9月30日で本館展示休止する「船の科学館」はまさに「船の科学」だった
2011.08.25いつまでもあると思っていたのに...
お台場に来る時の駐車場はいつも「船の科学館」。理由は最初の1時間300円、その後30分100円と安くこと。6時間までなら1日料金1500円より安くなり、お台場ガンダムを見に来たときはよく使っていました。でも船の科学館には入ったことがなく。そうこうしていたら9月30日に本館展示休止するというじゃありませんか。
今回「実物大ガンダム・パーツ展示」を見たあと、ついに入場・見学してきました。
船の科学館ですから、いきなり船の科学から入ります。実物大のエンジンがドーン。こちらは並列3気筒の三菱UEディーゼル実験機関、1気筒あたり1350馬力を発揮。ええ、1気筒あたりです。ちなみにターボがついてます。
ターボもでかい!
内部がわかるように分割されていますが、フィンの大きさがでかいです。ここに排気が入って吸気を圧縮するのか...なんだか眩暈がします。
しかしモノがでかいだけで基本は普通の内燃機と変わらず。そういう意味では理解だけはしやすいです、大きさを除いて。
でかいフライホイールと、カムギアトレイン。チェーンとかベルトではありません。
でかいコンロッド。人の身長以上あります。
その横に鎮座するのはガスタービンエンジン、つまりジェットエンジン。そうです、船もジェットで駆動できるんですよ。
ジェット飛行機と違い排気はそのまま排出し、ファンの回転軸をプロペラにつなげて駆動します。まあただですね、音がジェットエンジンなんですよ。「キーーーーン」という甲高い音でやる気にさせます。
そうです、船でもスピードが正義なんです。
スピードアップはすなわち目的地へ速く到達することを意味するのでパワーアップ、速力アップはまさに「船の科学」の関心の高い領域。そのため20世紀は船の速力アップに奔走します。
まさに60年代科学の集大成、テクノスーパーライナー構想。実際に実験船が作られ、面白いことにそのどれもが当初の目的、性能を発揮できます。
さらに推進器がエンジンから超電動電磁推進へ。コンバトラーVっぽいですがつまり電磁波を海水に直接作用させることで推進力Fを生もうというのです。
ヤマト1 - Wikipedia電磁推進の基本原理
フレミングの左手の法則という電磁気学の法則がある。電磁推進はこの法則の応用である。推進装置は磁力発生装置と電流を流す装置から成る。磁力発生装置により、船底付近で海水中に磁場を作り、この磁場に直交するように電流を流すことによって導体(海水)にローレンツ力が働き、海水を押し出す。これによって船に推進力が得られる。
エンジンがないことで騒音・騒音がない、スクリューがないことにより水が船内に進入しない、キャビテーション(気泡)がなく効率がよいなど、いいことづくめです。
その実験船の名は「ヤマト」。もう名前からしてヤバい雰囲気が漂ってきますけど...
無事航行実験は成功。しかし。
超伝導電磁推進船のその後について - 物理学 - 教えて!goo事実日本の超電導電磁推進船ヤマトは
のろのろ運転(時速20キロ以下)しか
できませんでした。
テレビなど報道では、理論的には時速200キロ
まで出せるとされていましたが、この理論的と
いうのは、海の塩分濃度が理想的な濃度で
全海域で一様というような、ありえない
仮定の話だったんです。
ヤマト1 - Wikipedia実現に関しての諸問題
実現に向け推進装置の小型化対策
超伝導電磁石の冷却に液体ヘリウムを使用するので、推進装置全体が大型になる。推進装置重量が増す事により排水量185トンクラス[7]でありながら、定員は10人と少ない。推進装置の出力対策
通常型船舶並みの出力を得るには少なくとも20~30テスラが必要であったが、技術的に不可能であった。また搭載された推進器でさえ搭載限界重量であった。
強烈な磁場を外へ漏らさない対策
磁気漏れを防止するための遮蔽材が必要となるため船体重量が増す。船殻は磁気の影響を受けないアルミニウム合金が採用されているが、反面アルミ合金であるため衝撃や歪みに弱く、艤装は船体を海面に浮かべてからでないと行なえないなどのデメリットが発生する。
冷却対策
超伝導電磁石に超伝導状態を作り出さなければならず、専用冷却装置を装備しなければならない。液体ヘリウムは高価であり、保管も専用施設が必要になる。これに付随した問題として、航行前に推進装置を予冷しなければならず、試験航行前の予冷は約10日間を要した。
同様に電磁力を推進力にかえるリニアモーターカーは実用化されましたが、超電動電磁推進の前途は多難ですね。
それでもまだまだ続くヤマト・パート2。高温超電導推進船ヤマト2の製作はこちらから
大人の科学実験村 | WEB連載 | 大人の科学.netそれから、西脇主導で船の水流を確かめるため超電導回転寿司実験開始。準備していたプールに船を沈め、西脇がスイッチを押すと、ああ、そしたらどうだ。ヤマト2の船尾ダクトから水流が発生し始め、浮かせてあった寿司皿がゆっくりと動き出したのである。
金子助役、腰を抜かした。世界最先端の超電導技術を使用し、ここまでバカバカしい実験をやったのは西脇が世界初であろう⋯と。
岩田先生と岡崎氏がマグロの赤身に箸を伸ばす。自分とは脳ミソ構造が格段上の二人が子どものように面白がっている姿を見つつ金子助役、体温が低下していくのを感じた。もしかしたら、高温超電導と電磁推進を合体させた超省エネによるビジネスの新しい世界を、今、目の前で主任の西脇がやって見せたのではないか⋯と思ったからだ。
一点深く集中のエンジニアと広く浅くの編集者の知力が合体したときに、爆発的なヒット商品が産声をあげる。西脇はひょっとすると⋯と呟きながら金子助役が海苔巻き卵を箸でつかみ、口に入れようとした時、西脇が言った。
「その卵には、塩素を含んだ海水がついたので食べないように!」
口を開いたまま固まった金子であった。
もはやデイリーポータルZになってます。ヤマト、愛の戦士たちでやめておけばよかったのに...
それはおいといて船の高速化に対するアプローチは1990年代に一旦途絶えているようです。これにはいくつか社会的背景の変化があるでしょうが、一番大きなものとしては物流および人流の主役が自動車・飛行機に移ったことです。国内では高速道路網の整備、そして自動車の性能向上。国外へは飛行機チケットの価格低下。この2つにより船による輸送は輸出入の物流に集中することとなります。
物流の場合は速度よりも積載量やコスト、輸送費の低減が優先されます。そのような事情が重なり、夢の高速船は一部を除き頓挫してしまいました。高速船なっちゃんRERA、WORLD、小笠原テクノスーパーライナーなどはその好例です。いつの時代も技術だけが正義ではない、ということでしょうか。ハイテク好きとしては寂しいものです。
船の科学がまた進化すると面白いんですけどね。新しい船の科学館の到来と一緒に待っています。
▼船の科学館 公式ホームページ(Museum of Maritime Science)
船の科学館では科学だけでなく、貨物、漁業から海上保安庁、海上自衛隊、江戸時代の船に至るまで多彩な展示と解説でとても興味深いです。ぜひ今のうちに見に行ってくださいね!