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ヤマハFZ250 PHAZER(フェーザー)1985年式 レストア記

ミシュランタイヤ・テストドライブ(4):一歩また理想に近づいた S2000ワンドラSPL編

2012.05.10

(3)のつづき。

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今回はミシュラン・パイロットスーパースポーツを装着してずいぶんと理想に近づいたS2000ワンドラSPLについて。

ご存じのようにS2000はワンドラで制式採用しているマシン。特徴は9000回転まで回るVTECエンジン前後重量配分50:50を実現した後輪駆動、そしてオープンカーということです。

↓ホンダによる開発コンセプト(広報資料)
S2000 1999.04

このS2000をベースに、主に足回りを変更。10年間の間に幾多の変遷を経て、現在の仕様は以下の通り。

・タイヤ ミシュラン・パイロットスーパースポーツ F 215/45R17, R 245/40R17(後期型純正サイズ)
・RAYS CE28N F7.5J-17 +50, R9.0J-17 +63(純正比 +0.5J, +0.5J)
・スプリング アイバッハ F8kg, R9kg
・オーリンズDFV
・LSD クスコRS 1way
・スタビライザー(前後とも後期型)
・ブレーキパッド BRIG(for RALLY)
・ボディ補強

エンジンルーム内は特に変更のない、単なるノーマルです。

さてS2000(前期型AP1)はどんなクルマかというと、カンタンにいってしまうとリスキーなクルマ。なにが危険かというとホイールトラベルが割合多く、ストロークすると荷重変動が大きく出てしまい、それによってリアが唐突にブレイク、カウンターをあてるもののお釣りを食らって反対側にドカン、というもの。

腕利きはいいのでしょうが、ペースをあげていくにつれ崖っぷちの1本の線に乗るような走りは慣れない人にはかなり厳しいです。

その原因はいろいろありますが、スタビが硬すぎるとか、リアサスペンションが短くてトー変化が大きいだとか、いずれも後期型になって改善され、安定方向にふられました。

そんな中、「S2000 SHIWAZA SPL」はEK9シビックタイプRの後を受けサーキットタイムアタック仕様としてSタイヤを装着、それに合わせてバネレートもとにかくアップしていった経緯があるのですが、あまりに上げすぎて乗り心地は最悪、荒れた路面では突き上げどころか吹っ飛んで行ってしまう危うさ、そしてサーキットでもボディが捩れることで制御不能になるなどデメリットが顕在化しました。そんな状態なので街乗りが快適なわけもなく、ワインディングも街乗り用ラジアルタイヤと合ってません。

バネが硬く、ロールしないので荷重は十分に外輪に乗らず、そうなるとタイヤの持つグリップ力だけが頼り。ハンドルを切り足していったときの手ごたえは薄く、ともすればグリップのピークを過ぎそのまま一気にグリップを失い曲がらないといった恐怖も。これはドライ路面だけでなく、ウェット路面ではさらに顕著。

リアタイヤも同じく、荷重が十分にかからないことにより横Gがたまっていったときに唐突に振りだす挙動へ。結局タイヤのグリップ力に頼った運転にならざるを得ません。荷重が前いったり、後ろにいったり、右へいったり、左へいったり。そういう動きが少なかったんですね、常に平たい状態。

昨年ルノースポールのハンドリングに衝撃を受け、サーキット走行を一旦お休みすることにしてルノースポールに負けないハンドリングをS2000で実現しよう、と考えました。

そこでまず最初にやったのがバネレートの見直し。

ワインディングを走行するときに合うバネレートを考えた結果、それまでの半分のF8kg/R9kgとしています。あとはこのバネレートに合わせてラジアルタイヤをチョイスするだけ。実は他のタイヤが候補だったのですが、今回ミシュラン・パイロットスーパースポーツの評判が高く、タイヤテストも行うことにしたので今回ミシュランタイヤを装着しています。

ということで今回のミシュラン・タイヤ装着ではじめてワインディング仕様の「ワンドラSPL」が完成したというわけです。ちなみにその前のタイヤはブリジストンRE-11(同サイズ)です。

本来はタイヤを決めてからバネレートやショックの減衰力を決めるのがベストなのですが、今回は成り行き上逆となっていしまいました。しかしミシュラン・パイロットスーパースポーツのオールラウンドの性格に助けられ、なんとか辻褄をあわせられました。

具体的にどういう状況かというと、いわゆるハンドリング市民革命、

  1. ハンドルを切ったら曲がる
  2. さらにハンドルを切ったら、さらに曲がる
  3. もっとハンドルを切ったら、もっと曲がる

が実現できたのです。

S2000の場合、(3)まで来るとたまったGとパワーオンによって駆動輪がブレイク、リバースステアになりがちなのですが、きちんと荷重がかかっていることにより多少リアがブレイクしつつも前へと押し出す形となり、ハンドルを多少戻すといった修正舵はありますが、大袈裟なカウンターステアまでいかない、とてもまろやかな動きとなりました。

これはドライだけでなく、ハーフウェットのような滑りやすい路面でも同じ。つまりドライでもウェットでも同じような運動特性となったのです。

前後重量配分は静止状態で50:50。これが動いているときはつねにその前後荷重は変化しており、コーナリングの場合、ブレーキで前荷重、アクセルで後ろ荷重と荷重が移動します。前荷重が強ければハンドルの効きがよいですが、後ろ荷重となると前が外に逃げ始める、いわゆるアンダー傾向が強くなります。

そこをフロントのオーリンズショックの伸び側を調整、減衰強く(硬く)することで前荷重を逃がさないようにしています。

一方のリアはオーリンズショックの伸び側の減衰を弱く(柔らかく)することで、前荷重をしやすく、ターンインですっとフロントに荷重が移動してハンドルの初期応答をよくしています。

50:50の前後重量配分はFRとして理想的なのかもしれませんが、実は静止状態がバランスされているがゆえに、ちょっとした運転操作に対してシビアに荷重が前か後ろに移動してしまうきらいがあり、ハンドリングを難しくしているようにも思います。

もうひとつ気になるのが空力設計。今や当然となったストレーキ(スパッツ)がオプション設定されているなど当時としては先進的ですが、そもそもオープンカーであること、パラシュート効果(エアブレーキ効果)の大きなリアバンパーの形状など、前世代感は否めません。特にオープン時の空力の悪さはもはや宿命的。その状態で走行すればどうしてもリフト傾向になるのは仕方のないことです。

この空力の悪さ、リフトによって全体的な荷重が減り、トラクションやグリップに影響します。ただでさえ操作に対して鋭敏に前後荷重が変化するのに、さらに高速域では空力によってリフト、荷重が減ってしまうという状況。

そのためスピードを出せば出すほど安定方向とは真逆な、浮足立つような感覚。この心もとなさがどうしてもつきまとってしまいます。

もちろんハードトップと大きなリアウィングを装着し、空力を改善したりリフトを抑えたりすればこの現象は改善されますが、そうなるともともとのオープンエアモータリゼーションというコンセプトと相反してしまいます。そうであれば高速域はおいといて、空力が極端に悪化しない領域、中・低速域をオープンで楽しむのが一番の美味しいポイント。

そういう意味では、ドイツ車の高速巡航性や、ルノースポールのもつ中・高速域での圧倒的なスタビリティにはやはり一歩及びません。

さらに輪をかけて厳しいのが2000ccの自然吸気エンジン。6000回転以上では元気さを見せつけますが、それ以下では低速トルクが不十分、アクセルに対して機敏に反応できません。常に高回転を維持していれば相当イケルのですが、騒音も燃費もそれなりになってしまい、そもそも公道の運転態度としてどうかというジレンマに陥ります。

S2000の後期型はそういったこともあり、ギア比と排気量を見直し、ローギアード化と排気量アップによる低速トルクのアップにより低回転域でのレスポンスを改善しています。同時にボディ剛性のさらなるアップ、サスペンションセッティングの見直しにより安定方向にふりました。

S2000 Type-Sではフロントスポイラー、リアの大型スポイラー装着によりリフトを抑制。やはりホンダも問題点に気づき、世界の潮流に乗るべく熟成したということでしょう。

S2000ワンドラSPLは2001年製造、11年経過していて一昔前でいえばもはや廃車してもいい旧車の域に入っています。駆動系からは軽微な振動があり、幌を閉めればガタピシとうるさくなりました。1995年の東京モーターショーでSSMを見た時の衝撃、感動を受けて購入した今のS2000を大切にし、負けると分かっていても戦わなきゃいけない戦いがある、ということでセッティングを進めていきます。オーリンズショックの調整とミシュランタイヤ装着でずいぶんとハンドリングは理想的になりました。

フロントの動きは100点、気になるのはリアの動きでヒョコヒョコ動くし、荷重がかかっているのかどうも掴みにくいので、この点と快適性向上が今後の課題ですね。

S2000の、特に初期型はピーク時の限界性能が際立っていますが、メガーヌルノースポールにしても、ミシュラン・パイロットスーパースポーツにしても、ピーク時の性能ではなく、過渡特性をとても大切にしているのが特徴。この過渡特性についてはまた別の機会に。

(おわり)


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