クラッチとシフトチェンジとエンストの原理
2016.08.15オートバイの免許取得で難関となるのは実技、とくにエンスト。半クラだ、シフトチェンジだと忙しく、エンストしてバランス崩してコケてあざだらけ、というのはよく聞く風景。いろいろヒアリングした結果わかったのは、教習所、いや日本の教育の現場によくありがちな「やり方」だけを教えて、どうしてそうするのかわからない、原理を理解していないことがほとんど。
他の例としては縦列駐車のときに、ピラーがポールに重なったときにハンドルを目一杯に切ってバックして、今度はミラーがどこどこまできたらハンドルを逆に目一杯きってバックすればいいよ、という教え方。駐車場が変わって、車が変わったら応用ききません。
ということで原理をきちんと理解してもらうために、まとめてみました。
エンストの仕組み
まずエンジンとは内燃機関。内燃機関とはガソリンを空気と混ぜて爆発させて力に変換するものです。爆発とは四方八方に分散する力なので、それを通常はシリンダーという筒の中で爆発させて、反対側のピストンを押し下げることで力を一方向に均します。自転車でいえば、ペダルを押し下げることに相当します。
エンジンも自転車と同じく、ペダルを押し下げる一方向の力を回転力にかえるために、クランクで回転力に変えます。
人力とエンジンの大きな違いはアイドリングの有無。
内燃機関は爆発させる前段階としてピストンを逆に押し上げてガソリンが混じった空気(混合気)を圧縮する必要があるのでで、この圧縮工程は必ずクランクが回転している必要があるのです。
エンジン始動時はセルモーター(スターター)で、キック式の場合はペダルで足を引き下げて回転(圧縮)しています。
エンジンがかかったあとは回転を維持しますが、この回転し続ける状態がいわゆる「アイドリング」回転です。一定回転を下回るとエンジンは回転し続けることができず、止まってしまいます。これが「エンスト」です。
エンジンにはアクセルがついており、アクセルをあけるとエンジン回転が上昇、閉めるとエンジン回転が下降しますが、アイドリング機構は別のアクセルで、アイドリング回転より下がらないように常にちっちゃくアクセルをあけている状態といえます。
ギアの仕組み
オートバイは自転車をこぐのがかったりい、じゃあ小さなエンジンを取り付けて回してやれば楽チンでヒャッハーできてウェーイ、という経緯でできました(意訳)。
ところがここで問題があります。エンジンというのは普通のものだとアイドリング回転が1000回転/分くらい、アクセルを回してもせいぜい5000回転、つまり5倍しか回りません。アイドリング回転で5km/h出たとすると、最高速度はその5倍の25km/hです。しかもこの5000回転を連続させるとガソリンをたくさんつかい燃費が悪いです。
どうする? そこで変速ギアの登場です。
エンジンのアイドリング回転数が1000回転/分だとすると、1秒間に16.6回転してます。これを直結するとホイールが同じ回転になってしまい速度が出すぎてしまうので、これをまずは減速しています。例えばこれを1回転/秒としましょう。ということはギア比は 16.6:1 です。エンジンが16.6回転すると、ホイールが1回転します。
このギア比を半分の 8.3:1にすると、エンジンが16.5回転したらホイールが2回転、つまり倍となり、最高速が倍になります。
ミニ四駆のギアでいえば、5:1 よりも、4.2:1よりも、4:1 よりも、3.7:1よりも、3.5:1の超速ギアの最高速が高いのはこの理由です。
ミニ四駆だとコースに合わせてギアをかえるのは、ギアカバーを外して直接ギアを手でかえるのですが、バイクや実車ではそうはいきません。そこでトランスミッションの登場です。
トランスミッションはこのギアをレバーによって変更する機構です。
クラッチの仕組み
エンジンに回転を続けるにはアイドリング回転が必要という話をしましたが、エンジンとホイールがギアでずっと繋がっていたらどうなるでしょうか。
エンジンをかけた瞬間にオートバイは走り出してしまいます。エンジンをとめれば止まりますが、その間の速度調整がききません。
そこで活躍するのがクラッチ、エンジンの回転とトランスミッションをつないだり切り離したりする仕組みです。
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クラッチは2枚の回転するプレートを向かい合わせたもので、くっつけると一緒に回りますが、切り離すとそれぞれ独立して回転します。クラッチはバネがついており、何も操作しないとくっついてます。クラッチを「切る」という表現はクラッチを切り離すことを意味します。
クラッチレバーを握ればクラッチが切り離され、エンジンが回転していてもタイヤと連動しません。
ニュートラルの仕組み
もう一つ、エンジンが回転してもタイヤが連動しない仕組みがあります。それがトランスミッションの「ニュートラル」というものです。ニュートラルポジションはギアが噛み合ってない状態を意味し、ミニ四駆でいえばカウンターギアを中に入れてないのと同じで、モーターを回しても走り出しませんね。
オートバイのエンジンをかけるときはこのニュートラルポジション、緑の「N」マークが点灯している状態でエンジンをかけますが、ここであればエンジンがどんな回転数であってもオートバイが走り出すことはありません。
「ニュートラル」と「クラッチを切る」は結果的にエンジンが回転していても、ホイールが回転しない点で同じです。ですから、エンジンが停止していてエンジンをかけるときに、
・ギアが(どこかに)入っていて、クラッチを切っている
・ギアが入っていない(ニュートラル)で、クラッチは切らない(つながっている)
のどちらかであればエンジンをスタートしても、オートバイが走り出さないのです。
半クラッチの必要性
発進時、エンジンはアイドリング回転で回転し続け、クラッチの片側は回転、一方ホイールは停止しており、クラッチの片側は回転していません(下図右側の状態)
▽Honda | バイク | ベンリィちゃんと学ぶバイクメンテ | クラッチ
これをデジタル的にクラッチをスパンとつなげるとどうなるか。ここで慣性の法則がでてきます。
タイヤ・ホイールは静止しているので、エンジンを止めようとし、一方エンジンはタイヤ・ホイールを回そうとします。この戦いが2枚のクラッチ盤の間で行われます。
デジタル的にスパンとつなぐと
1)エンジンが勝つと、急発進する
2)タイヤ・ホイールが勝つと、エンジンが止まる
のどちらかとなります。この(2)の状態が「エンスト(エンジンストップ)」です。
発進ですから走らないと困るのですが、かといって(1)のように急発進してもよろしくありません。そこでクラッチをギリギリ、滑らせながらちょっとづつ回転を合わせていく「半分だけクラッチをつなげている状態」通称「半クラ」が必要となるのです。
アクセルで回転数をあげる理由
かように発進時は必ず「半クラ」が必要なのですが、一番の問題はこの半クラの状態がわかりにくい点です。どれくらい繫っっているのか、繋がってないのか、もうこれは五感をフルに活用していくしかない作業です。いわゆるオートバイとの「対話」が必要です。
幸い、オートバイはサインを出してくれます。
・エンジンがグモモモとつらそうになり、回転数が落ちていく
このサインを見逃さず、そこからゆっくり、さらに慎重にクラッチを繋いでいきます。
ここでまた面倒なのが、オートバイの重さや状態、エンジンのパワーによってその動きが変わる点です。
・オートバイが重い、エンジンが非力
だとエンストしますし、逆に
・オートバイが軽く、エンジンが強力
であれば簡単に発進できます。
「低速トルクがあって発進しやすい」というのは、このアイドリング付近のエンジン回転数でもパワー(トルク)があり、エンストしにくいことを意味します。
それでは重くて、パワーがないエンジン、排気量が少ないオートバイだとどうしたらいいでしょうか。
エンジンのパワーは基本的に回転数に比例するため、アクセルをあけて高い回転数にすればいいです。例えばアイドリングが1000回転なら、アクセルをあけて3000回転を維持して、半クラッチをすればよいのは、そういうことです。
坂道発進はバイクと対話を
平地でも発進できても、坂道だとエンストすることは多いでしょう。これは止めようという力が強くなるため。坂道ではオートバイを後ろ向きに引っ張る力が働くし、ブレーキペダルを使って止めているので、いずれにしてもエンジンの回転数を上げて対抗するしかありません。
しかも操作が左手クラッチ、右手アクセル、右足リアブレーキ、左足シフトチェンジと四肢をフル活用。どの操作も的確にする必要があり、パニックになるのも無理ありません。
しかし上記の仕組みを理解すれば、そんなに面倒なことはありません。簡単にいえば、タイヤ・ホイールがエンジンを止めようとする力に、エンジンの回転数が打ち勝てばいいだけです。そしてその手段とは、アクセルです。
また車でもオートバイでも坂道発進の基本は、リアブレーキを引きずること。
普通の発進時ではリアブレーキはほぼフリーですが、坂道発進時はリアブレーキが効いた状態です。この止まろうという力に打ち勝つ位のエンジン回転数を維持し、半クラッチでつなげてオートバイが前に進もうとしたら、いや、多少前に進んだとき初めてブレーキをはずせば絶対に前に進みます。
肝心なのは多少ブレーキを引きずること。
前に進んでないのにブレーキを外したら後ろに下がってしまう可能性があるから、かならず前に進もうとしたことを感じ取りましょう。前に進まなくても前があがり、グッと後ろが下がれば駆動力がかかってオートバイは前に進もうとしています。
ギアチェンジ(シフトアップ)
半クラッチを使って発進できたら、もうクラッチの必要はありません。エンジンの回転数をダイレクトにタイヤ・ホイールに伝えて自由にアクセルで速度をコントロールしましょう。
ところが1速だけで速度をあげるとエンジンはうなってうるさいし、アクセルを戻せば急激なエンジンブレーキがかかって乗りにくいです。そう、1速は発進用のギアであって、発進できたらもう2速に上げてよいです。
1速ギアが例えば16:1、2速ギアが半分の 8:1としましょう。エンジンを4000回転まであげて20km/hになったとしたら、2速ギアでは半分の回転数、2000回転でとなります。
ところがエンジンが4000回転から2000回転に突然は変わりません。アクセルオフにして、回転が落ちるのには時間がかかります。
またトランスミッションの中のギアもぐるぐる回っているため、いきなり違う回転のギアにしようとするとギアの歯車が合わず弾かれてしまいます。これがギア鳴りといわれる「ギャッ!」「ガリッ」という嫌な音がしてギアが入らない原因です。
そこで再びクラッチの出番です。
クラッチを切ることでエンジンの回転とトランスミッションを切り離し、そこでギアを変更します。ここはトランスミッションの中がよしなにやってくれるのでスムース、かつ静かです。
そしてちょうど2000回転くらいになったエンジンをクラッチをつなげれば、ショックもなくスムースにギアチェンジの完了です。シフトアップに半クラッチが不要なのはこれが理由です。
ところがギアチェンジが早すぎてまだエンジン回転数が落ちきっておらず3000回転くらいだったり、逆にギアチェンジが遅すぎてエンジン回転数が1000回転まで落ちすぎた場合はギクシャクします。
この場合も少しだけ半クラッチを使うことでエンジンの回転数とタイヤホイールの回転を擦り合わせることができるので、あれ、ちょっと回転あってないなあ、というときはそっとクラッチをつなげればよいです。ここでもバイクとの対話、が肝心です。
ギアチェンジ(シフトダウン)
走行中ブレーキをかけて速度がおちるとエンジン回転数も落ちていきます。そのままブレーキをかけ続けると0km/hになったとき、エンジン回転数も0回転となり、エンジンストップ、エンストしてしまいます。
そうならないようにどこかでクラッチを切ります。目安はアイドリング回転数です。
停止するまでいかず、例えば渋滞でノロノロ運転しようとしたときに2速のアイドリング回転だと早すぎる場合は1速に落とします。2速ギアで1000回転だったとき、1速にしたら倍のエンジン回転数は2000回転になります。
ところがエンジンは1000回転から2000回転に突然は変わりません。そのためクラッチを切って、ギアを1速にし、そっとクラッチをつなげるとエンジン回転数がじわっと上げられて2000回転までになります。1速では1000回転まで下げられるので、2速の半分の速度でゆっくり走ることが可能です。
もうひとつの方法はクラッチを切ったらアクセルを開けて、回転数を上げる方法です。
この方法はもっと回転数の差が大きいときに有用です。例えば2速4000回転で、1速は倍の8000回転のときはアクセルを一瞬あけて「ブワン」として8000回転まで回して、そこでクラッチをパンとつなげてしまえます。
たまに赤信号に向かって「ブワン、ブワン、ブワン」とエンジンを唸らせながら止まるバイクがいるのは、このシフトダウンを繰り返しているためです。教習所内では不要なテクニックですが、理解しておくといいでしょう。
渋滞でのノロノロ運転
1速でアイドリング回転、1000回転前後がクラッチをつないでの下限の速度です。それ以下、例えば人が歩くよりも遅い速度で走らせる場合はどうしたらいいでしょうか?
それも半クラッチです。
半クラッチを使って回転をゆっくりにすることで、速度を落とすことができます。発進時も半クラッチですが、ノロノロ運転も半クラッチです。一本橋では滞在時間が問われ、半クラッチを使う必要があるのはこのためです。
一本橋での速度を抑えるコツはリアブレーキにもありますが、この半クラッチとリアブレーキをうまくつかって速度を制御しつつ、バランスもとります。バイクはその特性上、加速中は安定、減速中は不安定になりますから、一本橋の上でも同じく不安定になったら半クラッチを緩めて加速、逆に安定したら半クラッチを強めて減速を繰り返してトータルでゆっくりと渡り切ります。
ハンドルのもち方
エンストはエンジンのパワーよりも、エンジンを止めようという力が強い場合に起きます。なので極論すればクラッチを慎重に、半クラッチをつかいながらつなげようと、エンストするときはします。停止状態からの発進時や坂道発進時がそれで、それを防ぐためにはアクセルをあけてパワーを出す以外にありません。
アクセルグリップはミリ単位の操作で回すことが必要で、それには握り方も大事です。
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両腕はハの字、脇は開いて手の小指側を中心にハンドルバーをホールドし、親指、人差し指中指は軽く添える感じ。体重は腕ではなく、腰で支えるようになるので自然とニーグリップできますし、肘が軽く曲がっているのでバイクが自然に曲がろうとするセルフステアを阻害することがありません。
「ニーグリップがぁーーー!」
とよく言われますが、実はニーグリップが足りていないのではなく、手が突っ張ってバイクが曲がろうというのを抑えていることも多いです。
ハンドルに力を込めて掴まるのはもっての他、極論すれば手離し運転しているような感じに。そうなればアクセルやクラッチを繊細にコントロールすることが苦ではありません。半クラとアクセル操作、指先に集中することができます。
参考になれば幸いです。
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