#名車シティ再生 (3)GA2シティが名車な理由
2016.01.15なぜGA2シティが隠れた名車なのか。そもそもこの世代のシティを知らない人も多いので、今回はそれをひもといてみたいと思います。
初代・シティ
ホンダがもっとも小さな小型車、エントリーカーとして投入したのが初代シティ。トールボーイと銘打ち、車高を低くスポーティに見せたい時代にあって車高を高く、室内空間を稼いで広々とさせたのが画期的。軽いボディと小さな排気量で燃費もよく、使い勝手、実用性を中心に考えられています。
またCMも大ヒット。シティというと「ホンダ・ホンダ・ホンダ・ホンダ」のイメージが強いのもこれが一因。
さらにトランクの中に入れられるバイク「モトコンポ」を同時開発。変形する超小型バイク、マルチ・モビリティの未来を見せてくれました。
トールボーイなのにさらに10cm屋根を上げたハイルーフを設定したり、オープンとなるカブリオレも特徴的。特にピニンファリーナ・デザインだったことから人気を博しました。
【39】シティ・カブリオレ(昭和59年) ピニンファリーナの協力で実現した4人乗りオープンの先駆け | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉:日経BPオールジャンルまとめ読みサイト
その実用性やモビリティの革新性をみせたシティにスポーツを導入したのがターボ。1200ccで100馬力を達成しました。ボンネットにはパワーバルジがついていかにも精悍。
シティ・ターボはいわゆるポン付けターボでだったのに対し、マイナーチェンジでインタークーラーを装着したターボ2は110馬力を発揮。アピアランスは精悍、パワーバルジは大型化、オーバーフェンダーにエアダムがつくなど過激になり愛称は闘犬をイメージさせた「ブルドッグ」。
このターボ2「ブルドッグ」を使ったレースもあり、シティといえばモータースポーツ、というイメージも同時につきました。
松田秀士氏、中谷明彦氏など名だたるレーサーも出ています。
ターボパワー、ショートホイールベース、トールボーイで車高が高いというディメンジョンが作用して、レースでは横転が続出。
大事故でしたが幸い怪我人はいなかった模様。しかしこういった反省から2代目はまったく逆の方向に転換するのでした。
2代目シティの不遇
トールボーイの初代とうって変わって、フルモデルチェンジしたシティはクラウチングスタイル、車高は低く、ホイールベースは長く、車幅はワイドにすることで、獲物を狙う猫が伏せたような形となり、ブルドッグから猫への大変貌です。
エンジンはターボをやめ、なんの変哲もない1カム4バルブ、1200cc。パワーも76馬力と平凡です。
もともとシティは実用車だったので、小さくて狭くなったことはデメリット。特にバブル経済により拡大する市場と市民の欲望、上昇指向の中にあってヨーロッパ的なミニマニズムは理解されるはずもなく不人気車へと転落します。
そんな中マイナーチェンジが行われ、1300cc PGM-FI車を投入。それがこの「GA2シティ」なのです。
1カム4バルブには変わらないものの、ホンダらしい高回転まですっと回る軽快なエンジンにより燃費とパワーを両立。ディメンジョンがロー&ワイドになり低重心、少ないサスペンションストロークはサーキットやジムカーナといった舗装競技でかえってメリットとなり、モータースポーツのエントリーモデルとして絶大な人気を誇りました。とにかく「安くて速くて楽しい」、庶民のレースカー。
ノーマルでもこのハンドリング、完璧にFFスポーツカーの動きです。
しかしAE86やシビックといった峠で人気の車種に隠れ、一般的にいえばやはり不人気で最終的に生産終了、シティという車種も終了してしまいました。
シティその後
その後しばらくたって名前をロゴとして再出発、中途半端な拡大化と中途半端なデザインで、不人気さはそのまま、モータースポーツで使われたGA2とは異なりスポーツ性もなく、誰からも振り向かれることなくこれまた生産終了、ロゴという名前も終了します。
起死回生はその後に出たフィット。
もともとフィットはGA2シティの1グレード CEの、特別仕様車 CE fit にそのルーツがあります。なんのとりえもないけど、そこそこオシャレでそこそこのお値段で、そこそこの実用性というのがCE fitの狙いでしたが、それを際立たせたのがフィット。大ヒット車種となって、今ではホンダの看板車種なのはご存じのとおり。
その後シティはアジアでセダンとしてネーミングが復活しています。
GA2シティ・スペック
なにがひどいって、GA2は2代目シティのマイナーチェンジモデルとなり、ホンダ公式サイトでも写真、スペックが掲載されていない点ですね。ホンダも忘れてしまったようです・・・もちろんホンダ・コレクションホールにも展示されていません。
シティ(ホンダ CITY)CZ-i(1992年10月)のカタログ・スペック情報、モデル・グレード比較 (HONDA CITY 2002585) | Goo-net自動車カタログ
全長×全幅×全高 3605×1620×1335mm
ホイールベース 2400mm
車両重量 780kg
最高出力 100ps(74kW)/6500rpm
最大トルク 11.6kg・m(113.8N・m)/5500rpm
タイヤサイズ 175/60R13 76H
3605mmという短い全長に、2400mmのロングホイールベース、タイヤはほぼ四隅に追いやられているためオーバーハングはほとんどなく、マスが集中、慣性モーメントがとても小さいです。
車高は1335mmと、当時のスポーツカーがだいたい1290mm前後だったことを考えるとそれに近い数値。
全幅は5ナンバーめいっぱいの1690mmではなく、70mm短いため狭い道での取り回しもラクラク。ジムカーナの狭いパイロン区間でも本領発揮です。
そして何よりの特徴はその車両重量、たったの780kg。
この数値は 1600ccターボの MINI Clubman 1280kgと比較するとなんと500kgも軽量。500kg!?
私の体重が62kgなので、なんと8人分!
軽くしたといわれるNDロードスターの990kgと比較しても210kg、3人分軽量。
S660の 850kgと比較しても70kg、1人分軽量。
最近でたアルト・ワークスでようやく 670kgとGA2シティを110kgほど凌駕しますが、幅は15cm狭く、車高は17cm高いです。そしてアルト・ワークスが64馬力に対し、シティのパワーは100馬力。
このスペックだけでも、GA2シティのポテンシャルが伺いしれると思います。
モータースポーツユースで考えると、燃費、タイヤ代が気になります。しかしシティは軽量で小排気量のため燃費がよく、街中で14-15km/L、高速移動では20km/Lをマークするほどでした。
また軽量のおかげでタイヤもほとんど減らず、特にリアタイヤは練習、本番、移動とずっと履きっぱなしでも2年2万キロたっても減る気配すらみせないほど。フロントも1年に1度かえる程度で維持費もミニマム、お金のない学生や新入社員でもモータースポーツできる唯一の車種といってもいいです。
ペラペラのボディ
安くて軽くて速い、がGA2シティの売りですが、気をつけなければならないのはその軽量さゆえのペラペラのボディ。当時のホンダ全体がそうなのですが、衝突安全性に夢をみてはいけません。
多少新しめ、上位車種のEG6シビックですらこの状態。
レーシングカートに屋根がついた感じ、と考えた方が良さそうです。実際しなるし...
二度と現れないGA2シティ
衝突安全性のことを考えるとこの時代を含めて、それ以前の時代のクルマはもう絶対に成立しません。FIAT500、MINIにしても新しい世代が大きく重くなっているのは衝突安全性や快適装備を兼ね備えているため。それでもデザインのフィロソフィーやスピリッツを失っていないのは流石と思わせます。
GA2シティはホンダのエントリカーとして、そしてモータースポーツ入門として光り輝く存在でしたが、クルマ離れする現代、モータースポーツへの指向も少なくなり二度とこういったホンダ車は出て来ないのでしょう。S660もデザインはいいのですが、「スポーツ」の意味するところ、定義が違うように感じます。
ということで、GA2シティは珠玉の名車なのです。