SAAB 35 ドラケンに学ぶFX(次期主力戦闘機)の選び方:STOVL機 F-35Bがベスト?
2011.12.20 寄稿者: のま (元記事)
エリア88世代には間違いなくベスト戦闘機トップテンに入るだろう、サーブ 35 ドラケン。ドラケンの素晴らしさは色々ありますが、とにかくまず目を引くのがそのデザイン。
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1/48 飛行機シリーズ RF-35 ドラケン デンマーク スペシャル
ダブルデルタ翼を使い、独特のフォルムを描いています。これが1950年代の設計というのだから、恐れ入ります。
この設計に至ったのには理由があり、当時スウェーデンのおかれた国際情勢、および地理的要件が強く作用しています。
第二次世界大戦、独ソがヨーロッパを蹂躙するなかかろうじて独立・中立を守ったのはスイスとスウェーデンのみ。隣国フィンランドはソ連と対立、敗戦国となりその後復興に苦労した経緯があります。
フィンランドの歴史 - Wikipedia第二次世界大戦では、独ソ不可侵条約を締結したロシア人(ソビエト連邦)と2度に渡って戦い、その結果カレリア地峡を失い、多額の賠償金を負った(ソ芬戦争。第1次は冬戦争、第2次は継続戦争と呼ばれる)。この時フィンランド人は、スウェーデン人に助力を求めたが、中立主義をとられ、やむなくドイツ第三帝国に接近した。このことがフィンランド人にとってのパンドラの箱となる。第二次世界大戦でのドイツ人の敗北と同じくしてフィンランド人も敗戦国となり、ロシア人から戦争犯罪に問われることになった。
そう考えると冷戦時代、面積は大きいが人口が1000万人に満たない国が中立を保つのはたやすいことではなく、しかも同盟国がないため支援を受けることもできません。
サーブ 35 ドラケン - Wikipedia高空を高亜音速で飛来するジェット爆撃機の脅威は1940年代末以降各国で深刻化したが、それに対抗可能な超音速要撃戦闘機の開発はなかなか進展せず、スウェーデン空軍も例外ではなかった。
1949年9月にFMV(Försvarets materielverk, 防衛装備局(庁))が策定した基本仕様を受け、早速ドラケンの開発は着手された。要求仕様は他に、有事の際一時的に滑走路として使用される公道からでも2000m以内で離着陸可能なSTOL性や、10分以内での再給油/再武装といった、国情に即したものも含まれていた。
主翼は独自開発した革新的なダブルデルタ翼とした。これはその後の超音速機で広く普及するストレーキの先駆と呼べるものであり、無尾翼機・デルタ翼機の弱点とされるSTOL性能を改善する効果があった。
第二次大戦後亜音速ジェット爆撃機の脅威が現実化したため専守防衛、要撃任務を主とした戦闘機の独自開発に乗り出します。主な要求仕様は以下。
・超音速要撃戦闘機
・有事の際一時的に滑走路として使用される公道からでも2000m以内で離着陸可能なSTOL性
・10分以内での再給油/再武装
その要件を満たすためにとられたのが世界にもまれな「ダブルデルタ翼」なのです。
熱い先見性【ドラケン君の特長】
1) 世界初のダブルデルタ翼
高速性能に適したデルタ翼と、運動性能、離着陸性能を高めるために低速時も揚力を発生する内翼を合わせたもの。現在に至るまでこの翼形状は珍しい。
2)
高速性能
セイバー(アメリカ)、ミグ15(ソ連)といった当時の代表的戦闘機の速度がマッハ1.1なのに対し。ドラケンはマッハ1.8を出すための設計を与えられている。当時の世界記録M1.4すら軽く超え、長年にわたる改良の末、最終的にマッハ2.0に至った。
3)
整備性能、運用性能を重視
数で攻めてくるであろう大国に少ない数で対抗するために、整備性、運用性を重視。
モジュール概念を取り入れ、ブロックごと部品交換できる。これにより整備の迅速性と安易性を実現。
補給が5分で行えるよう設計されている(※7)。無防備になる地上時間が少ない。効率的な作戦を行える。
高速道路から発進できるSTOL性能(※8)。しかも主翼を外してトラックにのせることも可能。(幅13m、長さ650mの道路から離陸可能、着陸も2km以内、主翼を外せば幅4m)(中略)
助手:
しかし、高速道路脇にシェルターがあって、そこに常時から戦闘機が隠されているなんてものすごい発想ですよね。博士:
国のおかれた状況から生まれた独自の防衛理念、それに基づく運用に徹しているのがスウェーデン製の兵器じゃ。国の全土を要塞とする考え方じゃな。
ドラケンは迎撃機だから航続距離は割り切っているが、そのかわり短時間で補給・整備ができ、しかも簡単に分解できてトレーラーにも積める。助手:
そういう発想はどこから生まれたのでしょう?博士:
隣国フィンランドの対ソ連戦を参考にしたらしいの。フィンランドは圧倒的物量で攻めてくるソ連に対し、地の利を生かしたゲリラ戦でソ連を翻弄したのじゃ。負けたけどな。
「自らを守りえない小国を援助する国はない。あるとすれば、何か野心があるはずだ。」、フィンランドの独立の英雄、グスタフ・マンネルヘイムの言葉だ。
真の自立には国を自らの手で守らなければいけないというわけだな。
ドラケンの素晴らしい飛行風景は動画でどうぞ。
写真は以下のサイトでどうぞ。豊富な写真に圧倒されます。
▼SAAB J-35FS ドラケン(DK-241)@中央航空博物館
▼SAAB J-35FS(XS) ドラケン(DK-223)@中央航空博物館
▼SAAB J-35BS ドラケン(DK-206)と、シミュレータ@ヴァンターの航空博物館
▼SAAB Sk-35CS ドラケン(DK-270)@中央航空博物館・裏
▼SAAB J-35FS ドラケンのコクピット(DK-233)@中央航空博物館
お国事情が要求仕様に明確に反映されており、それを「ダブルデルタ翼」という新しい技術を投入して解決するところが、なんとも技術立国スウェーデンらしいです。
ダブルデルタの内翼はF/A-18やF-16でも採用されたストレーキの先駆けで、揚力を増す効果があります。しかもこの内翼にエアインテークが仕込まれているという、デザイン的にも凝った仕掛け。空気取り入れ口が目立たず、そのシルエットはとてもオリジナリティがありますね。
こうした先見性が評価され、似たような国際情勢下にあるフィンランド、デンマーク、オーストリアでも採用された実績があります。
ただしこのドラケンもいいことづくめというわけではありません。
サーブ 37 ビゲン - Wikipedia超音速迎撃機にSTOL性を付与することに初めて成功したドラケンだったが、進空と同時に幾つかの問題点が明らかになった。特に滞空時間の短さ、スーパーストール癖による飛行安定性の悪さ、離陸時に路面舗装を傷めるため同じ場所に帰投できないことなどで、FMV(Försvarets materielverk, 防衛装備局(庁))は、ドラケンの優れた能力を維持しつつ、臨時滑走路が高温のジェット排気によって損傷しないよう小さな迎え角で離着陸できる能力、航続距離の延伸、マルチロール化など、更に過酷な仕様を提示した。
(参考:スーパーストールを意図的におこしコブラ機動するドラケン動画)
もともとデルタ翼機は機首上げの際エレボンを上げることになり、離着陸の揚力が不足しSTOLに不向き。ドラケンは揚力不足を大仰角で補いますが、テールが意外に長いため尻もちをつくほどで、そのため後ろにもタイヤがついています。ところがテールをほとんど地面にすりながら離陸することになるためジェット排気がモロに路面にあたり、路面塗装を痛めてしまうというデメリットが。
そこで後継機となるビゲンではダブルデルタ翼をあっさりやめ、今度は世界初のカナードデルタ機を作りだすのです。
こうした地政学的要求を達成するため、ドラケンで世界初のダブルデルタ形式の翼平面形を実用化したサーブ社は、デルタ翼にカナード(前翼)を付加する、またもや前例の無い独自構成を選択した。これは、低揚抗比から離着陸時に大仰角を強いる三角形の主翼デルタ翼)の原理的欠点に対し、その前方やや上方に小ぶりの翼(カナード)を配置し、低速大仰角時に発生する主翼上の渦流を積極的にコントロールすることで揚抗比を大幅に改善しようとするもので、この目論見は成功し、ビゲン以降、カナードとデルタ翼の組み合わせはクフィル、タイフーン、ラファールなど、他のジェット戦闘機にも一般的に用いられるようになった。
またもや技術立国スウェーデンの面目躍如です。このカナードデルタ機はいまではヨーロッパ戦闘機のデファクトスタンダートといえるほど普及しています。
いずれにしても要求仕様がとても明確かつ特異、であればモノマネでなくまったく新しい技術で解決しようという姿勢が素晴らしいですね。
さて翻って日本の国防です。
FX選定といえばこれで実は4世代目。
F-X (航空自衛隊) - WikipediaF-X(エフエックス)とは、Fighter-eXperimentalの略称で、日本国航空自衛隊の次期主力戦闘機導入計画を指す略語。次期戦闘機導入にかかわる計画を指す語であって、特定の機種を指す語ではない
第1次F-Xノースアメリカン F-86の代替となる戦闘機を導入する計画。
ロッキード F-104C/D改とグラマン G-98J-11(F11Fの改造型)との争いになった。一旦G-98に内定した[1]ものの、いわゆる第1次FX問題に伴い白紙化。再度選定となり、F-104Gをベースに日本向け仕様としたタイプをF-104J/DJとして採用した。導入数230機。
第2次F-X
ロッキード/三菱 F-104J/DJの後継となり、未だ残っていたノースアメリカン F-86の代替となる戦闘機を導入する計画。
マグダネルダグラス F-4E改、ロッキード CL1010-2(F-104の発展型)、サーブ 37 ビゲン、ダッソー ミラージュF1の争いになったが、F-4E改をF-4EJとして採用した。
第3次F-X
ロッキード/三菱 F-104J/DJの後継機として、また一部のマグダネルダグラス/三菱 F-4EJの代替となる戦闘機を導入する計画。
マグダネルダグラス F-15C/D改、グラマン F-14、ゼネラルダイナミクス YF-16、ノースロップ YF-17、ダッソー ミラージュF1、サーブ 37 ビゲン、パナビア トーネード ADVの争い(実質的にはF-14とF-15であった)になったが、F-15C/D改をF-15J/DJとして採用した。導入数213機。
この系譜を見る限り、基本的な路線は、
・日米安保条約の同盟国であるアメリカべったり
・アメリカでも海軍機より空軍機
・サーブ・ビゲン、欧州機はあて馬
です。となれば今の第4次F-Xが F-35に決まるのも当然の流れ。
F35導入を内定 ステルス性能評価 最終的に2個飛行隊分の40機 防衛省+(1/2ページ) - MSN産経ニュース政府は14日、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)にF35ライトニング2を選定することを決めた。16日に安全保障会議(議長・野田佳彦首相)を開き正式決定し、平成24年度予算案に4機分の取得費を計上、最終的に約40機(2個飛行隊分)を導入する。
いや他にありえないです。本来はF-22でキマリだったはずなのですが、防衛省の相次ぐ情報漏えいに恐れをなしてアメリカが国外持ち出し禁止にしてしまったため、まだできてないF-35にお鉢が回ってきて混乱しただけ。
▼防衛秘密の漏洩 - Wikipedia
(ハニートラップにWinnyに、まさに情報漏えい百花繚乱)
「試乗もせずクルマを買うのか!」という批判どおり、試験機に乗ってないF-35をカタログだけで判断するっていうんですから、日本も無茶します。
とはいえ、日本の要求仕様を考えてみるとそれもまあ致し方ない部分も。
1) 専守防衛、要撃・迎撃任務
2) 仮想敵国になめられない高いスペック
3) 物量よりも少数精鋭、パイロット(自衛隊員)の命は大事
4) 20年~30年第一線級であること
5) 武器輸出三原則
もう条件が無理、無茶、無駄。
(更新版Su-27に対する、各戦闘機の勝率。F-35はF-22とTyphoonの中間に位置すると言われている)
損耗率を無視して10機調達するところを2倍の20機調達しますよ、パイロットもその分損耗しますよ、とはできないことを考えると量より質、やはり現時点で最高の戦闘機が必要です。
現代の航空戦・最強戦闘機の条件(上)それから20年...1990年代に入ると、ミサイルは更なる発展を遂げ「一発必殺」とも言えるレベルにまで達しました。その代表格がBVRミサイルAIM-120AMRAAMです。実戦で発射した最初の5発までは、命中率100%を記録し、その様相から「スラマー:必殺野郎」などと呼ばれるようになりました。
最近では、ロックオンされるとすぐ逃げることによりAIM-120が命中しない例も増えてきましたが、これはあくまでも最初から攻撃する意思を持っておらず、ただ挑発のため接近して、AIM-120が発射されても回避できる可能性が高いうちに引き返していたからであり、明らかな「敵意」を持って接近する相手に対してはAIM-120は、必殺野郎の名に恥じない高い命中律を保持しつづけています。
1999年ユーゴスラビア空爆アライドフォース作戦では、何機ものMiG-29がスラマーにより叩き落されています。現在でも目視内の高機動戦闘に勝てる能力は重要な要因であることには違いありません。そのため,
とても想像もつかないほど厳しい空中戦訓練を行っているわけですが(ドッグファイトは機体うんぬんよりも、ウデが物を言う)...しかしながら現在では搭載できるミサイルの性能が航空戦の優劣を決めるようになってきており、戦闘機はその「運び屋」のような立場に成ってきています。
空対空ミサイル - Wikipedia視程外射程(Beyond Visual Range, BVR)
20海里(37km)以遠の射程で使用されるもので、中・長距離空対空ミサイル(MR-AAM, LR-AAM)がこれに該当する。比較的大重量であり、運動性・即応性も視程内射程ミサイルには劣るため、主に遠距離でのアウトレンジ攻撃や、視程外での空中戦闘機動の主たる武器として運用される。
遠距離で運用するために中間誘導が必要であり、また終末誘導が求められる場合もあることから、高性能な火器管制システム (FCS) が必要となる。このため、搭載はほとんど、要撃機や制空戦闘機に限られていた。ただし近年では、技術進歩により、BVRミサイルとFCSの双方ともに小型・軽量化されつつあることから、運用は拡大しつつある。
トップガン世代にとってはミサイルなんて外れるもの、空中格闘戦(ドッグファイト)こそが戦闘機の真の力と思い勝ちですがトップガンは1986年の映画。
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時代はもっと進み、ステルスでそーっと近づいてアウトレンジからミサイルを撃って撃墜というのが主流に。
F35導入を内定 ステルス性能評価 最終的に2個飛行隊分の40機 防衛省+(2/2ページ) - MSN産経ニュース米英などが共同開発中のF35のほか、米海軍のFA18E/F、欧州共同開発で英独伊などが採用しているユーロファイターの3機種が候補になっていた。このうちレーダーに捕捉されにくいステルス性の高さが特徴の「第5世代戦闘機」はF35だけだった。
防衛省の審査では、F35は最新レーダーを備え、僚機などと情報共有する「データリンクシステム」が優れていることも高く評価された。F35は1機あたりの機体価格が最も高く、ほかの2機種に比べ国内防衛産業が製造過程に加わる余地が少ないことがマイナス材料だったが、中国やロシアも第5世代機の開発を進めていることを踏まえ、F35の性能を重視した。
ロシア、中国がステルス戦闘機の開発、配備を進めている点からも、今後20年~30年の国防を考えるとステルス、第5世代戦闘機が必要。この点だけは有事に役立つかどうかではなく、こけおどしでもいいので平時のときに「いばれる」スペックが大事なのです。
最後に残された(ありえない)選択肢は夢の国産開発、または現行機の魔改造。
とはいえ一番の問題は独自開発しても輸出できないこと。そうなるとコストが高くついてこれまた批判を受けることになります。ちなみにF-16をベースに開発したF-2の調達コストは1機130億円。内訳は約50億円がライセンス費用ですが、80億円が製造費となります。
今回のF-35は嘘か本当かわかりませんが、1機50億円(一部のコストは含まれず)でオファーされており、他のコストと合わせたとしてもF-2よりも安くなってもおかしくありません。それで敵国にいばれる第5世代戦闘機を配備できるのであれば、まさに専守防衛の要。性能は二の次、張り子の虎でもいいのです。
現実派はユーロファイター・タイフーンを推しますが、デルタ翼機の運動性能へのパイロットの育成・適応を考えるとそのスイッチコストは膨大です。いわばソフトウェアの部分ですが、これは無視されてます。日本人はハードウェア費用に敏感ですが、肝心のソフトウェア費用はいつもタダと思っているのが、ソフトウェア産業にかかわっているものとして歯がゆいやら、憤りをかんじるやら。
▼やはりユーロファイター・タイフーンはあて馬...FX(次期主力戦闘機)はF-35 ライトニング2 選定へ【ワンダードライビング】
そんなわけで、F-35Aに決めざるを得ないのは妥当というところ。ただどうせなら専守防衛のドラケンにならってSTOVL機のF-35Bを採用し、全国各地の高速道路から離着陸して欲しいと思うのは私だけでしょうか。
↓動画:F-35Bの垂直離着陸、STOL性能を示すデモフライト
敵もバカじゃないので、制空権をとるために航空自衛隊基地をまず叩くわけです。基地がやられてしまったらもはや手も足もでない、では第5世代戦闘機の意味がありません。そこで、森の中や防空壕に隠したF-35Bの出番です。その辺の空き地や高速道路がすぐさま基地に早変わりですよ。
まあそんなの一部の妄想にすぎませんがw
せいぜい日本人ができるのは、こういうこと。
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1/72 飛行機シリーズ J35J ドラケン「アイドルマスター 四条貴音」
萌え文化です。
萌えは世界を救う、かも。ドラケンつくった人、これみてどう思うのでしょうか・・・