#名車シティ再生 (36) YMG1でラッピングフィルム施工体験(講習編) #3mjp
2016.05.21ラッピングフィルムを実際に自動車に貼るにはどうしたらいいでしょうか?
一番手軽なのは自分で貼るのですが、やり方は分からないし、出来栄えも不安です。プロに任せるのが間違いないですが、技術者を養成する講習を開催してきると聞き、それならその講習を受けて自分が技術者になればできるようになるじゃないか、と体験させてもらうことになりました。ご理解・ご協力いただいたスリーエムジャパン株式会社様、YMG1(ワイエムジーワン)様に改めて御礼申し上げます。
もう車両、もってきちゃって下さい
技術養成講座では座学、そして実習を通してラッピングフィルムの技術を学ぶことができます。
3M|4-Star施工技術者認定システム|3Mの強み|3Mの提供価値|コマーシャルグラフィックス製品
本来カラーチェンジや柄チェンジを目的としたラッピングフィルムですが、今回は 24年落ちの中古車の塗装の補修やリフレッシュに使う趣旨をYMG1さんへ説明したところ、いろいろとリスクがあると指摘されました。
特に車両が古くて塗装が弱くなっていることで、塗装が剥がれてしまう可能性があること、すでにクリア層が剥がれてガタガタになっている上にフィルムを貼るとその凸凹がフィルムによってより明確になることといったことです。
また凸凹している面には粘着しないので、サフェーサーを吹いた塗装面や、クリア層が完全にとれて凸凹しているFRPバンパーは予めヤスリで磨いてツルツルにしておくこと、ゴムといった素材は後でガスがでてきて粘着が弱くなり剥がれやすいとのこと。
そのため前処理として、ガタガタのクリア層は削り、サフェーサー、FRPバンパー、サイドモールはヤスリがけして均しておきました。
そしてもともと講習を受けて技術者になり、ワンドラ・ガレージで施工をしようというつもりでしたが、この車両の状態では何かあったときにまたYMG1さんにいかなければならなくなるから、いっそのこと車両持ち込みでその場で施工しましょう、という特別対応となりました。YMG1さん、ありがとうございます!
空調完備の清潔なスタジオ
向かったのはYMG1さんの LAPPSスタジオと呼ばれる施工場所。いわゆる倉庫を改造した屋内スペースで、自動車が自走で入れるのでとても便利。エアコン完備で快適な作業空間です。
日本におけるラッピングのエヴァンジェリスト
まずはYMG1山家社長から説明、講習を受けます。
実はこの山家社長、車両ラッピングの仕掛け人。
東京都が初めてラッピングバスを導入したときには4日間徹夜で100台のラッピングをしたといい、人間は4日も寝ないとだんだんと楽しくなってくるんだよ! という豪傑でもあります。ラッピングと親和性の高い痛車ブームではいち早く初音ミクのライセンスをクリプトンフィーチャー社にかけあい、グッドスマイルレーシングのラッピングも手がけています。
現在は高級車のカラーチェンジや柄チェンジを行うLAPPS(Luxury Automobile Progressive Plus Style)を推進、メーカーとのパイプも太く、メルセデスベンツの Perfume EDITION A-Classの施工も担当したとのこと。
「メルセデス・ベンツ × Perfume」コラボレーションがスタート!!|Perfume Official Site
いわば山家社長は日本におけるラッピングのエヴァンジェリストと言っていいでしょう。
外国で進むラッピングフィルム
現在自動車を買うという時に必ず行うのは色を選ぶこと。つまり車種選択と色選択が一緒くたになっていて、これを分けましょう、というのがラッピング。
どんな自動車でもリセールバリュー、売る時の価格が高い方がいいものです。だから色をかえたい、というときに全塗装をするとお金もかかるしリセールバリューも落ちるしいいことがなく、カラーチェンジは流行っていません。
世界的にみると実は日本が一番はやっておらず、今ではペルーといった発展途上国ですらカラーチェンジが盛んだといいます。
その理由は、日本においてディーラー網が発達しているため。ディーラー網はすなわちメンテナンス網でもあり、オイル交換や車検などのサービスをディーラーが担当しているから。サービス部門は塗装ブースももっており、事故がおきた場合塗装で直すこともできる上、縁起悪いから直さずに廃車にしてしまうケースも。
一方外国では自動車は在庫販売が基本。そうすると白、黒、シルバーといった売れ筋の車両だけラインナップし販売するので、色の選択肢がありません。そこにラッピングによるカラーチェンジという選択肢がでてくるのです。
特にASEANでは日本のような塗装ブースが普及していません。なぜなら2000万円程度の初期投資が必要になるからです。ところがラッピングだと軒先で施工できる上、初期投資はほぼゼロ。ヘラとカッター、テープを揃えるだけ、あとは技術でなんとかできるのがいいところ。
ヨーロッパでは階級社会のため、いまでもお城をもっているような貴族がいます。そのような人にとって、自動車とは服飾品のようなもの。着替えるように色や柄を変えたいという要望があります。
日本ではまだラッピングフィルムが認知されていません。特にお金をもっている地方の富裕層はまったく知らないといっていいほど。その中でもいくつかの輸入車ディーラーはラッピングの可能性に気づきはじめ、定番色を在庫し、ラッピングフィルム施工をセットで販売することにトライしているといいます。
例えば1300万円の高級車であれば、100万円のフルラッピングをしたとしても 1400万円、富裕層にとってはあまり違いがありません。それよりもリセールバリューが高いことや、数十種類のカラーや柄から好きなものを選べて、飽きたら剥がせることに価値を見出せます。
ラッピングビジネス、女性の活躍に期待
ビジネス的に見た時、ラッピングのいいところはフィルム代は比較的割合が小さく、施工が売り上げになる点。塗装と違って初期投資はほぼゼロで仕事がはじめられます。
しかし技術を習得すればすぐに仕事が入るわけではなく、今後の認知向上、マーケティングが重要とのこと。
また塗装と違うのは健康によいこと。塗装は溶剤を使うことから、臭いや汚れといった問題がつきもの。その点ラッピングフィルムはクリーン、温度変化に弱いことから空調つきの屋内スタジオで行えば夏は涼しく、冬は暖か。山家社長は「君たち(技術者)のための空調じゃない、フィルムのためだからな!(笑)」と笑いますが、結果的に快適な作業空間で行うことができます。
そのため政府が推し進める一億層活躍社会、輝く女性の社会作りにも貢献できます。
例えば奥様のアルバイトとしてラッピングフィルムはどうか、という提案です。
手に職をつけてしまえば、場所を選ばず仕事ができます。例えば地方転勤になったとしても、その場所で仕事ができるわけです。
ママ友でチームを作り、ベテランが新人にノウハウを教えて育成すれば、子育てしながらでも作業可能。塗装と違ってクリーンな作業環境、冷暖房完備と女性向け職場環境、そして元来の手先の器用さが活かせます。
そのため女性歓迎、女性技術者の育成にも力を入れていくといいます。こういった職場での女性の比率はまだまだ低いですが、今後は半分くらい女性になるかもしれませんね。
基本施工技術
ラッピングフィルム施工の時に使用するのは、スクイージー(ヘラ)、カッター、布グローブ。
そしてナイフレステープのみ。
たったこれだけで施工ができるというのですから、初期投資がほぼゼロ、というのも納得です。
肝心のフィルムの貼り方ですが、看板と違って上から貼るのではなく、平らな場所から貼ります。ボンネットでいえば真ん中。
その理由はフィルムの特性にあります。
いわゆるカッティングシートはカレンダー製法で50ミクロンと薄いですが、あったまるとスルメイカのように丸まってしまう特性があります。
自動車用ラッピングフィルムはキャスト製法で作られ、それを二重にしており厚みは80ミクロンから120ミクロンほど。特性としてはクレープやのし餅のようで、あったまると伸びます。
(ぐちゃぐちゃになってもヒートガンで伸ばせばほぼ元どおりに)
赤のラインは看板方式で貼る時。右側から平らな部分を貼り、左側の部分を曲面に合わせて伸ばして貼る方式です。
一方緑のラインがラッピングフィルムの貼り方。全体が同じ伸び率になるように、ヒートガンで形状を補正して貼ります。だから最初はなるべく伸ばさずにのっけるようにして位置決めをし、のせてから曲率に合わせていくのです。
高級車でも安心なナイフレステープ
ナイフレステープとは、その名の通りナイフ(カッター)を使わずにフィルムをカットするテープのこと。
使い方は簡単、カットしたい位置に予めナイフレステープを貼り付け、その上にラッピングフィルムを重ねます。
ナイフレステープは細い養生テープのようなもので、中央にテグスのような硬くて細い紐があるので、それを力強くひくと、ナイフレステープ、ラッピングフィルムごとにカットできるという仕組み。
紐でカットし終わったら、不要となったフィルム、ナイフレステープのテープを剥がして終了。
驚くのはそのカットした断面、カッターでカットしたかのように綺麗にカットができています。
このナイフレステープの登場により、カッターの刃をたてることなく作業ができるので超高級車やスーパーカーでも安心して施工ができるようになりました。ちなみにこのナイフレステープの会社は3Mに買収されたのだとか、それも納得です。
差がつくナイフレステープの使い方
バンパーなど凹部の施工の場合、フィルムをつぎはぎする必要がでてきますが、ここで技術の差がでてくるのがどうやって重ね合わせるか。
左のようにバンパー全面を貼ってから凹部をカット、貼れていない部分を上からカットするのではカッターの刃をたてなければならないし、後から貼った部分が邪魔になって傷つきやすいバンパーのフィルムを交換したいときに、また最初から施工しなおしになってしまいます。
そこでナイフレステープを使ってまずバンパーの凹部を先に貼り付けてカット、その後上にナイフレステープを重ねて貼り付け、バンパー凸部を貼り付けてカットします(図右下)。
すると仕上がりは図右上のようになり、バンパーのフィルムが傷ついて交換したいときはそこだけ貼りかえることができます。
このようにどのような順番で重ね合せるのか、メンテナンス性まで考慮してナイフレステープを貼るのが技術、経験の差というわけです。
こりゃ素人には無理だ・・・座学の時点ですっかり怖じ気付いた私ですが、もう後には引けません。ワンドラのために1日スタジオをあけていただき、山家社長をはじめ営業担当、技術者を用意していただいた手前逃げるわけにはいけないのです。
心境はすっかりエヴァンゲリオンのシンジくんですが、果たして無事にラッピングできるのでしょうか? 次回に続きます、サーヴィスサーヴィス!