Honda AX-1 前期・初期型 PD6BAキャブレーター考察
2020.07.04このエントリーはホンダAX-1(NX250J)MD21-100系に装着された初期型キャブレーター PD6BAの考察です。情報が余りになく考察というよりも考古学に近いですが、何かの参考になれば幸いです。
ケーヒンPD6BAキャブとは
初期型AX-1に装着されているキャブレータはケーヒンPD6BA、2型(MD21-110系)からはPD6BFが採用されています。
構造は加速ポンプ付き強制開閉式VM(Variable Manifold)キャブというもので、スロットルワイヤーに合わせて直接スロットルバルブが上下に移動して空気の流量を調整するものです。
スロットルバルブ(ピストン)
奥のピストンバルブが上下しているのが分かります。
チョーク
左グリップ手元にあるチョークレバーを引くと、通常水平になっているチョークバルブが開閉します。
FZ250で使われているミクニのキャブではエンリッチャーといって混合気を増やす機構もチョークと呼んでいますが、これは空気量を減らして混合気の密度を上げる、まさに「チョーク」です。
加速ポンプ
強制開閉式のスロットルバルブはアクセルの応答性がいいのが売りですが、いきなりアクセルを全開にする「ガバ開け」では急に空気量は増えるものの液体であるガソリンはそれに応じてすぐに量が増えず、混合気が薄くなる、ひどいときはエンストするといった問題が発生します。
じわーっとアクセルを開けていれば問題は発生しませんが、オフロードを走っていたときに石や丸太を越える、ずるっと滑った時に立て直すためにアクセルオンをするときにアクセルを急にあけるときにエンストされたらたまったものではありません。
それを解消するための機構が加速ポンプです。
加速ポンプといっても大層なものではなく、単なる注射器、または水鉄砲のような構造。
アクセルワイヤーに連動したレバーが逆側にもついており、これがスプリングでリンケージについています。
アクセルを開けるとこのレバーが回転し、スプリングを引っ張ります。するとそれにつられてリンケージが回転をしはじめ、下のプッシュロッドを押すという仕組みです。
ここに調整機構はありません。
プッシュロッドの先にはゴムのダイアフラムがついており、これがトイレのつまりをとる「ぺっこんぽっこん」するのと同じような動きをします(ラバーカップ、吸引カップ)。
このダイアフラムの受けるカップには2つ経路があり、1つはキャブのガソリンをためるチャンバー、もうひとつはスロットルへと伸びています。
チャンバーの底には加速ポンプへと通じる穴と、その外側にスロットルバルブに通じる穴がありますがこちらは何かが詰まっています。
これはワンウェイバルブ、おそらくは玉とバネを入れて圧入して蓋をしているようです。
同じ構造のものが加速ポンプのチャンバーの底にもあります。
つまり
1)キャブのチャンバーから加速ポンプへのチャンバーへ
2)加速ポンプのチャンバーからスロットルへ
の2か所の経路にワンウェイバルブがあり、アクセルをON/OFFするとダイアフラムが上下してぺっこんぽっこんするたびにガソリンがチャンバーから送られて、スロットルボディへとピュッと吹き出すのです。
この構造はダイアフラム式の燃料ポンプと同じです。
これによりアクセルのガバ開けでもガソリンが不足することもなくなるという画期的なシステムなのですが、作動ポイントや流量が調整できないのがややこしいところ。
ここまでが前座、これからが本番です。
キャブOH
加速ポンプがついているにもかかわらず、AX-1ではアクセルガバ開けで突然ストールするなどの持病があったといいます。また初期型ではリコール、またはそれに近い形で改修が入ったニードルジェットの段付き問題があったそうです。
ニードルジェットの素材が弱く、使っているうちに段付きができてスロットルの開度に対してスムースに動かないという問題です。
そういうこともあったのでAX-1 1987年式を入手したときにキャブOHをしてもらいました。ところがここで不思議なことが発覚。それはメインジェット、スロージェットの番手がまったく異なることです。
パーツリスト第2版によると
メインジェット #128
スロージェット #45
ですが、実際についていたのは #138と#38。どちらも異なります。
パーツリストを参考にスロージェットは #45、メインジェットは#138のままニードル位置調整をしてもらいました。
微小スロットルでボコつく、燃費が悪い不具合
OH後ストールすることもなくアクセルの吹けはよく、パワー感もありアクティブに走るには最高ですが、一方でツーリング時の巡航速度では吹けない、ボコつく領域がありました。特に5000回転以下という郊外や高速で巡航しつつアクセルを少しあけるようなときにその症状がでて、ギクシャクして非常に乗りにくいのです。
また燃費も22~24km/Lと2号機(1989年式)が30km/L前後と比較すると悪く、燃料が濃い臭いがする、ナンバーが茶々けるといった症状が出ていました。
燃料が濃すぎるようなので改めてパーツリストを調べてみたところ、衝撃の事実が発覚しました。
カットオフバルブの消失
パーツリスト6版を入手して比較してみたところ、初期型についていたカットオフバルブがなくなっていました。
カットオフバルブとはアクセルオフ時にスロージェットの空気量を制限、カットするワンウェイバルブとのこと。
「エアカットバルブ」は、負圧で作動するダイヤフラムとダイヤフラムの中心に付いている"バルブ"で構成されています。 ダイヤフラムはメインボアのスロットルバルブ(ピストンバルブ)のエンジン側の負圧を拾って動きます。中心に付く"バルブ"は、キャブのスロー系の空気の通路を開閉します。エンジンが止まっている時や吸入の負圧が低い時は、スプリングでダイヤフラムが押されていて"バルブ"はスロー系の空気の通路を開いています。 エンジンがアイドル回転でスロットルを閉じている時は、ダイヤフラムと"バルブ"は動きません。スロットルを開けて普通に走っている時もダイヤフラムと"バルブ"は動きません。 吸入の負圧が大きくなる、高回転でスロットルを閉じた時にダイヤフラムが動いて"バルブ"がスロー系の空気の通路を閉じます。これが"作動"です。https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1142433416
これがついていたことによりスロージェットが #45とリッチ、メインジェットは #128とリーンな状態でバランスがとれていたのでしょう。
ところが不具合の対策やコストダウンなど理由は不明ですがこのカットオフバルブは消滅しました。パーツリスト6版ではまるで存在しなかったかのようになっています。
今回初号機に装着されていたキャブは最初期のカットオフバルブがあるものではなく、変更後のカットオフバルブのないタイプ、そのためメイン#138, スロー#38が正解となります。
前期型のキャブの種類は実に4種類
パーツリストを頼りに調べたところ前期型のキャブは公式に3種類、幻のエアカットバルブ付きを入れると4種類あります。
エアカットバルブ付きのPD6BA
PD6BA-[B]
PD6BA-[D]
PD6BA-[E]
それぞれニードル、スロットルバルブ、ニードルジェットホルダーの組み合わせが異なり何が正解かよくわかりませんでした。
一方MD21-110系以降で使われているのはPDB6BF-[A]、PDB6BF-[A]でパーツはすべて同じです。
2号機はこれに該当し、メイン#140、スロー#38となっていますが、エンジンのトルク感は薄く、吹け上がりも初号機よりも劣る印象です。難しいものですね。
番外編:キャブの取り外し、取付方法
キャブの中身も謎ですが、どうしてこんな狭いところに押し込んだのか整備性が最悪です。とにかく狭いので、いかに回りをクリアにするかが肝心。前のオーナーは相当苦労して頭きたのか、フレームやエンジンは傷だらけ、塗装が剥げまくりでした。
2本あるスロットルワイヤーをとるのが大変なので、左にみえるエンジンハンガーのステーは外すといいです。
また燃料ホースやエンジンからでているブローバイのホースやボックスも外しておくといいでしょう。
外すときは左斜めにしたあとお辞儀させて下へ傾けて出すような感じになります。フレームもエンジンもリジットマウントなのでガチャガチャしても傷がつくだけで出てきません。
まさに知恵の輪。
付けるときはお尻からずりずりと入るような感じで入れます。
結構奥まで入れてから右に向けて収めます。
アクセルワイヤーやチョークワイヤーが邪魔なのと、この状態でワイヤーをステーに入れてとめるのがとても面倒だったので、やはり最初からエンジンハンガーのステーは外すのが吉です。
・・・
ということで、キャブのセッティングはまだまだ続きます。
【参考】