ミシュランタイヤ・テストドライブ(3):トラクションは正義! ポルシェ911 GT3 RS編
2012.05.09(2)のつづき。
今回はミシュラン・パイロットスーパースポーツ装着のポルシェ911 GT3 RSの試乗インプレッションです。
ポルシェというだけでもすごいですが、その中でも飛びぬけているGT3、さらにレーシング仕様のRSというのですから、もう聞いているだけで気が遠くなります。
しかもそのGT3 RSをさらにモディファイ、軽量化とボディ剛性アップを中心に行っていてさらにレーシーに、というかもはやレースカーといっても過言ではないレベル。
さて今回私にとって初ポルシェ。その初めてのポルシェがほぼレースカーといってもいいGT3 RSというのですから、その緊張感たるやハンパないです。ロールバーを潜り抜けてバケットシートに滑り込み、シートベルトをしてカーボンドアをパタンと閉める... この感覚、完璧に競技車です。
キーを捻ってエンジンをかけると、
バオン! ドロドロドロ...
排気の圧が強い、圧が強いよ! 音が当然のことながら後ろから響いてきます。しかも少し遠目。そうでした、これはリアエンジン、リア駆動。運転席から遠い遠い、リアの車軸のさらに先っぽにエンジンとエキゾーストがついているのでした。
操作系を一つ一つ確かめると、まずクラッチが重いんです。うーん、競技車。そして6速マニュアルのシフト、これもコキコキと正確な動きをするものの、重いというか固いというか。グニャっとした感覚は皆無です。
唯一ハンドルだけは普通っぽい、というか普通に丸いハンドルでした。なんとなく安心できる瞬間です。
緊張しながらクラッチミート。お、重い~
なんとかエンストも、クラッチを滑らせることもなくスムースにスタート。ただ走り出すと重いんです、今度はクラッチではなくクルマが。あれ軽量バージョンだったはずだけどなあ、なんかズッシリしています、特にリア側。重いから地面に貼り付いている感じ。
では鈍重かというとまったくその逆。アクセルを普段のようにポンと踏み込むと・・・
バウン!
うぎゃーーー、なんじゃこのレスポンスは!
パワーがどうといかいうレベルではなく、アクセルを踏んだ瞬間にクルマが前に吹っ飛んでいくんですよ。まるでアメリカアニメでよくあるような、体だけ前に進んで魂がおいてかれる感じ。え、これってターボではなく、自然吸気でしたよね。
低回転でもトルクは十分、3000回転を過ぎたあたりでアクセルを踏むとそれこそ理解不可能な加速で前に飛んでいくわけですよ。こ、こえええええ。
シフトダウンでクラッチを切ってアクセルをあおると、その速いレスポンスであっというまに吹けあがってしまい、まったく回転数が合わず、落ちてくるのを待つくらい。ええと・・・
まったくノレません(涙)
ノレないのはアクセルだけでなく、コーナリングも。ブレーキはウルトラ強力でまるで壁に向かってぶつかるかのごとくその場で止まるといった様相。だからブレーキをむちゃくちゃ踏む必要もなく、ワインディング程度ではちょんとブレーキに足を載せるだけで十分な制動力が出ます。
そこから踏み込んでいくと踏み込むだけ制動力が上がっていく感じ。そして普段のクルマの制動力を遥かに超えていくので、もう異次元ゾーン。そんな制動力、いきなりは使いこなせません。
といういわけで、ポルシェとのファーストコンタクトはまったくもって借りてきた猫。完全の乗せていただいているというお客様状態、ウルトラグリップする4輪のタイヤが路面をがっちりと掴み、ウルトラ吹け上がるハイパワーなエンジンで前に瞬間移動し、ウルトラ効くブレーキでまるでその場に突き刺さるかのように止まる異次元の乗り物に恐怖しましたよ。
ああ、こりゃ別物だと。
いわば今まで乗っていたのはGM、いやせいぜいボール改くらいなもの。オレのボールは2連装バルカンで相当イケてる、これでゲルググと対等だぜ、と思っていたら、いきなりガンダムに遭遇したかのようです。
本物のモビルスーツはすげぇ...
確かにいまどきの背高人員輸送機や、燃費だけに特化した乗り物に比べればボール改の運動性能は圧倒的です。しかし、ガンダム、しかもマグネットコーティング済のガンダムの性能は圧倒的でした。そりゃアムロが、
すごい、5倍以上のエネルギーゲインがある
というわけです。あ、モビルスーツではなく、クルマの話でしたが、つまりそれくらい衝撃的だったということです。
とにかく別物かつ、不思議な感覚。フロントはハンドルを切ればコーナーに入っていくイージーさがあり、よく言われるフロント荷重がすくないことによるデメリットは感じなかったのですが、とにかくリアがこれまで体験したことのない感覚。常に重いのです。
自重により重いのはもちろん、サスペンションストロークによって荷重が抜けることがあるはずなのですが、いや、実際には多少抜けているのかもしれませんが、それでもそういう感覚がありません。
ブレーキの時ですら、前に荷重が移動して前で止まるのではなく、後ろの荷重で後ろで止める感覚。ようはとにかくリア荷重が抜けないのです。実際ポルシェの後ろについて走っていると、リアの動きがヒョコヒョコしていて、ずいぶんと動いているのですがその動きはすべて沈む方向、浮き上がる方向は抑制されている感じで、跳ねる、といった印象は皆無。
例え路面が荒れた、つぎはぎだらけの県道であってもサスペンションとタイヤでねっとりと掴み続けているんですよ。だから乗り心地も問題なし、正直うちのS2000よりも快適です。
簡単にいうと、アクセルを踏むとリアが沈み、ブレーキを踏むとリアが沈み、路面が荒れてサスペンションが動くとリアが沈む、といった様子なんです。そのためリアタイヤにかかる荷重は車両重量分以上に増えている感覚。それが車両重量よりも「重い」と感じる理由でしょう。
低速域がメカニカルグリップで荷重が増えているのに加え、高速域ではワイドなリアウィングのおかげでさらにリアのスタビリティが向上。ますますリア荷重が増えるばかりです。
世界の自動車メーカーの中でリアエンジン、リア駆動(RR)を作り続けているのはポルシェのみ。RRは量産車として合理的ではないと言われ、その不合理性ばかり取沙汰されますが、よくよく回りを見渡すとRRしか存在しない世界がありました。それはオフロードバギー。
オフロードバギーはグリップの少ないオフロードを2輪駆動で走るため、リアの先に一番重い重量物であるエンジンをくくりつけ、トラクションを稼いでいます。この構造はなにも1/1スケールだけでなく、1/10スケールラジコンの世界も同様。モーターをテールエンドにおいてリアヘビーにしています。このように意図的にリアヘビーにすることで、リアタイヤの荷重を増やし、トラクションを得ているのです。
グリップが期待できないオフロードならではの構造ですが、であればグリップするオンロードではさらにトラクションに変わるはず。確かにフロント荷重は他車種に比べれば少ないかもしれませんが、そのデメリットを補ってありあまる、いやトラクションというメリットがすべてを覆い隠すといってもいいのでしょう。その特殊なアンバランスなバランスが世界のポルシェ乗りを魅了するに違いありません。
とはいえ、万人に向いているかというとさにあらず。
ファーストコンタクトですっかり乗られてしまったように、多くの人はその乗り方、走らせ方に慣れ、乗りこなすのには相当な鍛錬が必要かもしれません。特にRRの弱点であるフロント荷重の乗せ方。
FFやFRはそもそもフロント荷重があるので、ハンドル切るだけで曲がっていくんですね。それに対してRRは意識的にフロント荷重を乗せないと構造的に曲がらない、曲がりにくいわけです。
そうなるとブレーキがとても大事。荷重をのせるためのブレーキとハンドル操作の連携がとても難しく、そしてアクセルを入れるタイミングや入れ方。荷重をきっちりかけずに曲がろうとするとアクセルを入れたら、クルマがまっすぐ進もうとする、いわゆるプッシュアンダーが出てしまうことに。
うまく乗れるとターンインでハンドルを入れたあとは、ヨーモーメントを使ってアクセルでコーナリングをコントロールできる、という話ですが...今の私にとっては見果てぬ夢みたいなもの。そのためには「ポルシェ乗り」になって、鍛錬を積まなければなりませんね。
果たしてそんな日は来るのでしょうか? 人の夢と書いて「儚い」と読みますが、せめて貯金して少しでも近づきたいものです。
いつかは、リアエンジン、乗りたいなあ。
(つづく)