スピードは本当に悪か? 「実用性」という言葉に翻弄された日本車
2011.09.10SiFo ルノークリオRS CUPに乗って改めて感じるのは、クルマに対する考え方の違い。日本車の多くが「実用性」という言葉に惑わされて室内を広く、大きく、高くしてしまい、その結果ボディも大きく重たく、重心が高くなってしまいました。当然のことながら操縦安定性は低下します。しかもそれをヨシとしているきらいが。
というのも日本においてはスピードは悪であり、スピードを落とせば落とすほど正義と思っている節があるからです。コーナーで十分に減速させるためにクルマはアンダーステアに作られており、曲がりません。曲がらないからコーナーの前で減速するだろう、とタカをくくっています。
でもワインディングにいってみればわかるように、実際には減速せず、センターラインをまたいで走っているドライバーがほとんどです。正面衝突する危険があるというのに、まったく気にせず対向車線に出てきます。
安全になるだろうと思って曲がらないクルマを作ったら、かえって危険になってます。
そして大きく重く、重心が高くなったクルマはさらに曲がりません。ええ曲がらないったらありゃしないのです。でもそれは「実用性」のため仕方ない、我慢すべきことと不便をしいているのです。荷物がたくさんつめて、人もたくさん乗れて便利になったんだからしょうがないと。
でも実際には違います、というか「実用性」の解釈を履き違えてます。
「実用性」を高めるためにやってきたこと、大きく重くするのは「貨物車」の進化なのです。「荷車」「牛車」といってもいいでしょう。ふと気づくと僕らが大好きだった自動車が知らぬ間にバスやトラックになってた、ということです。
自動車とは。自らが動かすクルマ。騎手が操る馬、騎馬の方。
クルマには移動の自由があります。空間の自由があります。音楽の自由があります。自らの意思で、自らがハンドルを握り、自らが責任をもって1トンを超える金属の塊を100km/hで飛ばすのです。
「実用性が高い」というのは、実用、つまり実際に用を足せることを意味します。ではその用とは何か。まずは「移動」です。そしてその移動がいかに安全に成し遂げられるかが第一義です。
本来運動性能・操縦安定性の向上は危険を助長するものではありません。逆に危険を減らし、安全をもっとも担保するものです。ところがそれだとスピードがでる。スピードは日本においては悪なのであえてそこを無視してるんですね。
だから第一義である安全は、運動性能・操縦安定性の向上以外で成し遂げようとしています。結局スピードの出せない、曲がらない貨物車を作り続ける結果に。
貨物ではない、自動車の進化としてあるべき姿は運動性能・操縦安定性の向上です。新幹線が営業運転210km/hから現在は320km/hまで上がったのはなぜでしょう。それにより危険になったのでしょうか? そんなことはありません、安全性は今も昔も変わりません。
新幹線において、スピードは正義です。スピードが速ければ速いほどいいのです。その究極の姿が500km/hを出すリニアモーターカー。だからといって安全性を顧みてないわけではないのはご承知のとおり。
なぜ自動車だけがスピードは悪なのでしょう。
諸外国をみると、ドイツのアウトバーンが速度無制限、200km/h前後での高速巡航は日常です。イタリア、フランスでも130km/hから140km/h引き上げ。規制にうるさいアメリカですら一般道、高速道路での制限速度が引き上げられる傾向です。
国土が狭い、道路が狭いといわれ続けていますが、実際には東名高速道路をはじめ2車線から3車線化され、登坂車線がある一部区間は4車線です。しかも舗装は世界一の技術で平滑に作られており、これだけの高品質な道路は世界的に類をみません。でも東名高速道路が開通してからこのかた、速度制限はそのままです。
軽自動車はかつて、高速道路の制限速度が80km/hでした。しかし今では100km/h制限になっています。しかし軽自動車の排気量はその前後を通して 660ccであり、最高馬力は64馬力に自主規制されたままです。車両の大きさも変わっていません。軽自動車が20km/hもアップしたのに対し、普通車は100km/hのままです。
超高速巡航から、山道、市街地まで。すべてのシチュエーションにおいて安全に貢献するのは運動性能であり操縦安定性です。
速度を出さければ安全、というのは日本の貨物車だけの話であって、新幹線を含め移動体は安全を確保しつつ速度を引き上げる、というのが世界の潮流です。
特に舗装道路というインフラ面では世界一の性能を誇る日本です。なのに制限速度が低いままというのは日本車の性能が低いか、ドライバーの腕が悪いかのどちらか、もしくは両方ということになります。
またはお上が「民衆は運転が我儘で下手くそで事故を起こすから危なくてかなわない。運転を許しているだけ有難いと思え」と見下した態度をとっているか。
いずれにしても日本車、ひいては日本人ドライバーのレベル低下が避けられません。
日本車はどらえもんが出てくる前ののび太くんですよ。ぼんやりしすぎ。
このままでは日本車は「牛車」ばかりになってしまい、ドライバーの意識も腕も上がらず、ぼんやりしたままです。日本車の未来は「のび太くんアルバム」のように暗く、末裔のセワシくんが貧乏で困ってしまうほどになってしまいます。
何も2シーターのスポーツカーを出せといっているのではありません。ごく普通のコンパクト3ドアハッチバックでいいんですよ。ベース車両の基本性能をきっちりさせ、それを伸ばす。牛車はどんなにチューンしても騎馬にはなれないんですから。まずはベース車両が「馬」であること。そして操縦安定性を確保すること。これが急務です。
写真車両:SiFo.jp