安全と走行性能は両立する、未来からやってきたGT-R:日産GT-R 2013年モデル試乗レポート(3)
2012.11.26「内なる進化、2013年モデル仕様変更詳細 インテリア編:日産GT-R 2013年モデル試乗レポート(2)」のつづき。
内なる進化を続ける日産GT-R。目につくのはスペックですが、その数値は2012年モデルと2013年モデルで変わらないものの、パフォーマンスは向上しているんです。
【スペックとは?】
いわゆるエンジンのカタログスペックは2012年モデルとまったく同一。しかし0-100km/hは0.1秒短縮し2.7秒へ、ニュルのラップタイムも7分18秒と向上。ベンチマークとしての加速性能、サーキットのラップタイムが向上しているので間違いなく何かをしてますが、それは数値に、文字に現れてきません。
これはF1を想像すれば分かりやすいですが、F1では例えばエンジンパワーや空気抵抗、ダウンフォースの数値を公表していません。しかもエンジンサプライヤーは同じエンジン・ミッションを各チームに提供しますが、そのラップライムは明らかに異なります。これはどうしてでしょう。
簡単にいうと、サーキットを速く走るにはカタログスペック、数値は不要だから。数値が優れたものが即ちサーキットで速ければそれは指標になるでしょうが、スペックがその指標にならないことの証左です。サーキットでは速ければエライ、となります。
同様にGT-Rもカタログスペックとしての数値は存在しますが、それ自体には意味がありません。1730kgという車両重量も重いというのはあくまでも他のクルマと比べての話であり、2000kgのクルマに比べれば270kgも軽いといういい方もでき、あくまでも相対的なもの。結局何かと比べてという相対評価をこれまでしていた延長でスペックをとらえ、既成概念に惑わされてしまったのは我々でした。だからスペックが変わってないのに、速くなるってどうして? と思ってしまうのです。
相対評価。日本車がよく陥っていた罠ですが、どこかのクルマの真似をして、同じ性能で安いから「いい車」という評価をする、というもの。
欧州車をベンチマークにする日本車のクルマ作りの限界 ([の] のまのしわざ)トヨタに限らず、ホンダや日産もそうだと思うのですが、必ず「ベンチマーク」という言葉が出てきます。いわゆるライバル車、または目標とする車をもってきてその車と比較、参考にすることでいい車を作ろうという手法です。
これ自体は技術力や性能に大きな差があった時代、たとえば20世紀はとても有効だったと思うのですが、日本車が販売台数で肩を並べ、トップを狙おうかという21世紀ではどうなんでしょう。本来であれば逆に目標とされなければならない立場になるのに、目標を見失い未だ横をみてきょろきょろしているという状態です。結局「売れる車を真似して作る」以上のことができてない証左です。
これに消費者である我々も毒されてしまい、カタログスペック偏重のきらいがあります。我々の若かりし時代はエンジンの機構とピークパワー重視、DOHCで何馬力でるか、というのがステータスでした。
280馬力規制がなくなったころにはすっかりエコがブームとなり、馬力に興味を持たなくなった消費者。一方で出てきたのが今度は燃費で、今では燃費の数値を競い合っています。燃費は使用状況、走行距離、そしてなによりドライバーの運転技術でガソリン消費量、CO2排出量が左右されるものなので、テストで決められた走行モードで走らせて出した1リッターあたりの燃費自体に意味があるのかどうか。英語のテストができるガリベンと同じことで、いざ外国にいったところで喋れないということにも。
法規制の落とし穴、弊害はいたるところにあります。
燃費、排出ガス規制もそうですが、衝突安全性もそう。50〜60km/hでの衝突安全性は法律で決められており、これを受ける必要がありますし、ランフラットタイヤの安全性も80km/hで決められています。
では300km/hで走行するGT-Rがこの法規制のみに適合すればそれでいいのでしょうか。
リアルワールドでの事故を考えたとき、この法規制ではまったく不足、なんの助けにもなりません。GT-Rは法律で決められた水準以上の速度域を想定し、設計しているのです。
例えば排気ガス、U-LEVは80-120km/hの領域ですがGT-Rはその速度域以上でクリーンな排ガスを達成。ランフラットタイヤは270km/hでバースト試験、実際にニュルの直線を296km/h走行中にテストドライバーの鈴木利夫さんがバーストしたもの、無事にガレージまで自走して帰ってきています。常識的に考えて300km/h近い速度でタイヤがバーストしたら大スピン、壁にぶつかって即死です。しかしそうならないのは、その速度域までメーカーが本気でケアした結果。そうでなければ、GT-Rの謳う公道300km/hの安全は確保できないのです。
ではこれは無駄なのでしょうか。
過剰性能なのでしょうか。
GT-RはGT-Rのためだけにあるわけではありません。将来乗用車がどうあるべきか、どのように進化するのかを先取りした未来のクルマでもあるのです。そのためのトランクがついた4人乗りの標準的なパッケージング、SUVでもセダンでもワゴンにも応用可能な形となっています。
その昔、ドラムブレーキにOHVが標準的だった時、ディスクブレーキにDOHCは高性能車の証でした。しかしこれは単なる速いクルマ、だけでなく同時によく止まる安全なクルマでした。そして今やディスクブレーキにDOHCは当たり前です。
同じことが現代のGT-Rにもいえるでしょう。
加速性能の向上はそのままブレーキ性能の向上につながります。なぜならグリップ力がそれだけ増加したことでもあるからです。
その結果、GT-Rは100km/hからのフルブレーキではたった27mで止まり切ります。ウェットであっても30m。この数値がいかに凄いか。それは他車と比較すれば自明。
▼JNCAP|自動車アセスメント - ブレーキ性能試験の概要(2011年度結果)
▼2011年度以前の結果⇒自動車アセスメント・チャイルドシートアセスメント | 自動車総合安全情報
国産車はドライ40m〜44mが中心的で、スバルレガシィが39.0mと最短。一方 Audi A1が38.1mともっとも短くなっています。
ドイツのテストでは35m前後が中心。
▼Bremsweg-Bestenliste: 40 Top-Bremser 2011 - Bilder - autobild.de
▼制動距離、決めるのはメーカーの良心!|いつでもどこでもCarrera 4|ブログ|堅雪かんこ|みんカラ - 車・自動車SNS(ブログ・パーツ・整備・燃費)さて、このほどAUTOBILDで大掛かりなブレーキテストを行った。そのうちのベスト40が発表された。100km/hから完全に止まるまでの制動距離を1台につき4回の計測で出したものである。基準として37m以内であれば優秀、40m以上であれば危険というものだった。
最短はカーボンブレーキ(PCCB)を装備するポルシェ911 GT3 RS4.0となっています。計測条件が異なるかもしれませんが、GT-Rの27mはこれを大幅に凌ぐもの。重いから止まらないというのは2トン級のパナメーラS ハイブリッドが 33.5mと911に遜色がなく、より軽量なケイマンSを超えるストッピングパワーを持つことからも、当てはまらないです。
ドイツのスポーツカーを遥かに凌駕、国産の普通のクルマから比較すれば13m〜17mも短く止まれる、つまり車の長さが約4.5mとしても2台半から3台分短く止まれるのです。これはどういうことか?
安全ということです。
同じ100km/hで走っているのであれば、どのクルマよりも追突する危険性が低いということになります。速いクルマは危ない、というのではなく、速さと安全は両立するのです。
法規制だけをクリアできるだけのクルマばかりになってしまうと、自動車技術は進歩しません。将来の自動車技術の進歩のためにスーパーカーはどうあるべきなのか、メーカーとしてどうしていくのか、それを追求しているのがGT-Rなのです。
次回はこの設計、開発を具現化する生産について。
(つづく)