歴史への理解と乗り物を堪能する父子旅 ~総括~
2016.04.15今回の旅行はたまたま新潟、佐渡島へと渡りましたが予想以上の収穫がありました。それは日本人の乗り物に対する考え方が浮き彫りになったからです。
海路が中心の物流
佐渡島へは当然海を渡らなければなりません。ここで活躍するのが船、千石船です。
宿根木の集落が賑わい、そして周辺に石がないにも関わらずふんだんに石が使われ、石畳となっているのは、瀬戸内から石が運ばれてきたため。
つまり海路、廻船が発達していたことを示します。宿根木では千石船の展示もありました。千石船は米や雑貨だけではなく、石を運ぶのにも適しているのです。
佐渡金山の金を運ぶのも海路。
大間港は明治時代に作られた新しい近代的な港ですが、江戸時代も海路を使って江戸へ金・銀・銅や小判を運びこんだと言われています。
幻の鉄道計画
佐渡島には鉄道がありません。今現在ないのではなく、これまでも、そしてこれからもないのです。その理由は鉄道敷設ブームが到来したときにもその物流の中心は海路だったことなどから計画が見送られたことがひとつ。その後また計画されるも道路の整備によりいっきにモータリゼーションの到来、トラックへとシフトしたためです。
佐渡鉄道 - Wikipedia明治期の佐渡島は道路も十分に整備されておらず陸上輸送が貧弱であったため、同じ島内での物流であっても海路での輸送が中心であった。そのため、この時期に起こった私設・民営鉄道敷設ブームに乗っていずれも東京府在住の発案者より2通りのルートで別々に佐渡島内を横断する鉄道の敷設許可願いが鉄道局に出されたものの、いずれも却下される。
結果的に高速道路もなく、信号も少なく、カーフェリーとコンテナトラックが物流の中心となっています。
日本人は人力が好き
江戸時代の物流を考えると、陸路は移動、海路が貨物といった棲み分けになることが分かります。陸路であっても馬車や牛車を使えば貨物を運べますが、実は日本人にとって馬や牛はコンパニオンアニマル、相棒であったために、割り切ってパワーソースとして扱えなかったことが災いし、主流になれませんでした。
古くから牛車が使われていましたが、絵に描かれるものはそのほとんどが暴れている様子。本来去勢をして大人しくさせて使用することが、できなかったことの表れといいます。
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(第9章 なぜ江戸時代には、車の動力が「人間」に退化したか)
その結果、街道は整備されたものの、基本は徒歩。飛脚であっても馬を千里走らせて、ではなく、人力で駅伝形式で運んでいることからも分かるでしょう。
馬や牛をパワーソースとして使えなかった日本人のメンタリティのどこかに、人力が好き、というのがあるのかもしれません。それが今の自転車ブームにつながっているのではないか、と睨んでいます。
産業革命と近代化
人力が好きな日本人が天下泰平を謳歌している間に世界では産業革命が起き、急速な近代化と植民地支配が進むのはご存じのとおり。
明治政府にかわり、一気に近代化させるなかで金山の掘り方もそれまでの手彫りから機械やダイナマイトを使ったものへと変化。精錬も巨大工場で行われるようになりました。
日本の近代化を支えたのは、鉄路。国の政策として鉄道網が日本中に張り巡らされ、高度成長期まで日本の物流を支えます。
転換期はモータリゼーション。マイカーブーム、高速道路の整備がはじまり、今では物流の中心は道路となりました。実はトラックの登録台数は乗用車の1/10程度ですが、道路を走行する車両の50%を占めるのです。
東名高速、そして新しく整備された新東名高速を走ればそのトラック、トレーラーの多さを実感できることでしょう。今では首都高環状2号線もトラックだらけです。そのため制限速度はこのトラックに合わせて作られています。
義務教育の公立学校と同じで、才能のあるできる少数の人間を伸ばすのではなく、最低レベルに合わせるのです。これがドイツのアウトバーンとの考え方の大きな違い。アウトバーンでは車線ごとに流れるスピードが大きく異なり、トラック、トレーラーは80km/hで一番端っこを走り、一方で追い越し車線は200km/hオーバーでスポーツカーや高級車が駆け抜けていきます。
日本人の感覚だと理解できないかもしれませんが、これが電車なら理解できるはず。各駅停車と、新幹線の違いです。
ドイツに新幹線が発達しなかったのは、アウトバーンがその役割を担っているため。アウトバーンが速度無制限なのは新幹線と同じく、速ければ速いほど到達時間が短くなり、便利で楽になるという感覚です。新幹線のスピードへの希求は今も続いており、北陸新幹線に北海道新幹線の開通と、日本人にとって高速移動は鉄路が未だ担っているのが現状。物流は鉄路から道路へと移り変わりましたが。
見直したい海路、水路
佐渡は海路が盛んだったため、ながらく陸路が発達しませんし、鉄路も敷かれませんでした。物流の中心が海路から陸路にシフトしたため、海運は廃れています。全国にあった長距離フェリーも20年前と今では大きく異なり、多くの路線が廃止となりました。
例えば高速道路で八王子から新潟まで7700円程度ですが、フェリーで新潟から佐渡へいくのは20,000円かかります。ガソリン代を含んだとしてもいかに陸路が安いかが分かることでしょう。
また通常のフェリーは30km/hくらい、高速道路の平均速度は80km/hくらいと考えるとその速度差も歴然。その結果、物流の中心は道路になったわけです。
高速フェリーの拓く未来
ウェーブピアサーは巡航速度が70km/hと非常に速く、海路は渋滞もないため、うまく使えば物流を変える可能性があります。いやむしろ、変わってほしいほど。
というのもそもそもJIT(ジャストインタイム)の発達、簡単にいうと倉庫を持たずつねにトラックから補充を受けるコンビニの普及発達がトラック便が24時間365日走りまわる元凶なのです。このJITはカンバン方式、トヨタ生産方式でも使われて、道路を物流が占拠する原因となっています。
名古屋から東京、というと高速道路で3時間ほどでつきますが、これを高速フェリーにしたらどうでしょうか。3時間は無理でも5時間で着くことが可能です。東名は渋滞で時間がずれますが、海が荒れなければ海路は安定的。悪天候時のみ陸路に切り替えることも可能です。
TSL(テクノスーパーライナー)計画は失敗しましたが、これは旅客が中心で、大きな物流がない小笠原へ就航させようとしたから。貨物を中心にした高速船は逆にこれから可能性があります。
江戸時代のような海運はサステナブルな社会を作るかもしれませんよ。
適材適所
のりものはその特性、TPOに合わせて選択するのがいいと思います。なにがなんでも自動車、いや自転車、みたいな戦いがよくありますが不毛。
単純に道路という限られたスペースを奪い合っているだけの話しで、実はその道路はトラック、物流のためなんですね。自家用車のドライブや趣味の自転車のためには作られてないんです。
道路と鉄路、海路があり、はては空路がありますがときと場合によって使い分けるのがよいでしょう。たとえ車で回れたとしても、自転車を借りてサイクリングはまた違う発見がありますし。
日本はどうしても縦割り行政なので、道路だったら道路、鉄路なら鉄路、となりがち。もっと柔軟に使い分ければいいのになあと思いつつも、歴史を振り返ると結局どこかに集中するのもいたしかたないかな、とも思います。結局自由な移動は徒歩しか保証されないんでしょうね。