テスラ自動運転事故にみる未熟なテクノロジーへの過信と盲信
2016.07.06テスラモデルSの運転支援機能を使っていたドライバーが事故死しました。まずはお悔やみ申し上げます。
自動運転テスラの死亡事故、ドライバーは映画を見ていたか | レスポンス(Response.jp)今回の事故は、自動運転モードで走行中、大型トレーラーがモデルSの前方を横切る形で起きた。テスラによると、太陽光が強かったために、ドライバーも自動運転機能も白い色のトレーラーを認識できず、ブレーキが作動しないまま、トレーラーの下に潜り込む形で衝突したという。
この事故の原因は複合的なものと考えられます。
・技術的未熟
・技術への過信・盲信
未熟な技術とその表現
テスラはいち早く「自動運転」に対応したことを喧伝し、ユーザーはそれを歓迎。しかしその歓迎っぷりは技術への盲信、あくまでも「運転支援技術」だったにもかかわらず、手を離す、新聞を読む、あげくには助手席や後部座席に移動するなどエクストリームな運転をするユーザーが後を絶ちませんでした。そんななか起きた交通死亡事故はある意味、起こるべくして起きた事故といえなくもありません。
NHTSAによると自動運転技術は4つのレベルに分けられています。このうちテスラモデルSはレベル2、加速、ブレーキ、操舵のいずれかが自動化されたという定義のものにすぎません。「自動運転」という言葉の響きから受けるイメージと実際は乖離しており、その結果が無謀なユーザーによるエクストリーム運転につながっているわけです。
「自動運転」という言葉の響きで望まれる機能はレベル4、完全にユーザーが前をみなくてもいいものです。ここでの表現は優良誤認といっていいほどです。
自動運転に頼らない航空業界
自動運転をオートパイロットと呼びますが、これは飛行機から来た言葉。飛行機は事故になったときのリスクが大きいことや、パイロットの負荷軽減のために数十年前からオートパイロット機能が導入されています。
しかし番組「メーデー」によると、このオートパイロット機能にまつわる事故が多発したことにより、航空業界ではパイロットが主、オートパイロットはあくまでも支援機能であるという主従関係をはっきりさせています。
機能的には離陸から巡航、着陸までオートパイロットで可能にもかかわらず、離陸・着陸は必ずパイロットが行うようにしています。
これはなぜかというと、さまざまな事故を解析した結果、
・オートパイロットを使うと依存し、注意力が落ちる
・何かあった時に手動に切り替えても、人間はすぐに対応できない
ことがわかったからです。この常識を無視した韓国系航空会社は自動着陸を乱用、その結果オートパイロットが使えない飛行場での着陸で不慣れなパイロットが着陸に失敗する事故を何回も起こしたほど。
自動運転技術はドライバーを代替しない
実は現在でている「自動運転技術」(レベル2まで)はドライバーを代替できるレベルのものではありません。ドライバーの不注意や居眠り、ミスをリカバーするフェールセーフに近い機構といっていいでしょう。
またこの航空業界の常識から考えると、レベル3の加速、ブレーキ、操舵のすべてを自動で行い、緊急時のみドライバーが対応する、というのは運用上もっとも危険な、中途半端な状態といっても過言ではありません。
つまりレベル4、ドライバーを完全になくしたものしか「自動運転」ではないのです。
「自動運転技術」というまやかしの表現によって、誤解と過信・盲信を生み、危険にさらしている現状が今回の事故で浮き彫りになってきたといえます。
テスラ車死亡事故、自動運転中にDVD鑑賞の可能性 (ロイター) - Yahoo!ニュースオートパイロット搭載車は運転しなくても、車線内を走行し、スピードを維持できる。同社は1日に声明を出し、「オートパイロットは路上での最先端のドライバー支援システムだ。ただ、これにより、テスラ車が自律走行車になったり、運転車が責任を放棄できたりするわけではない」との見解を示した。
・オートパイロットはドライバー支援システム
・自律走行車(運転者が責任を放棄できる)ではない=レベル4ではない
オートパイロットは訳すと自動運転、つまり自律走行していると盲信してしまうので、この表現はもっと正確に、誤解をうまないように啓蒙していく必要があります。
【追記】
国土交通省からも警告が出されました。
報道発表資料:現在実用化されている「自動運転」機能は、完全な自動運転ではありません!! - 国土交通省