究極の空力性能! SiFo ルノークリオ(日本名:ルーテシア)RS(ルノースポール) CUP 試乗レポート(1)
2011.08.22カングーエクスプレス、メガーヌR26.R、トゥインゴとルノー集中試乗の最新レポートは クリオ(日本名:ルーテシア)RS(ルノースポール)の軽量モデル CUPに SiFoオリジナル空力パーツを装着したコーナリングマシン。
左ハンドル、6速マニュアルの硬派な仕様。マニュアルエアコンはオプションでついているものの、それ以外はとてもシンプルなグレードでドアミラーの電動格納機能はもちろん、電動調整もありません。そのおかげもあって車両重量は1200kg1160~1170kgほどの軽さ。
シートはポルシェGT3用のカーボンバケットシートを装着、着座位置を4cmほど低めています。リクライニングはしませんが、レバーを引っ張ると前に倒れるので、後部座席へのアクセスや荷物の出し入れに便利。
これにSiFoオリジナルカーボン空力パーツ、フロントデュフューザーとリアデュフューザーを装着。
▼LUTECIA/CLIO RS用フロントカーボンディフューザー - atelier SiFo
まずフロントディフューザーですが、センターは積極的に空気を流す一方、タイヤ前の部分、両脇は空気を入れないように出っ張りで空気を制限。
裏面をみると綺麗に一枚板でエンジンルームが覆われています。
エンジンとミッションを冷却するためのNACAダクト(NASAダクト)、そしてエンジンオイル交換用のメンテナンスハッチが設けられています。
そしてエンジン後方端は謎のギザギザが。
このギザギザの正体とは、「シェブロンノズル」! あのボーイング787のエンジンでも採用されている、最先端の航空力学に基づく設計です。
2/4 ハイテク旅客機の乗り心地(後編) [航空券] All Aboutボーイングが開発中の787では、全体をおおっている外板(ナセル)のうしろ端が波を打ったような"花びら型"のエンジンが採用されています。これは「シェブロンノズル」といって、エンジンの騒音を減らすための工夫から生まれました。ジェットエンジンの騒音源の一つになっているのが高温高速の燃焼ガスで、取り込んだ空気を燃焼させる際に爆音が発生します。それがシェブロンノズルの装着で、燃焼ガスを周囲の大気とうまく混合させ、不快な騒音もかなりのレベルまで緩和できるようになりました。
このクリオでは騒音低減というよりも、エンジンルーム内の熱気を効率よく排出するのに主眼においてシェブロンノズルを採用したとのこと。もちろん騒音も低減されていることでしょう。
タイヤハウス前は微かに斜めになっていて、スムースにタイヤハウス内に空気が導かれるようになっています。こちらはブレーキの冷却目的ですね。タイヤハウスにピッタリあってまるで純正のようなフィッティング。隙間がないから余計な乱流を起こしません。
ブレーキはRS(ルノー・スポール)標準でブレンボ対抗4ポットピストンブレーキを装備。こちらにジャストフィットするのは、SiFoオリジナルアルミ鍛造ホイール。以前詳しくご紹介しているこちらです。
▼TAN-EI-SYA(タンエイシャ)工場見学(1):ルノークリオ・ルーテシアRS専用設計鍛造ホイールはいぶし銀の味わい #renault_jp ([の] のまのしわざ)
クリオ専用設計だからブレーキキャリパーのクリアランスも、インセット(オフセット)もバッチリ。本来のサスペンション設計をスポイルせず、軽量化・高剛性による恩恵だけを受けられます。
フロントディフューザーで整流された空気はそのままの勢いでリアまで流れていきます。普通のクルマであればスペアタイヤやサスペンションアーム、燃料タンクの凸凹に阻まれて騒音&ドラッグの発生しどころ。とくにリアバンパー内の空気溜まりではいわゆる「パラシュート効果」と呼ばれる大きな抵抗が発生するのが悩みの種。
パラシュート効果を解決する方法は2つ。ひとつはバンパーから空気を抜くための穴をもうけること、もうひとつはそもそもバンパーに空気が入らないよう、外側を覆ってしまうことです。
バァァァ~ン!
ということで、リアにもカーボンディフューザーです。まずそもそもデカい!
リア・カーボンディフューザーはサスペンションアームのすぐ後ろまで迫っており、空気が中にこもってパラシュート効果が起きないよう、端を折って空気を入れないようにしています。もちろんそれだけではありません。
フロントから流れてきた空気はスムースにリアディフューザーに沿って車両後方へ流れ、ダウンフォースを生み出すのです。さらにエキゾーストがディフューザーにツライチ。
つまり排気がディフューザーに沿って排出される仕組み。これはF1のブロー・ディフューザー(exhaust-blown diffuser、エキゾースト・ブロウン・ディフューザー)と同様、排気を空力(ダウンフォース発生)に積極的に使おうという狙いです。
▼Formula 1™ - The Official F1™ Website
F1の場合はアクセルオフでもわざと排気を出して機能させますが、市販車なのでさすがにそこまではしていません。とはいえ今年のF1ではエキゾースト・ブロウン・ディフューザー禁止騒動がおきるくらいですから、その威力は桁違いなのは言うまでもないでしょう。
ちなみに零戦52型で使用された栄21型エンジンでも「推力式単排気管」で排気を積極的に利用し、速度アップを狙っています。
日曜工作ランド「推力式単排気管」
エンジン排気をまとめて排出する集合式をやめ、各気筒ごとに単独で配管を設けることで、エンジンの排気圧を推進力として利用しようというもの。通称「ロケット式排気管」と呼ばれた。速力向上に効果があると判定されたが、実際には排気圧が直接増速につながったのではなく、排気流による機体表面の整流効果が抵抗を減少させ、速力向上につながったとの説もある。
F1では当初エキゾーストの熱気によってカーボン製のディフューザーが燃えるということがありましたが、こちらはそういったことも見越してマフラー出口の回りは耐熱性のある金属パイプでカバー、パイプとカーボンとの接合部はわざわざ金型を起こして製作したアタッチメントを付けてガードするほどの凝りよう。
エキゾーストの出る部分は大き目のスプリッター(縦のフィン)で流体的に分離され、車体中央を流れてきた空気と別になることで乱流を作ることなく、それぞれまっすぐ後方に空気を引っ張り出します。ダテじゃないんですね、この縦のフィン。
F1テクノロジーはさらに続きます。
リアカーボンディフューザー中央に埋め込まれたLEDフォグランプ、これはなんとFIA公認、F1 FIA GTで使われているものと同じもの!
点滅こそしないものの、高輝度LEDで霧の中でもはっきりくっきりと浮かび上がります。これは機能的かつカッコイイ。
ドライカーボン、ブロウン・エキゾースト、LEDフォグランプとF1テクノロジーたっぷりのリア・カーボンディフューザー。まさにF1のルノー、ルノーのF1といったところ。
FFに空力パーツって本当に必要なの?
といった声もありましょう。軽量コンパクトな3ドアハッチバック、そもそもの形状があまり空力に有利ではありません。しかし現在はエコカーをはじめ、ワンボックスやミニバンでも高速安定性を高めるためや、燃費向上のためにスパッツやアンダーカバーなど空力パーツが付いているこの時代。3ドアハッチバックだから不要ということはありません。かえってもともとの形状が空力に不利だからこそ、空力パーツの威力がより発揮されるというもの。
実際に台風による大雨時高速道路で乗ってみましたが、安定感が抜群です。ステアリングからはしっかりとした手ごたえが伝わってきて、グリップしているのが分かります。元々荷重が軽いリアはともすればフワフワしてしまいますがこちらもドッシリ、まさしく安定。
そして安定しているから高速巡航時の疲れが少ないんです。
ウェットでこれだけの安定をみせるのですから、ドライ時はさらに安定、安心。ビシッと矢のように直進するので、ステアリングを握る手に力が入りません。だから長時間のっても非常にラクチン。安定しない車で高速走行すると緊張するし、手に汗握るし、ほんと疲れてしまうんですけどそういうのは皆無。元々制限速度130km/hのオートルートを軽くいなすクリオ、それがルノースポールの手によってチューンされ、さらにSiFoさんが開発したF1テクノロジーからのフィードバックをふんだんに使ったフロント・リアカーボンディフューザーセットによって比類ない高速安定性を見せつけるのですから、もうそりゃあ素晴らしいの一言。正直、これが全長4mそこそこの3ドアハッチバックの走りなのかと、考え込んでしまうほど。どれだけ限界が高いんだという話です。
これだけの配慮されたディフューザーは、完全にプロの仕業。
LUTECIA/CLIO RS用カーボンディフューザー - atelier SiFoプロジェクトリーダーは(株)SiFo、ディフューザーの空力部分の造形は、1980年代のIMSA GTP マシンやC カー、また現在もSUPER GT等、数々のチャンピオンマシンの空力を手がける空力デザイナー、鈴鹿美隆氏が担当しています。
カーボンディフューザーの製造は、市販車のクレイモデルやF1カーボンパーツの製作を行なう(株)RDS。ブローディフューザー(*2)は、二輪レーサーやF1のエキゾーストなどを手がける(株)内海技工が製作を担当しています。
設計だけでなく、製造もF1を手掛けているメーカーが担当。本物の職人による、本物の製品です。
F1で継続的に活動するルノーが手掛けたクリオRS。そもそものレベルが高いのに加え、日本のモータースポーツシーン、F1を支えたプロ集団がさらにそれをレベルアップ。しかもいわゆる「なんちゃって」ではなく、同じクオリティの製品。くうう、これはF1ファンにはたまりません。
唯一の問題があるとすると、それはお値段だけでしょうか。はい、お値段もF1クオリティです。
いいものは高い、というのは当たり前。しかしものの価値は値段だけで決まるものではありません。自分自身がその価値をどう考えるか、主体性の問題でもあるのです。
湾岸MIDNIGHTのタカギのセリフでこういうのがありました。ロールバーに使われる「クロモリ鋼」。この素材自体は昔に比べて安くなった。しかし変わったのは市場価値、値段だけで、その価値は今も昔も変わらないと。
F1と同じ品質を機能部品として一般人が体感できる、つまりF1技術の片鱗を享受できる機会というのは希少です。その価値をどうとらえるかはその人次第。人によっては「それは安い!」となるかもしれません。
(その2へ続く)
※ 車重、LEDレインランプに誤表記があったので修正しました。
車両提供:SiFo.jp