日本人の原点は米、米が創る日本のGT-R:日産GT-R 水野和敏氏インタビュー(3)
2012.12.31「かくしてGT-Rは創られる:日産GT-R 水野和敏氏インタビュー(2)」のつづき。
開発責任者、水野和敏氏インタビューもこれで最終回。GT-Rの本質とは何か、に迫ります。
日本人の原点とは米
日本人が作る日本文化の結晶としてのGT-R。ではその原点とはなんでしょうか。そんな疑問をぶつけてみました。
野間:日本人の原点とはなんでしょう水野氏:米! (即答)
そしてこう続けます。
米があるから待てる。 日本人は能天気、気長で計画的。革命も起きない。 なぜなら「待つ」という習慣があるから。 米は1年たたないと収穫ができない。 肉はその場で終わり、特性が違う。米を作るには田圃、つまり計画的な土地が必要。
そして計画的にモノを作るのが日本人の特性となった。
焼畑は計画性がない。
棚田は日本人の最高傑作である。
日本の歴史は米の歴史でもあります。初代天皇、神武天皇は稲作を広めながら日本統一を進めたことで日本国となりました。
▼高千穂:天岩戸神社(西宮)は天皇のルーツにして、米作のルーツだった ([の] のまのしわざ)
その後も米は日本における貨幣価値であり、基本単位、時間、重さ、大きさ長さの基本となったのです。どれだけ米に依存した社会構造かということがよくわかります。
この稲作で培われた日本人気質とは、待つ、ということ。どんなに慌てても腹が減ろうと何しようと米は半年たたないと実を結びません。そしてその稲穂を得るためには水田、水を入れて、抜いてを綿密に行わなければ根が腐ったり、収穫できなくなってしまいます。棚田は水をためることも、そして抜くことも容易だったのです。
この計画を立てること、待つこと。ごはんを炊くのもそうでしょう。
はじめちょろちょろなかぱっぱ、赤子泣いてもふたとるな
計画遂行の途中で蓋とったら台無しなのです。待つこと、手を出さないこと、そうすれば美味しいお米が炊けるのです。
スーパーカーは兵器と同様、国民性の幻想の集大成なのです。イタリア車が情熱的で官能的であり、ドイツ車が精緻で機械として正しく、イギリス車が貴族の歴史あるスポーツマインドを感じるのはそこに国民性が反映されているからこそ。そうであれば日本人が日本のスーパーカーを作るときに何が反映されるのか。
計画的に作ること、待つこと、稲作から日本人はそれを学んでいます。
米が評価されようと評価されなくても、品種改良し次の年に新しい米を出すのと同じように、GT-Rは毎年モデルチェンジを繰り返します。作っているものは米は米、GT-RはGT-R。いずれも一見同じです。しかし味わいは品種改良によって、イヤーモデルチェンジによって変化しているのです。
それが日本の、日本人の作る、スーパーカーの作り方です。
まるで新米が収穫できる時期に合わせたかのようなGT-Rのイヤーモデルチェンジ。これこそが日本人の作る、いや収穫するスーパーカー。パンもいいでしょう、パスタもいいでしょう。しかし日本人なら米と味噌汁。毎日食べる主食は飽きがきてはいけないのです。1年365日、毎日食べても飽きないもの、それが主食。
クルマも同じように1年365日楽しく、壊れず走れるのが大事。冬しまっておくのが従来のスーパーカーだとすると、マルチパフォーマンスカーを標榜するGT-Rは、例え雪であろうとガレージにしまうことなく走ることができるのです。
GT-Rは米だったのです。そして米がGT-Rを作ったのでした。
スピードは刻の涙をみるか?
新東名高速は設計速度140km/hだったにもかかわらず、警察が「前例がないから」という日本的、お役所仕事的な理由により、不当に100km/hに規制されています。本来規制は最小限でなければならないのに、危険防止でもなく、事件の未然防止ではなく、まさに権力の横暴といってもいいもの。
もしこれが正当であるならば逆に国土交通省が税金を無駄に使って過剰品質の道路を作ったことになります。100km/hでいいのであればもっと安い工事費で済んだはずだからです。
そんなわけで縦割りの弊害、チグハグな新東名高速道路ですが、それでもこれができたことにより旅行時間が短縮されています。
水野氏は振り子電車から着想し、GT-Rのプラットフォームを設計しましたが、電車はお好きなのでしょうか。
電車? きらい。乗らない。
新幹線のいけるところは全部クルマでいくよ。
福岡や四国まで。
だってクルマで疲れるのが嫌なら疲れないクルマを作るのが、自動車屋の使命じゃない。
まさに単純明快な答え。GT-Rであれば例え九州であっても楽に行けるとのこと。以前自動車で正月に熊本に帰省しましたが、随分と疲れました...その時はS13シルビアでしたね。
よりスピードを、というのは人類の基本的欲求のひとつ。速くつけば速く餌にありつけるから。
走ること、馬にのること、自転車、自動車、パワーボート、そして音速機。
どのジャンルにしても常にスピードを追い求めています。速くなれば当然ですが目的地まで早く着きます。ここで速さ=時間という単位に変わるのです。
新幹線にしても最高速度が上がった、ということよりも、東京-大阪が何分短縮できたか、という時間で速さを表現します。
楽にいける、というのは乗っている時間が短いことでもあり、時間短縮には速さが必要なのです。
速いと危ない、のであれば新幹線は都電よりも危ないことになりますが、実際にはそうではありません。速さに見合った安全性が確保されています。
クルマも同じことで、GT-Rは万が一があっても止まるブレーキがついており、高速走行ができるスタビリティがあり、300km/hでバーストしても安全にピットまで戻ってこれるランフラットタイヤがあります。速さ=危険ではなく、速さ=安全なのです。そしてその結果、新幹線と同様に安全で楽に目的地に到着することができます。これがGT-Rのもつ懐の深さなのです。
結び
これまでGT-R 2012年モデル、2013年モデルの試乗レポートをお届けしてきました。その数なんと
これほどまで色々と書けるクルマは今までにありませんでした。それは機構や技術という側面だけではなく、開発に携わった人たちの理念であり、情熱であり、そしてその結果であるからに他なりません。
クルマは工場で作られる工業製品、量産品ですが、設計から開発、製造まですべて「人」が関わっています。そしてその人とは「日本人」です。
日本人が作る世界のためのスーパーカー、それがGT-Rです。これを日本人である私たちが応援しないで、どうしようというのでしょう。なぜなら日本代表選手ですよ、米ですよ。
不平不満もあるでしょう、しかし米だって毎年品種改良して今のような極上のお米があるのです。GT-Rも毎年のモデルチェンジでどんどんとよくなる、もう古米なんて食べられない! と初期型GT-Rから最新GT-Rに買い替える方も多いことでしょう。
もうひとつ重要なこと。
それは日本語という言葉。
世界のスーパーカーの中で、開発責任者の方と同じ日本語という母国語でお話ができること。
フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ。世界には色々ないいクルマがあります。しかしイタリア語もドイツ語も分からない生粋の日本人としては、ネイティブランゲージとして日本語で熱く語りかけてくる水野氏の言葉はひとつひとつ重く、そして噛みしめれば噛みしめるほど味わい深い、お米のようでした。
お米文化のひとつの結晶がGT-R、といっていいはずです。最新のお米、いやGT-Rを味わうのは日本人ならではの特権です。
(おわり)
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