フェラーリ・チャレンジストラダーレ試乗レポート(2)モデナとは違うのだよ、モデナとは!
2012.03.20「フェラーリ・チャレンジストラダーレ試乗レポート(1)公道を走るレースカー」の続き。
レース仕様の公道バージョン、それがチャレンジストラダーレ。
「ストラダーレ(Stradale)」とはイタリア語で「道路」という意味。つまり道路(公道)を走れるレースカーです。車名からはベースとなった360モデナの文字は取り去られ、大いなる意味が込められています。それは
「モデナとは違うのだよ、モデナとは!」
ということ。
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ではその違いとは何か、詳しく見ていきましょう。
ガラスからポリカーボネイトに変更されたリアハッチ。
エアアウトレットを備えるハッチ部分はカーボンファイバー。メッシュの網がついていてここから熱気が逃げる仕組みです。ただ逆に雨もここから侵入することになるので厄介。
ハッチ内に収まるのは、360モデナと同じ3.6リッターV8・5バルブエンジン。しかしパワーは400馬力から425馬力へアップ。赤いのはエンジンカムカバーではなく、エアインテークのサージタンクカバー。実際のエンジンヘッドはシルバーの角フレームの下に位置しています。さすがオイルパンのないドライサンプ方式、エンジン搭載位置が非常に低いし、ほぼクルマの中心にエンジンがきています。まさにミッドシップ。
エアは左のエアインテークからのみ導入され、大型のエアクリーナー室を経て左右に振り分けられます。エアクリーナーカバーもカーボンファイバー。
右側のエアインテークはオイルクーラー用です。
エンジンの両サイドの壁には雨水がエンジンにかからないように雨どいが付きました。ちなみにこの部分もカーボンファイバー。
エキゾーストはチタン。左右4本だしのうち太目の2本(内側)はバルブがついていて4000回転以上で開く仕組み。低回転ではトルク重視、高回転では抜け重視ということですね。
リアガーニッシュはよくみると穴があいているパンチンググリル、いわゆる「チャレスト・グリル」はエンジンルームにこもる熱を排出するためのもの。そりゃエンジンにマフラーまでぜんぶこの中に詰まっているんですから、そりゃ熱もこもりますね。素材はアルミです。
空力的にも向上しています。
リアハッチのダックテール形状はより強調され、盛り上がってます。
チャレンジストラダーレで追加されたリアデュフューザーはもはや航空機レベル。スプリッターつきでもちろん素材はカーボンファイバー。ディフューザー内部にあるアーム(?)も丸いパイプではなく翼形状になっています。
床面は全面覆われ、空気がディフューザーに導かれ飛行機のフラップのように効果的にダウンフォースを生み出します。この形状はもうなんというか、まさにF1だよね、という凝りようでF1ファンにはたまりません。
リアがこうですからフロントももちろんやってます。
決して開発ドライバー、ミハエルシューマッハを模したわけではないですが、アゴがせり出したエアインテーク。F1のフロントウィングを彷彿とさせるデザインと同時に冷却用エア導入量アップ、ダウンフォースアップに効いています。
メッシュグリルをよくみると一か所だけ丸くなっている場所がありますね。ここは牽引フックを取り付ける穴だそうですが、このためだけにメッシュをカットし丸く溶接しているという芸の細かさ。
F1のミラーを彷彿とさせる細いステーのミラーは手動格納式ですが、「壊れるので決して倒さないで下さい」というディーラーからの警告つき。素材はもちろんカーボンファイバー製。
ドアをひとたびあけるとそこはカーボンとアルミのワンダーランド。ドアの内張りはもちろんカーボン、標準モデルではドアスピーカー内蔵ですが、そんなものはありませんし、取り付ける穴もありません。当然配線もないでしょう。
ドアハンドルはアルミ、その下にあるレバーがドアのオープナー、こちらもアルミ製。
スカッフプレートはアルミ、Ferrariのロゴがお出迎えです。サイドシルは高くないですが、奥行きがあって乗り降りが大変。
高級車の内装といえば本革やアルカンターラが基本。もちろんチャレンジストラーダも例外ではないのですが、あれ、こんなところに黒い金属がむき出し...
黒く塗装された金属部分はなんとアルミボディそのもの。そうです、いわゆる「フロアカーペット」がないのです! もちろんそれにともない遮音材もなし。アルミフレームがむき出しの室内。そうそう、ボディの素材はもちろんアルミです。
シートは本革のバケットシート。オプションで4点式シートベルトも装着可能です。シートフレームはというと...
もちろんカーボン、調整ダイアルもカーボン。徹底しています。シートベルトはシートフレームに固定されています。シートは高級車の場合電動調整式ですが、こちらはいわゆるレバーを使った手動調整式。もちろん軽量化のためで、前後スライドと背もたれ角度調整しかできません。シートリフターにシートヒーターはもちろんなし。
ヘッドレストには跳ね馬の意匠。
インパネは2色のツートン、どちらも革で覆われこのへんは高級車感がでています。
助手席エアバッグ装着につき、助手席に後ろ向きチャイルドシートを付けるなという警告マークも。しかしこの車にチャイルドシートつける人、いるとは思えませんけどね。
その左側は1999年から2003年まで5年連続でF1チャンピオンを獲得した記念のバッジ。F1ファンにはたまらない逸品です。
シート後方には意外にも広いスペースが。オーナー曰く、スピーカーボックスを外せばゴルフバッグ2つはいけるとのこと。というかスピーカーボックスを外してしまうんですか!? なんでもBGMはフェラーリサウンドで良いのだとか...
いよいよドライバーズシート。カーボン製の軽いドアを開けて入ってみます。
皮シートに革張りダッシュボードに目を奪われてしまいがちですが、ただならぬ雰囲気を秘めています。
ハンドルは円形ですが多少変形タイプ。ホーンはハンドルの太くなっている左右のグリップ部分に内蔵、ちょうど9時15分に手をおいたときに親指で押せるように窪んでます。ハンドルから手をはなさずホーンが鳴らせるという配慮でしょうけど、そういうのって昔の日本車でもありましたね。いかにホーンが素早くならせるかという競い合い。フェラーリはきっと色々な危険回避のためのひとつとして、ホーンも素早くならせること、つまりはハンドルから手を離さず押しやすい場所にスイッチをおいたに違いありません。
メーターパネルは標準モデルがアルミなのに対し、カーボン。メーターは340km/hスケールで、日本の法定速度である60km/h付近、100km/h付近が一見して判別しにくい上、目盛が細かすぎてよくわかりません。
さらに分かりにくいのが奥まったガソリン計。覗きこまないと残量が見えません。
実は一番気にしなければならないというのが水温計。100度を超えたら要注意、オーバーヒートだそうです。高負荷運転よりも問題なのは都内の渋滞。特に夏の暑い日は困るのだとか。どれほど東京の運転環境は過酷なんでしょう。
中心に位置するのはタコメーター、最高出力の425馬力を発揮する8500回転からレッドゾーン。中央の数字はギアです。
シフトチェンジはパドルシフト。ハンドルコラムについたパドルでシフトします。
右側がアップ。
左側がダウン。自動的にシフトアップしない、セミオートマなので自分でシフトアップする必要があります。とはいえレッドゾーンに入る前にシフトアップするので、特に燃費運転しないよ、という向きにはこれで十分。
シフトダウンも忘れてもエンストしない程度に自動的にダウンしてくれます。車が停止すれば1速に落ちているので安心。
ということでクラッチペダルがない、2ペダルセミオートマです。ペダルもアルミ、ブレーキペダルは右足でしか踏めない幅狭タイプです。
ハンドル左側には各種スイッチ。ガソリン給油口、リアフォグランプ、パーキングランプ、ボンネットトランクオープナー。
センターコンソールにはエアコンの吹き出し口が3つ、それぞれに跳ね馬が意匠されています。エアコンはオートエアコン、ダイアルで風向、温度と風量を調整・選択します。STOPボタンはいわゆるクーラーをOFFにするボタン。ONではなくOFFというのが面白いところ。
セミオートマなのでシフトレバーがないセンタートンネル、といってもミッドシップなので位置は低いです。すべてボタンとなっており、リバースギアもボタン。赤いスタートボタンでエンジンスタート。あとはあまり触れてはいけないボタンだらけ・・・RACEボタン、ASR(いわゆるESP/DSC)オフボタンにL.C.(ローンチコントロール)。特にL.C.は使ったら即(何かが)壊れるという、もはや「自爆スイッチ」といってもいいでしょう。
ミラーは電動調整式、電動ウィンドウのスイッチもセンターコンソールに配置です。パネルですか、ええ、もちろんカーボンです。
バックミラーを覗き込むとそこには後ろの車とともにエンジンルーム内が見えます。後方確認は悪くないですが、左ハンドルで右後方の視界はあまりよくありません。合流時注意しなければならないので、追突を避ける意味でもある程度加速しないといけませんね。
ちなみにドアヒンジは軽量なカーボンドアに不似合なほど大きなもの。特に縦方向に長く、がっちりとしています。
ガソリン給油口は電動ですが、壊れた時に手動ワイヤーがエンジンルーム内に備わっています。フューエルキャップはアルミ削りだし、Ferrariのロゴ入り。もちろんハイオク(UNLEADED FUEL)指定。
425馬力のエンジンパワーを受け止めるのがタイヤ・ブレーキ。
タイヤ・ホイールはフロント225/35R19、リア285/35R19。標準装着はピレリP-ZEROですが、現在はブリジストンRE050Aが装着されていました。2000年代のフェラーリF1黄金期はブリジストンですからね、これもひとつ選択としてはアリでしょう。
ザラザラとした表面のブレーキディスクローターはカーボンセラミック。ブレンボ製で1枚のお値段約80万円。ブレーキディスクローター交換時、ブレーキパッドも同時交換になるので1台分4枚で約400万円とのこと。
え!?
日産GT-RスペックV:ブレーキ:GTNETちなみに、カーボンディスクブレーキと専用パッドの交換に掛かる費用は、約470万円+工賃と超高額だ。
いやしかし同じくブレンボ製カーボンセラミックブレーキを採用するR35 GT-R SpecVも約470万円なのでフェラーリだから高いということではない模様。カーボンブレーキの相場、ということでしょう。
しかしですよ、R35 GT-R SpecVの車両重量が約1680kgなのに対し、このチャレンジストラダーレの車両重量は軽量素材のおかげでなんと約1280kg。400kgも軽いのにカーボンセラミックブレーキ採用ということはつまりブレーキ効きまくり。低温時の効きは甘い、と解説されていますが乗りなれた一般車レベルから比べれば十分以上。そして高温時の効き、安定性は間違いないです。ミッドシップの重量バランスの良さからまさに踏めばその場で止まる、くらいの勢いで止まることでしょう。
スーパーカーに相応しい、まさにすべてがスーパーな作り。これほどの贅を尽くして作られたフェラーリがどんな走りを見せるのか。期待で胸が熱くなります。
あれ、そういえばトランクは?
(つづく)