ルノークリオ4(欧州仕様)& ルーテシア4(日本仕様)R.S. 同時試乗比較レポート(4)~比較とまとめ編~
2014.04.25いよいよ比較試乗レポートは最終章。その他走行性能と日欧比較です。
高速巡航性
高速道路は新型クリオ&ルーテシア4 R.Sの得意分野、安定して高速巡航可能。風切り音もほとんどなく、空力的にも良い印象です。
ただし雨、ウェット路面でのグリップ感は先代R.Sよりも希薄。重心、ロール軸が高いこととあいまってロールしたときに多少不安になることも。雨はそれなりのスピードに落として走った方が安心です。
ブレーキ性能
先代クリオR.S.はブレンボ対向ピストンキャリパーにより、100km/hから35m程度で止まれるほどのブレーキ性能、これは世界のスポーツカー、ポルシェターボに匹敵するほどと絶賛されました。
今回は残念なことに通常の片持ちブレーキキャリパー。先代には及びませんが、ガッチリしたタッチ、効きもきちんとしており、ワインディングで走行する分には十分です。コントロール性も高く、いわゆるジジイブレーキ、ストロークと踏力で制御できるタイプです。
ヨーロッパ仕様と日本仕様の違い
今回の比較試乗、ヨーロッパ仕様のクリオ 200 EDC R.Sに SiFo(シーフォ)が開発したオリジナルパーツ、高強度・軽量鍛造アルミホイールに、アンダーブレースバーを装着したものと日本仕様のノーマルとの対比です。
この2台、左ハンドル、右ハンドルの違いはありますがエンジンやトランスミッション、加速性能からブレーキのタッチまで、基本的にはまったく同じと考えて差し支えないです。
ハンドリングについては結構印象が異なり、SiFoのオリジナルパーツ、軽量鍛造アルミホイールとアンダーブレースバーを装着したヨーロッパ仕様クリオは、それらによる剛性の高さから乗り味が硬質に感じられました。またハンドル(パワステ)が多少重く、全体的にしっかり感が出ています。
これに対し日本仕様は全体的にしなやか、軽快な印象。走行距離が多少多めということもあり各部がこなれて、慣らしが終わった美味しい状態というような雰囲気。
いずれにしてもどちらの乗り味もよく、軽快さが好きな人はノーマルのまま。ヨーロッパ的な硬質な乗り味を求めたい場合はアンダーブレースバーの装着を。そして路面を的確に掴みたい、見た目をスタイリッシュにしたいという方は軽量鍛造アルミホイールを検討するのもいいのではないでしょうか。
さて私自身、クラッチレスのオートマの場合は左足でブレーキを踏む、「左足ブレーキ」を使うのでブレーキの位置や大きさは気になります。
ペダル配置として、左ハンドルは左側にフットレストがある関係で、多少ペダルは右寄り、ブレーキは中央から多少右側といった印象でした。
右ハンドルはフットレストがセンターコンソールよりとなっている関係で、ブレーキペダルはほぼ中央。その差はほとんど気付かない程度ですが、左足ブレーキを多用するのであれば、右ハンドル仕様の方がポジションは良かったです。
まとめ
先代クリオ3 R.Sと比較すると、新型クリオ&ルーテシア4の動力性能は上。6速DCT、EDCとの組み合わせで途切れることなく加速していくのは爽快です。一方でコーナリング性能は先代R.Sが低い重心とDASS(ダブルアクシスストラットサスペンション)の採用で上。ハイドローリックコンプレッションストップ採用のダンパーはスムースな動きとしっかり感を出していますが、限界性能はどうしても及びません。
とはいえ、S字の連続するワインディングでは非常にスムースな動きから、コーナー立ち上がり加速を含めるとタイム、総合力は互角といったところでしょうか。
これは今回のクリオR.Sの出自によるものが大きいでしょう。というのも昨今の環境性能、燃費性能のアップと、生産効率化の波の中でベースとなるクリオ4をそのまま使うことが必須条件だったためです。
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先代クリオR.Sはベースに対してワイドトレッド化、軽量化、DASS、ブレンボ対向ピストンブレーキキャリパーを採用とかなり走りにかかわる部分にコスト、パーツを投入しています。それに対して今モデルはそういった「飛び道具」がありません。EDCのギア比についても、ベースモデルと同じということでパワフルな200馬力240Nmのエンジンに最適化されず、1.2Lターボ 120馬力190Nmエンジンと同じギア比です。その結果1-2速のカバー範囲が狭く日本の低速ワインディングでは2速が足りなくなってしまいました。
この観点からいうと、先代R.Sに劣る、ということになりますが、これまで6速マニュアル、しかも3ドアハッチバックという「売れないパッケージ」であった先代R.Sはマニア向けのハードコア。このハードコア路線は現在のメガーヌR.Sに引き継がれており、発売当初は左ハンドルのみ、というほどでした。
ハードコア路線をメガーヌに統合し、よりソフトにスポーツカーの間口を広げよう、新しいユーザーを獲得しようというのが今回のクリオ&ルーテシア4 R.Sの立ち位置です。
そのため6速マニュアルはなし、オートマ+5ドアボディ、日本仕様は最初から右ハンドルのみということで、誰でも、普通に乗れる「売れるパッケージ」として登場。6速マニュアル+3ドアボディでは箸にも棒にもひっかかりませんが、オートマ+5ドアであれば家族会議にも上げられるというもの。奥さまが買い物で運転するのでも、後ろに家族を乗せるのもまったく問題ありません。
先代R.Sまでのハードコアなクリオを知っているユーザーからは不満があるでしょうが、3ドアハッチバック、6速マニュアルのみの メガーヌR.Sとクリオ&ルーテシアR.Sでわざわざキャラをかぶせる必要はなく、むしろ今回完全に棲み分けしたことで、新しいユーザーを獲得できるというものです。
つまりサーキットで根詰めてタイムを削りたい人はメガーヌですよ、クリオ&ルーテシア4 R.Sは違うとこいきますよ、というルノーのメッセージです。コスト感覚と合理性の高いフランス人っぽい割り切りですね。
お値段もリーズナブル。輸入車でオシャレなフランスデザインにこのパフォーマンスで300万円前後はバリュー。
それに心配は要りません。回りのライバル車、プジョーやシトロエン、MINIといったプレミアムコンパクトを見渡した時フロントは同じストラットサスペンションに普通のキャリパーで、逆に200馬力にDCTを奢ったものは特別なモデルを除けばないですし、事実0-100km/h加速は6.7秒と俊足、これで不満をいうのは先代クリオR.Sを知っているユーザーだけ、日本市場にそんなコアな人はどれだけいることでしょう。そしてそのコアな方にはニュルブルクリンクFF最速のメガーヌR.Sがあるんです。
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これまでのルノースポールはハードコアな「ハンドリング市民革命」でしたが、今回のクリオ&ルーテシアR.Sはソフトな
「スポーツカー市民革命」
といっていいでしょう。ちょっと手を伸ばせば手の届くスポーツカー。凡庸な5ドアハッチバックの中から、キラリと光る、クリオ&ルーテシア R.Sを。
その意味で国産のヘナチョコ5ドアコンパクトとは一線を画す出来栄えです。ルノースポールのエントリーモデルとして、新しいユーザー、新しいファンを獲得できるのではないでしょうか。
(おわり)