風切り音になっているようです。
R8 Spyder GTはオープンカーで騒音が大きかったので風切り音は気にならなかったのですが、逆にクーペは車室内が静かで、結果的に目立ってしまった格好です。西川善司さんのビデオを見ても分かるように、V10 5.2Lエンジンをミッドシップに搭載するにもかかわらず車内の音声はとてもクリアで、助手席との会話が楽しめます。
7速100km/h巡航で回転数は約1900回転。A(オートマ)モードで加速したいときはアクセルを踏み込むとなんと一気に3速まで4速分もキックダウンします。デュアルクラッチトランスミッションは奇数ギアと偶数ギアで、スタンバイを~といった蘊蓄はありますが、4速もキックダウンすると同じ奇数ギアを使用するので純粋にクラッチを切って、シフトチェンジして回転数を合わせてクラッチをつなぐという形になるのですけど、このつながりも非常にスムース。
エンジンは自動的にブリッピングしてピタリと回転数を合わせてくれるのでショックなんてありません。アクセルをガバっと踏むだけでゆったりクルージングから非日常の加速態勢まで自由自在です。
ブレーキ
ブレーキの効きは素晴らしいのひとこと。どんな速度域からも停止できそうな初期のタッチ、効きの立ち上がりがあります。逆に低速域では効きすぎてブレーキ圧のコントロールには相当気を使いますし、きっとこれに慣れて他のクルマに乗り替えたら「効かない!」とビックリすることでしょう。それほど安心感と、コントロール性が高かったです。なお、ディスクローターへの攻撃性が高くローター表面が凸凹になっていたためか、低速時には競技車のようなキーキー音が出ていました。このへんはどうでしょうね、効きとの引き換えなので私は気にしませんけど、オーナーによっては気になるかもしれません。
オーディオ
最新のナビゲーション・オーディオシステムはbluetooth対応。iPhone5などBT対応スマホ、オーディオ機器と接続して音楽を無線で再生することができます。これが非常に便利。
ハンドルのボタンで曲送りや音量調整ができるので、一度好きなプレイリストを指定すればあとはスマホを操作する必要がありません。
他にもUSB接続等が可能です。
まとめ
スーパーカーは非日常を演出するものですが、このR8 Coupeはより日常的な印象。トランク容量がミニマムだとしても週末1泊2日程度の旅行であればOK、長距離ドライブするのにはピッタリの快適な車内。R8は
「everyday sports」
ということを感じさせてくれる1台でした。
最後に今回のサモアオレンジ、鮮烈なオレンジは紅葉の山々にぴったりの色でした。紅葉シーズンにこの一台で紅葉狩り、温泉へい行くと最高でしょうね。
燃費記録(参考値)
414.5/77.77L = 5.32km/L (首都高速および郊外路)
221.2/33.25L = 6.65km/L (主に東名高速)
015.7/5.43L = 2.89km/L(下道のみ、誤差大きめ)
トータル 651.4km/116.45 = 5.59km/L