新型スカイライン 350GT HYBRID Type SP 試乗レポート(3):ベッテルも選ぶSTANDARDモード
2014.03.12インフィニティQ50、日本名スカイライン。アメリカから遅れること半年、日本導入されました。私は勝手に「帰国子女スカイライン」と呼んでますが、エンブレムもインフィニティのまま、リアだけSKYLINEの文字にさし変わってブランド・バイリンガル状態で、どこにも日産マークがありません。
これをもって「これはスカイラインではない」と言うのはたやすいですが、クルマは実際に乗ってみないと分かりません。先入観は頭を硬くするだけで、百害あって一利なし。五感を通して身体に伝わってくる感覚すらもスポイルしてしまいます。
今回1時間半ほどテストコース(クランク、低速S字、フル加速、フルブレーキ、スラローム、波状路)と西湘バイパス、箱根ターンパイクを走行しました。Infinity Q50は以前アメリカで試乗させてもらったのですが、その時はテストコースのみ、ハンドリングをSPORTのみで試してそのクイックすぎるハンドリングはフィーリングに合わなかったのですが、今回色々試してわかりました。STANDARDが非常によく、自分のフィーリングにあうこと。
ハンドリングがいいだけではなく、とにかく乗り心地がいいのも特徴です。柔らかい乗り心地ではなく、19インチホイールにランフラットタイヤの組みわせで非常に硬質なのですが、タイヤの進歩やツインバルブによるダンパー、そしてボディ剛性がしっかりしたことで、がっしりした乗り心地でありながら不快な振動はない不思議な乗り味。
そして特徴であるステアバイワイヤー(略して「ステバイ」)も普通波状路や凸凹道でハンドルがとられたり、キックバックがあるものですが、そういった動きは全部キャンセル。とてもなめらかで緊張感を和らげた走り味となっていました。
だからといってつまらないかというと、まったくその逆でしっかりしたハンドリングで狙ったラインをきっちりとトレースできます、STANDARDで。
SPORTはまずハンドルが重く、ギアレシオも13:1から9:1位まで大幅に変化してクイックになる設定な上、機敏、過敏に反応して応答遅れがありません。ハンドルを重くしたのは切り過ぎ防止ということで、確かに低速域でのハンドルの重さに比べて高速域ではあまりそこまで気になりませんでした。
ただ本来のハンドル、ステアリングがハンドルを切ってから実際にステアリングが切れ、タイヤがよれ、コーナリングフォースが発生し、ロールしてダンパー・スプリングを縮めてというプロセスに対して、ハンドルを操作した瞬間、ステアリングが切れているようで、クイックすぎるというか、もともとその応答遅れを想定してちょっと早めにステアリング操作をするので感性とズレがあるんですね。これまで物理的にどうしても捩れて応答が遅れざるを得ないものがステアリング周りにはあったわけですが、それが逆になくなったことで、こういったクイックな設定も可能となりました。
これに慣れてしまえば、これはこれでいいわけです。しかしオールドタイプな私はニュータイプな動きにはついていけないのですね。ガンダムでいえばステアリングにマグネットコーティングしたようなものでしょう。
ステバイになったおかげで物理的にハンドルがタイヤから切り離され、それでハンドルがとられることも、不快な振動が伝わることもありません。レーンキープアシスト機能ではレーンから逸脱しようとした時に自動的にステアリングを操作してレーン内に収めてくれます。とてもゆるいコーナーであればその調整だけでことが足りるくらい、ほとんど運転者はハンドルを切る必要がありません。
こういったメリットも享受できるのがステバイの効能。
まだ発展途上の技術ではありますが、今後の自動運転技術を考えると、どんどんと熟成が進むことでしょう。
私がオールドタイプで、応答速度が最速のSPORTではなくSTANDARDの方が感性にあうと日産の人に伝えると、
「ベッテルもそうです、STANDARDがいいといってました」
とのことです。やった、ベッテルと一緒の感性! とひと安心。
とかく新技術てんこもりなので新技術に目がいきがちですが、ロバをチューンしてもロバはロバ。サラブレッドでなければならないのです。
新技術はおいておいて、特にハンドリングの面はシャーシ性能と味付けが肝心。その点コーナリングの安定性は、ステバイの恩恵を享受できる直進性よりもクルマ自身のポテンシャルが試されます。
ターンパイクのコーナーでも一度ステアあてればピシッとコーナリング。イメージどおりのリア荷重とコーナリングフォースの立ち上がりで、安心して曲がれます。特に下りのコーナーはアンダーがでるのではないかと恐怖心が芽生えるのですが、多少のコーナーであればハンドルを入れてロールをかけるだけで、きつめのコーナーでは軽いブレーキで前荷重すればことたります。
このハンドリングは文句ないレベル。
そしてなにより下りでは回生ブレーキがかかりバッテリーは満タン、EVモーとなりエンジンは停止するので静粛性も高く、燃費も稼げます。
スイッチでガチャガチャと設定を色々いじることもできるのですが、最終的にはこういったハンドリングであったり、荷重移動であったりがきちんとできるかどうか、がクルマの良しあしの判断基準となります。その点、この帰国子女スカイラインはさすが世界のプレミアムセダンに真っ向勝負を挑んでいるだけあり、もはやこれまでの日本産セダンのレベルではありません。分かりやすくいうともう敵はマークII(現マークX)じゃないんです。
一時セダン戦争でスカイラインはトヨタ・マークIIと競り合っていましたが、セダン不人気となった今、もはやマークII、現在のマークXと張り合っていてもしょうがありません。問題は世界のプレミアムセダンです。
ブランド力ではベンツやBMW、特にAMGやMといったブランドと比較すると日産、というの弱いもの。インフィニティでそこに挑戦していますが、20年やってようやくスタートラインにたてた、というのが現状でしょう。帰国子女スカイラインはそういった立ち位置で、プレミアムセダン市場に打って出たのです。
だからこそ、見えない部分にまでこだわっています。そのひとつがシート。
形状こそ先代とほぼ一緒なのにもかかわらず、包み込まれ面圧が分散するようにシートの内部構造から見直しをかけて、Cの字になって曲がる背中をくの字になるよう支えて長時間のドライブを楽なものにしています。
本当にここは大事なところで、特にドイツ車のシートの出来は出色。3-4時間ノンストップで走り続けても別になんてことないのですから。
5分程度の試乗では気付きにくいシートの良しあしですが、これがいいというのはクルマに乗るのが楽しくなります。それこそマークXのシートをはじめ、国産では10分やそこらで腰痛になるというシートはザラで、そういったことからクルマ嫌いになるのですから。
やはり「インフィニティ」のバッジをつけているのはアメリカ留学した結果のことで世界の強豪を相手にする意気込みの表れ。
確かに直列6気筒だった浪花節スカイラインとは違います。しかし我々はノスタルジーで浪花節を求めていていいのでしょうか。世界の強豪は今も進化しています。日本車が自動車としての進化ではなく、目先のマーケットに迎合することで売り上げを稼いでいる間に、ドイツは先をいってしまいました。背中が見えたと思ったのにもかかわらず、追いつくどころかその差は広がっている気がします。
だからこのインフィニティQ50が、スカイラインかどうか、なんて名前のことはどうでもいいんです。これが自動車として本当に自動車としてしっかり作られているか、ちゃんとしてるかどうかが大事なのです。
この帰国子女スカイラインの実力は試乗してみないとなかなか伝わりません。試乗し、BMWやベンツと乗り比べることで帰国子女スカイラインが本当に国際化できたのか、その真価が分かることでしょう。
(つづく)